第七害 その時代に武士は沿わず
間に合っちゃうんだよね!
俺は今、闘技場の待合室に居る。
先ほど見た光景とほとんど変わらないそこには、筋肉質な男が、二人居座っていた。
「おいおい、正気か? Lepus。あいつはこのゲームの最強プレイヤーだぞ?」
俺の背後で長椅子に鎮座する筋肉は、オライオンだ。
俺の心配か、はたまたそのワクワク感からか、俺に話しかけてくる。
「まあ、負けようが勝とうがこんなチャンスは二度と訪れないかもしれないからな。折角なら相手になってもらおうかと思って」
「おいおい……お前も中々の戦闘狂だな?」
「オライオンこそ……身体中震えまくってんじゃねぇか……そんなやりたいのか? 奴と」
「そりゃな……俺はお前と違ってあいつの強さを知ってる。だからこそ、攻略したいのがゲーマーだろ」
そうか……やっぱそうだよな。
その達成感こそが、俺たちの動力源だ。
少なくとも、俺はそう思っている。
「ところでよ、どんなビルドでいくつもりだ? 俺に使った戦法は奴も見ているはずだ。同じ手は通用しねぇぞ?」
「そのことなんだが……ちょっと聞きたいことがある。オライオン」
「なんだ? 言ってみろ」
「……あいつって何使うんだ?」
至極単純で、至極真っ当な質問に、オライオンは横転する。
「おいおい、そんなのも知らないで挑戦受けたのかよ……」
「しゃぁねぇだろ! 今日が久々のログインだったんだからよ!」
「たく……しゃぁねぇなぁ……うーん、そうだな……」
オライオンは、話し始める。
「奴は、刀を使う。正確には太刀なんだが、まあ刀みたいに扱うから、奴の太刀は刀と呼ばれている」
「刀か……それで? 戦闘スタイルは、その刀で斬り伏せていく感じなのか?」
「まあ、大まかに言えばそうなる。ただ、それを対処することこそが難しい」
単純ゆえに厄介……刀を使う最強か……
剣神の名は伊達じゃないらしい。
「なるほどな……なら、これだな……!」
俺のビルドを見て、オライオンは驚く。
「おいおいまじかよ、そんなネタ武器……」
「いいんだよ。これで」
その言葉を聞いたオライオンは、少し頬を緩ませ、俺に激励の言葉をかける。
「ふっ……まぁ、全力で楽しんでこいよ。Lepus」
「もちろんだ。オライオンおじさん」
むさ苦しいアバターが居座る待合室を後にし、俺は闘技場へと赴く。
「……だから俺はおじさんじゃねぇ!」
闘技場には、すでに剣神が待ち構えていた。
ちょんまげ頭のその手には、刀が握られている。
今考えると、武士や侍みたいな格好してるなこいつ……
「やぁやぁ、遅かったやないか……待ちくたびれてもたで?」
「いやぁ、すまんな。お前を倒す構築を考えていたからさ」
「倒す……ははっ……おもろいこと言うてくれるなぁ? わてを倒すっちゅうんなら……それ相応の覚悟っちゅうのを見せてもらわんとな?」
両者、共に武器を構える。
奴が出したのは刀……それに対して俺が出したのは……
「へぇ……珍しい武器持っとるなぁ? 鎖鎌か……」
とことん時代にそぐわない武器だらけだな……このゲームは……!
昔はなんとも思っていなかったが、いざ知識が蓄積されていくと変な感覚が出始めるな……
開戦の狼煙が立ち上がる。
先に動いたのは、剣神だ。
「ほな……派手にさせてもらうで……?」
刀を納刀するかのように持ちながら、俺へと接近する。
「速っ……! くはない……!」
目で追えるスピード……いや、それどころか遅いな……やはりでかい図体が邪魔してるのか……?
「油断禁物! その刀を落としてやるぜ!」
俺は鎖鎌をぶん回す。
奴は納刀中……こいつで引っ掛けて落とすことはできない……なら……
「狙うはひとつ……!」
奴が抜刀したタイミング!!
奴の刀は言っても太刀……普通の刀より断然重いしでかい……それに、鞘も付いていない。
だから……抜いた瞬間に引っかける……そのために……!
俺は鎖鎌をぶん回し、投擲する。
その攻撃は、あたりはしなかったものの、奴を遠ざけることには成功した。
「近づけさせるわけねぇだろ!」
「ほぅ……距離のアドバンテージを取ってぶん殴る戦法っちゅうわけやね?」
奴の注意が鎖鎌に行っている。
良いぜ良いぜ……こいつに釘付けだ……
「さて……まだまだいくぜ!! 今度はこっちからだ!」
鎖鎌をブンブンぶん回し、剣神の懐へと接近する。
その行動に剣神は反応する。
「へぇ……自分から突っ込んでくれるんやね……なら……」
そう言いながら剣に力を込める。
「しめた! 今だ……!!」
俺は鎖鎌を投擲する。
それは、刀に巻きつき、刀の身動きを取れなくさせた。
「来たぜ! 封印成功!」
「やっぱりそうきおったかいね……」
そう言うなり、奴は抜刀モーションに入る。
おいおいまじかよ……まさかここからするって言うんじゃ……
「抜……刀!」
力強く振られたその刀は、持ち主の力に応えるように鎖を引きちぎった。
「おいおい……まじかよ……」
これが……ハンコ最強プレイヤー……!
「こんなもんかいな……興醒めさせんといてな?」
おいおいおい……変わっちまったな……このゲームも……
「まさかここまで差があるとか……思ってもねぇよ……」
ここで降参……?
いや、それは俺の趣味じゃねぇ……
鎖鎌は壊れた。武器としては使えない。
なら……あとはスキル頼り……!
「どうしたんや? まさか降参なんて言わん……」
「……こいよ」
「……ん?」
「かかってこいよ……全力を出してさ……! 全部受け止めてやるよ……!!!」
こうなりゃヤケだ……! 今回は記念受験! 割り切りゃどうってことはねぇ!
それに……こうやって焚き付けりゃ……!
「へぇ……なら……お望み通りとっておきを使ったるで……?」
そういうと、奴の刀身が少し銀色に変色する。
しめた……! まだチャンスはある……!
俺の持ってきたスキル……それは「カウンター」
奴の攻撃の一部を跳ね返す能力……!
ただ……タイミングがすごくシビアで、どう足掻いても後手に回る……ゆえに弱いスキルではあるが……
奴に勝つならこれしかねぇ!
「わての今回のスキルは鉄器化……単純に威力を上げるだけやなく、刀身を銀色に変色させて鉄の刀身に磨き上げるスキルや……この一撃は重いで……?」
「俺はな……今最高に楽しいぜ……! あんたみてぇな強い奴の一撃をもらえるんだからよ……!」
俺のその言葉に、奴が少し微笑む。
「はっ……おもろい奴やな……いいで……? 名前だけでも覚えといたるわ……」
「キョートだ……このゲームだと、Lepusって名前だがな……」
「わかったわ……その心意気を評価して……一刀両断……!」
「耐えろ……!! カウンター!!」
奴の刀身が俺へと倒れ込む。
刹那、斬られたような感覚が駆け巡る。
「くそっ……やっぱこのゲームはおもしれぇわ……!」
俺は奴に負けた。
このゲームは、倒れてもその場でリスポーンする……と言うわけではないが、インターネット対戦は別だ。
つまり……
「よう受けきったな……まあ、死んではいたみたいやけど」
俺は闘技場の真ん中で目を覚ました。
辺りには、歓声が飛び交っている。
「……あんたの剣技……すげぇな……リアルで道場でも通ってんのか?」
「あぁ、通っとるで? わての家は道場一家やからな。それよりも、あの咄嗟の判断で使うたカウンター……見事やったわ……おかげで体力がごっそり持ってかれたわ」
「まさか……カウンター決まっても尚耐えきれないとは……そこまでは予想できなかった……」
「あれはたまたまや。それよりも、どうやってそんな技術を手に入れたんや?」
「どうやって……?」
「このゲームのカウンターはクセが強すぎる。せやから、誰も使わんようなスキルやった。せやけど、あんたはそれをほぼ完璧に使いこなした。その秘密が知りたいんや」
「あぁ……それは、色んなゲームで反射神経が鍛えられてたからとか……それくらいだけど……」
「いろんなゲームってなんや? わてに教えてくれ」
……なんかグイグイくるな……
「最近だと……フロンティアグリーディアとか……」
「おぉ、フログリかいな! それならわてもしたことあるで? 最近はあんま起動してなかったけど」
まじか。こんなところにもフログリプレイヤーが浸透してるのか……!
このゲームしてるやつとか、レトロゲーに脳を焼かれたイカれ野郎しかいないと思ってたぜ……
「なら、また会えるかもな。フログリで」
「ちなみに聞くけど、そっちやとあんたは強いんか?」
「え? あぁまあ……それなり?」
その返事を聞くやいなや、目を輝かせながら俺は質問攻めをする。
「なら、フレンドになろうや。今すぐなろう! あんたならわてのライバルになれる! 今すぐやろう!」
「おいおい待て待て待て……まあ、フレンドは良いけど……会えるかは別だ」
「……まあ、しゃあないか……ほなら……また会おうな……フログリで」
「おう、その時はよろしく」
そう言うと、剣神は握手を求めてくる。
それに呼応するかのように、俺も手を差し出す。
「ほなまた……おおきに」
そう言いながら、機嫌が良さそうにどこかへと行く剣神。
それと入れ違うように、オライオンがやってくる。
「おいおい、派手にやられたみてぇだな」
「まあな……ただ……あいつが良いやつだってことはわかったさ」
また会えたら、面白いな。剣神ってやつに……
俺はその後、飽きるまで闘技場を周回したあと、ゲームを終了した。
剣神くんについて
彼奴はキョートがハンコをプレイしなくなった直後に現れたプレイヤーです。
なので、キョートことLepusは知りませんし、キョートも彼奴のことを全く知りません。
ただ、相性は良さげに見えるよね。