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進軍のヴォカリーズ(2)

「すみません、付き添っていただいて」

 目白(めじろ)先生は俯いて、左手首より下方を撫でる。小さな文字の羅列が縫われた、サルファーイエローの包帯が巻かれていた。

「経緯を説明できる者が、必要でしょうから」

 担当クラスの生徒を守ってくれた礼も兼ねている。本来、その役割は私が果たすべきだった。

「びっくりしました。こちらに、ジゲン(ツー)のお医者様がいらっしゃったなんて」

 私も予想していなかった。ジゲン(スリー)の中で最も保守的な我が国が、早くも他ジゲンの住人を雇っていたとは。

「ジゲンⅡは、治療に長けています。また、献身的な気質があります。どのジゲンにおいても、心強い戦力です」

 包帯の色と、ひと針ひと針祈りを込めた文字が、目白先生の怪我を癒してくれるだろう。

「ジゲン差過剰反応(さかじょうはんのう)、でしたよね? 初めて聞いたので、説明になかなかついていけなかったです」

「異なるジゲンの人物が触れ合った際に、稀に起こります。アレルギーに近いものでしょう。目白先生はジゲン(ワン)の物を受け付けられなかった」

 目白先生が、包帯で丸まった左手を挙げた。

「頑張って受け付けようとして、私の手がジゲンⅠと同じ形になった、ということですね」

「お見込みの通りです」

 屈託のない笑みを浮かべて、目白先生は処置を施されていない方の手を胸に当てた。

「早くて二日後には治ると医師より伺っています。それまでは利き手が不自由なため、業務に支障が出るかと」

 巻かれた長い髪が、左右に振れた。

「休みませんよ、私」

 空元気はやめていただきたい。周囲に負担をかけ、自分自身の首をも絞める結果になる。

「両利きなんです。無理なんて、していないです」

 子どものように澄んだまなざしを向けないでもらえないか。

「気遣ってくださっているんですよね。とても感謝しています」

「感謝される程のことは何も」

 私の心に錠前が付いているならば、彼女は鍵である。たとえ鍵穴に合っていなくとも、その奥から本音を引き出そうと奮闘する。褒めるなら「不屈の精神をお持ちの方」、貶すなら「諦めが悪い人物」だ。

「鶯谷先生」

 急に彼女の声が、改まったものに変化した。

「私の手を見て、どうして泣きそうなお顔をされたんですか」

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