進軍のヴォカリーズ(3)
聡いな。生徒と接してきて相応に場数を踏んできたか。
「父との別離を重ねたのでしょう」
「お父様が……」
「幼い頃、ジゲンゲートの彼方へ吸い込まれました。失踪扱いを経て、死亡したとみなされました」
「つらかったですよね……」
何をしている。目にごみが入っていた、など、ごまかせば良かったのだ。
「近隣に、親代わりをしてくれた人がいましたので、それほどでも」
「誰か一人でも、ついていてくださったら温かくなりますよね」
ここが、と、目白先生は胸を指した。
「大切な人……特に家族を失うことは、吹雪の中にぽつんと残されたようなんでしょうね」
白く光る窓へ、彼女はゆっくり視線を移す。
「私は、初めからいなかったので……鶯谷先生に寄り添いたくても、できないんです」
癖なのか? 彼女の背景によって形作られたものなのか、儚げに眉を歪ませるのだ。
「どうしたら、先生の灯火になれますか? どうしたら、先生に温もりを届けられますか?」
目を背けられない。調子を狂わされてばかりだ。苛立ちと似て非なる感情が、こみ上げる。
「ねえ、先生……?」
始めから答えを他人に求めるな。私に寄りかからないでほしい。
「あなたの選択が、最善策なのではありませんか」
私は早口で返して、具合を確かめにきたジゲンⅡの医師と入れ違いに、処置室を出た。




