第六害 バグのバグによるバグなる技
書き終わった時の達成感は異常
俺は今、闘技場の待合室にいる。
ここでは、自分が使う武器や防具の選定、スキルの選択、そして、闘技場の様子が観察できる。
「おぉ……盛り上がってやがるな……」
俺の目の前にあるスクリーンには、沢山のプレイヤーで賑わっている。
どうやら、今日は今プレイしてる奴らのほとんどが来ているようだ。
「まさか……こんなに活気があるとは思わなかったぜ……」
武器選定の場所やスクリーン等、古代ローマ風を謳っているにしては近未来チックな機材が置かれているのには、ちょっとした黒い理由がある。
その昔、この待合室を出た瞬間にリスキルするという謂わば「初心者狩り」が横行していた。
その時、運営的には「出れるところを見れるようにしよう」となったそうだが、古代ローマにそんなものはないと四苦八苦したらしい。
だが、被害者は増え続けていた。
故に、緊急のアップデートと称して少し近未来的な設備を追加したのだ……そうだ。
全部、開発者インタビューで言っていた。
「さて……出るか……!」
このゲームは待合室から出たところから、殺し合いが始まる……
つまり、奴が出待ちしている可能性が大いにあるということだ。
このスクリーンで見れるのは観客席と俺の入り口の前だけ……経験者であれば、どこがカメラの死角かなんてのは一目瞭然……そこで出待ちしている可能性もある。
「……まあ、久々だし、もっと手加減してくれるよな!」
そんなことを思いながら、俺は待合室を出る。
待合室を出て、闘技場へと着いた俺を待っていたのは、筋骨隆々で棍棒を持った大男であった。
「遅かったな……Lepus。久しぶりすぎて色々戸惑っていたか?」
「まあそりゃ、6年ぶりくらいだからな……色々確認くらいはするだろ」
そう言う俺に、オライオンは不敵な笑みを浮かべる。
「俺は嬉しいぜ……? あんだけ可愛がっていたお前が帰ってきてくれたんだからな……」
「そんな可愛がられた記憶はねぇな……」
「んな!? おいおい、そりゃねぇぜ……昔いっぱい戦っただろ?」
「それを可愛がりというなら、あんたは終わってるぜ、オライオンおじさん」
「おうおう、酷いこと言うようになったもんだ……覚悟しとけよ……?」
俺とオライオンは、お互いを見つめ合う。
一挙手一投足を見るかのように……
開幕の狼煙が上がる。
「いくぜ……!」
先に動いたのはオライオンであった。
その体格に見合わない速さで、俺へと接近する。
「もらったぁ!」
「させるかよ……!」
俺は咄嗟に大剣を構え、奴の攻撃を防御する。
「チッ……仕留め損ねたか……」
そう言いながら軽々しくバックステップをするオライオンを見て、俺は確信する。
「そうか……あんたもうスキル使ってんのか!」
「あぁ、そうだな……良いだろ? このスピード」
「マッチョがゴキブリ並みに早く動かれても怖いだけだぜ! おじさんがよ!」
「だからおじさんじゃねぇ!!」
俺はすぐさま反撃体勢に出る。
大剣を構え、突進する。
「おっと……久々すぎてアマちゃんになってんじゃないか? Lepus」
「んな……?」
そう言いながら軽々しく避け続け、余裕を持つような表情のオライオンに、少しイラっとする。
「クソ……こいつ速すぎだろ……! てか、結論構成じゃなかったのかよこのビルド……!」
「おいおい、刺突型大剣なんて何年前の結論構成だ! こっちはもうとっくに6年も経ってるんだよ! 結論なんてコロコロ変わるぞ!」
オライオンは避け続けながらも、確実に俺にダメージを出す。
クソ……速さはなんでも解決するってのか?
「おいおい、お前のがおじさんみたいな動きだぜ? Lepus!」
「……あぁ……たしかにな……」
俺は刺突のしすぎでスタミナが底をつきかけ、大剣を杖代わりにして立つのがやっとであった。
その見た目は、さながら足腰の弱った老人の真似をした筋肉質の男という、少し面白い絵面へとなっている。
まだだ……
「まだおわらねぇよ……オライオン!」
「来いよ! Lepus!」
奴のHPは満タン……だが、それを一撃で屠る方法がある。
ただ……修正されてなきゃいいが……
「いっちょやってみるか……!」
俺は先端を奴の方へと向けて大剣を構える。
また同じ攻撃が来る……オライオンはそう思っているのか、先ほどの同じ体勢を取る。
「何度やっても同じだぜ……? そんな怠けた身体のお前に、俺は打ち砕けない!」
「そうかな……? どれだけ怠慢しててもな……杵柄は残ってんだよ!」
俺は突進する。
その行動に、奴はすぐさま反応し、バックステップを取る。
「またこれか! 良い加減飽きたぜ!」
俺は精神を集中させ、そのタイミングまでじっと待つ。
「そっちがこねぇなら……こっちが行くぜ……!」
痺れを切らしたのか、オライオンが攻撃を仕掛けてくる。
……きたっ……!
俺は目一杯力を込めて、奴が突撃するのを待つ。
剣先一つもゆれないこの構えは、このスキルじゃないとできない……
奴が振りかぶって直進する。
俺に攻撃を加えるつもりだろう……
「オルァ!!」
「かかったな! オライオン!!」
「なに!?」
オライオンが渾身のスイングを俺はとぶつける。
俺はそれを剣で受け止める……わけではなく、それを無視して剣先をオライオンへ向け続けた。
ギリギリまで引きつける。
まだ……まだ……まだ……
そして、"そこ"は来た。
「……ここだぁ!!」
俺は、奴の腹を目掛けて、剣先を刺し込む。
ここで、このスキル……「軽量化」が活きる。
普段であれば武器を軽くするだけの効果だ。
だが、それは相手視点では"みえない"。
つまり、どんなスキルなのかはわからないわけだ。
そして、このスキルは、特定の条件下で"バグる"。
その条件とは……「相手が攻撃モーション中、自身の軽量化している武器が刺突モーションをしている時」である。
そして……どうバグるのか……それは……
「必殺! 〈乱れ突き〉!!」
"何故か刺突モーションが30倍になる"。
一時期、このスキルが環境を変えていたくらいだったが、サーバー側の仕組みによりすぐに改善され使えなくなっていた。
が、このサーバーは有志のサーバー……
「こんな6年も前の古のバグ技……止めてねぇよなぁ!!」
「んな……!?」
俺は、一秒間に約120連打の刺突を奴に叩き込む。
それにより、みるみるうちにHPが溶けていき……
「かっ……ま……参った……」
奴は轟沈した。
歓声と郷愁の声が闘技場に響き渡る。
それは、昔見た古の技の使い手を見るような声であった。
「参った……まさかあんな古の技で負けるとはな……」
「いやぁ……まさか本当に直してねぇとは思ってなかった。俺も運勝ちだ。」
俺たちは固い握手を交わした。
それを見てか、闘技場に更なる歓声が沸き起こる。
そんな俺たちの元へと、一つの人影が近づいてくる。
「あんた……中々の使い手やな……」
「え?」
俺が振り返ると、そこに居たのは屈強な身体つきのちょんまげ頭であった。
……なんだこいつ。
てか、このゲームこんなスキンあったっけ?
俺は不思議な目でそいつを見る。
頭の上には、「剣神」と書かれていた。
漢字……てことは、最近入った系の人か? それとも俺の知らない古参勢?
そんな奴の姿を見て、オライオンは驚いたような顔をする。
「おぉ、剣神様じゃねぇか……珍しいな」
「剣神様?」
俺が聞くと、オライオンが答える。
「あぁ、こいつはな。今のハイドラの最強プレイヤーだ」
「……まじか」
俺がそう呟くと、ちょんまげ頭が言う。
「そやね……一応最強プレイヤーをやらせてもらっとるんやけども……単刀直入に言うで。あんたと勝負したいんや」
……挑戦状……いや、この状況だと、指名試合か……
「いいぜ……受けて立とうじゃねぇか」
その答えに、観衆が湧き上がる。
「……てか、オライオン。今ハイドラって言ったか?」
「んあ? 言ったが……」
「ハイドラ派は根絶やしにする……」
「なんでだよ!」