進軍のヴォカリーズ(8)
「目黒先生の分身と似た大きさだった?」
「はい」
「数はどのくらい?」
ハンカチで頬を拭ってあげる必要は、無かった。
「十一本ございました。教皇がひとりで祈りを捧げていた時に、襲われたと伺っております」
それでこそ、ロロだ。教皇が側において育成する理由が分かる。
「命に関わる呪いなのかな」
どうか、外れてほしい。
「マホーが使えなくなってゆくのだそうです。ランクをだんだん下げられて……」
「1より低いランクは、存在しなかったね」
ロロが小さく頷く。
「昔、大聖堂の賢者に教えてもらいました。役目を終えた方は、泡となって消え、単なる絵としてジゲンⅢに残ります。マホーを失った方は、消えるだけではございません……」
想像するよりも、彼女の話を聞きたい。
「悪い評判がずっと付くのでございます。どれほどジゲンのため、誰かのために尽くす生き方をされても、無かったことにされてしまうのです」
「三代目教皇やその側近達は、マホーを失った可能性があるのか?」
ロロは目を瞬くも、時間をおかずに平静を取り戻した。
「坊ちゃんは、ジゲンⅡの歴史にもお詳しいですね。『暴君』、『圧政の劇団長』と呼ばれていますが、賢者が見直しのために資料を集めております。数万人に一人、史実と食い違う話をした方がおりました」
「真実を失わないでいる者が、稀にいるんだね」
「はい。今の教皇は、全てのジゲンが幸せであれと祈り、住人のために身を削っております。ですから……」
君を見ているだけで、教皇が民にどれだけ慕われているか、充分伝わっている。
「呪いの解き方を調べよう。私が持っている文献や資料にヒントが無いか探すよ」
目黒先生へは「民を救ってほしい」としか書けなかったのだろう。思いの外、重篤なのかもしれない。
「わたくしめにもさせてくださいませ。教皇に坊ちゃんの元で学ぶよう言付かっております」
「ありがとう」
ロロに研究室の鍵を渡し、先に行って、呪いに関連するらしき文献等をピックアップしてもらうよう頼んだ。




