進軍のヴォカリーズ(9)
新校舎と旧校舎とを繋ぐアイボリーの通路を過ぎ、薄暗く冷気が漂う旧校舎に入った。廊下の色がチャコールグレーであるため、重々しい雰囲気を作っている。
職員室へ最短で向かうなら、新校舎の階段を下りれば良い。美術準備室の鍵を返却するだけで、なぜ遠回りするのか。
旧校舎を巡りながら、頭の中を整理すると、新たな知の道筋が浮かぶのである。当校に異動して以来、習慣としている。
一点目は、校内で流行った白いゼムクリップのおまじない。決まりを守れなかった生徒が、何かに襲われた。庇った目白先生は、ジゲンⅡの医師に、ジゲンⅠとの「ジゲン差過剰反応」だと診断された。
二点目は、目黒先生の家族。先生の養子が、本校の留学生として、二年三組に近々転入する。彼は、ジゲンⅠが所有しているゲートを持ち出した疑いがある。彼の実父である、先生の弟が唆したのではないか、と先生は推測されていた。
三点目は、ジゲンゲートの暴走。私達スクエイアが感じたオーラは、マイナスであり、人工のゲートが暴走したことを示していると、跡見さんが教えてくれた。
最後、四点目は、教皇の身に起こった危機。マホーの使用許可ランクを下げてゆく呪いをかけられた。複数の白い針金が、教皇を襲ったとロロから聞いた。住人を案じた教皇は、辛うじて目黒先生に緊急事態であると伝えている。
全体を見通すと、どれもジゲンⅠが、他ジゲンに干渉している。そして、目黒先生の弟に関連しているといえる。
「動機は何だ?」
王位に即けなかったことへの怒りが頂点に達したのか? 迫害を受けてきた恨みを晴らすためか? ジゲンゲートを暴走させてまで得たいものとは?
「ゲートと、この件を起こした者を探さなければならないな」
スクエイア全員集まる機会を設けよう。早速、今日の放課後にでも……。
「これは?」
窓側の壁に、マークが書かれていた。地図記号の港にしては、アンカーリングと、フリュークが足りない。白い絵の具だろうか、大胆な落書きをしたものだ。
「雑巾、雑巾……」
近くの手洗い場に掛かっていた一枚を使い、拭こうとしたところに、折り紙の舟が遮った。
(触れないで。今度はあなたが白い棒になるわよ)
蒼い折り紙に乗せて言葉を届けてくれる人物は、彼女しかいない。




