開戦のヴォカリーズ(15)
音楽室の前を歩いていたロロは、不意の寒気に襲われた。
「ジゲンゲート……!」
スクエイアに選んでくれた教皇から、聞いている。ジゲンゲートのオーラは、スクエイアのみが感じられる。そして、オーラはプラスとマイナスの二種類だということを。
「マイナス……? 自然に起こった暴走とは違うのでございましょうか」
スクエイアの初仕事を終えて、感覚が鋭くなったのかもしれない。布一枚でも良いので、寒さをしのげる物が欲しい。
音楽室側の壁に身をもたせかけていたら、先生らしき女性が来られた。
「まあ、あなたは」
様子がおかしいことにすぐ気がつき、女性は着ていたカーディガンをかけてあげた。ミルクのような白だった。
「保健室で休みましょう」
ロロは、慌ててまっすぐ立ち上がった。
「もう充分休ませていただきました! お心遣い、ありがとうございました」
「鶯谷先生のご家族よね?」
「真坊ちゃんとは、家族のように親しくさせていただいております」
続けてロロは、簡単に自己紹介をした。
「そうだったの! はるばるとジゲンを渡って来たのね。お疲れ様」
女性は、首に掛けている名札を見せた。
「目白先生、とお呼びしてもよろしいですか」
「どうぞ」
ロロは改めてお辞儀をした。
「坊ちゃんがいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ鶯谷先生にはたくさん指導いただいています」
目白先生も深々と礼をして、お互いに微笑んだ。
「まだ寒い? 最近、夕方から急に涼しくなってきたものね」
「おかげさまで暖まりました。お召し物をお返しします」
ロロは慣れた手つきでカーディガンをたたみ、目白先生へ差し出した。
「しばらく持っていて。のどが渇いたの。ちょっと付き合ってくれる?」
頬に人差し指を当ててウインクした先生が、ロロは失礼ながらもチャーミングに思えた。
「かしこまりました!」
バレエを踊るように進む先生に、しっかりお供するのであった。




