進軍のヴォカリーズ(13)
「坊ちゃんでしたら、呪いを解く他の方法を考えてくださりますよね? お身体を傷つけたり、お命を奪ったりはなさいませんよね?」
ロロは元々、争いや暴力を厭う性格だ。今回はいつにも増して過敏になっている気がする。
「坊ちゃん……!」
「そうだね。解き方を調べ尽くすよ」
胸を撫で下ろすロロに、私は全て言っても構わないか逡巡した。
「呪いをかけたお方に、やめていただくようお願いしてみませんか? 凍えたお心を温めて差し上げましたら、きっとジゲンが再び平和になれます」
彼女は恵まれていた。牙や毒を持たない、思いやりのある者達に囲まれて生きてきたのだ。いずれジゲンⅡを治める彼女の為を思うなら、今、耳の痛い言葉を届けるべきではないのか。
「考えるには、時間が必要だ。逸話篇の王も、そのつもりだっただろう。けれども、教皇の命と名誉がかかっていたんだ。早く解決するには、呪いをかけた者を切るしかなかったんだよ」
失意に陥られても、撤回するな。悪意など全く含まれていないのだと、きっと気がついてくれる。
「説得も方法のひとつだが、皆が皆、話を聞き入れてもらえるわけではないよ。痛めつけなければ満足しない人もいる。それにね、心は一日、二日で変われない」
「坊ちゃんは、王様の行いを正しいとお考えなのですか……!?」
ロロの双眸に、憤怒が煮えたぎっていた。
「大人になられて、見方が変わってしまわれたのですか?」
質問に答えるよりも、新しい視点を教えてあげなければならない。
「ロロ、こうしている間にも、現教皇がランクを下げられている。大切な師匠を、横暴で愚かな人だったと未来へ語り継がれたいか?」
涙を堪えて、ロロは明確に「嫌でございます」と返事した。
「自分の信条に背かざるを得ない時は、誰にも訪れる。最善の方法は、自分にとって良いものとは限らないんだ」
ロロは、唇をきつく結んだ。こうなれば、梃子でも動かない。従順なようで、案外、頑固者なのである。
「あの時、坊ちゃんは賢さとひらめきで、寿命を縮めずにゲートを封じられました。ですから、今回も、わたくしめには思いつけない方法で、逸話篇と同じ終わりを避けてくださると、信じておりましたのに……!」
髪を振り乱し、ロロは両手で顔を隠して飛び出して行った。




