開戦のヴォカリーズ(14)
「今度はどのジゲンに封じられたゲートかの?」
ゲートは百年前当時の「鍵を持つ人」が、閉じて各ジゲンに隠した。
(最年長のあなたなら、詳しいはずよ)
「わしにも知らぬことはあるぞよ!」
目黒先生が無知を装っているとは思えない。冗談めかす余裕が見られなかった。遠回しに訊ねるか。
「ところで先生、スクエイアではない者が、ゲートをノーリスクで移動させることは可能でしょうか」
髭に覆われた頬と顎を掻いて、目黒先生は答えた。
「できるわけ無かろう。天文学的数字な確率じゃと信じておるが、できたとしたらジゲンⅢのスクエイアが思いはどうなるのじゃ。身を滅ぼして全ジゲンと住人を守った行動がいとも容易くなぞ、わしが認めぬ」
折り紙の烏賊が私に、踏み込んでと訴えている。
「愚問でした、すみません。先日、噂を聞きまして。ジゲンⅠに封じられていたゲートが、何者かによって運び出されたそうです」
目黒先生は片足を踏み鳴らした。
「断じて有り得ぬぞ。ゲートは、息子に警護を任せておった。あれが留学する際、分身を作り引き継がせておる。曲者の撃退はお手の物じゃ、わしが戦術を授けたのじゃからの」
(任せていた彼が、関わっているかもしれないのよ?)
語りかける蒼い烏賊を、目黒先生は墨汁が染みた手で引き抜いた。
「子には皆、国だけは裏切るなと教えておる! 特にあれは、わしの為す事言う事を礎にしておったのじゃ」
私は少し安堵した。目黒先生は関与していないようだ。
「脅しに怯まぬ子じゃ、また、付け込まれる弱みなぞ」
急に先生が静止する。
「一つあるやもしれぬ」
そして屈み、床に落ちていた物を拾い上げた。修正液またはマーカーで白く塗られた歪な針金だった。
「実の親じゃ」
私は、無敗の王に引け目を感じさせる存在の名前を知りたかった。




