オリエンテーション
異なる種族・国籍・身分の恋愛は、悲しい結果で終わるケースが相場である。
ジゲンにおいても、例外ではない。線と黒の世界・ジゲンⅠの女と、平面と黄の世界・ジゲンⅡの男が、共に生きようと誓いを立てるも、互いの世界が戦争を起こしたため、火と瓦礫に呑まれ、亡骸として分かたれた。ジゲンⅡと、私達が住む立体と緑の世界・ジゲンⅢの駆け落ちは、奇病の伝染により結ばれることがなかった。
上述した例は、言い伝えである。しかし、異なるジゲンに住む者達の恋は、大衆の風当たりが強かった。両人の間に生まれた子も免れなかった。私の親父は、ジゲンⅡとジゲンⅢの住人を両親としており、生前、周囲に好奇・羨望・嫉妬など様々な悪意を抱かれてきた。あっけらかんとした性格の背景には、これまで耐えてきた痛みがあったのだと、日記から最近知った。
現在では、異なるジゲンの恋愛及び結婚が増加傾向にある。寛容な者が多くなったためだろう。ジゲンⅢを除くジゲンにおいては、異ジゲン間の婚姻を認められるよう、法律が改められた。ジゲンⅢが遅れている世界であるかどうかは、個人に判断を委ねる。
それならば同じジゲンに住む者の恋愛は、成就しやすいのか。
ーあなたと出会えただけで、幸せでしたー
世界は、ままならない事柄に満ちている。