進軍のヴォカリーズ(6)
「それで、息子は、いつ登校するのじゃ?」
「明後日や。よりにもよって、ジゲン交流行事にな」
校内スタンプラリーか。全学年主任が知恵を絞って考えた「四つのジゲンが手に手をとって明るい未来へ駆けるきっかけ」である。
「粋な選択をしたものじゃな」
「こっちのジゲンやったら、赤飯を炊いてやるぐらいめでたいんやろうけど、俺らの仕事が増えてもうたんやで」
目黒先生は肘をついて、残りのカステラを頬張った。
「まさか、もてなすつもりかの?」
「冴えてるやんか、そのまさかやでー」
手を拭かずに臀部を掻かないでいただきたい。カステラと奥さんへの冒涜だ。不潔であろう行為に、生徒達が「かわいい」「和む」と評している理由が分からない。
「言うたんは、俺ちゃうで。教頭と主任や。だらだら理由つけてたけど、とどのつまりは王子様やから丁重に扱わんとあかんやろ、やって。いかにも公務員の発想やろ? ガッチガチ過ぎて彫るとこないな!」
版画家としての見解を述べてくださっているが、ご自身も同業であることをお忘れなく。
「気を遣わせては、わしが困るのう。二人に止めるよう直々に頼みに行くぞよ」
「よっしゃ、助太刀したる」
戸締まりを任された私は、謙虚な大王と情に篤い芸術家を見送った。




