第三害 王と王子と王女に舎弟
眠気がぎり勝った。
〈ユニークモンスター 『怒仇の征獣王』レックス・イラベスティアと遭遇しました。〉
俺の視界に映ったその文字を見て、思考が停止したのを感じた。
……ユニークモンスター……!? このでっけぇ熊がか……!?
まじかよ……なんでこんなところで出会うってんだ……!
てか、レイってユニークモンスターの子供だったのかよ!? そんなの一個も聞いてないぞ……!?
困惑で頭がいっぱいの俺を見ていないのか、ユニークモンスターはレイの方を凝視し続ける。
「……お前さんは確かに…………レイ……」
怒りからなのか、ドスの利いた声が大広間に響き渡る。
「……まさか、ほんとに帰ってくるとはなぁ……レイよ……」
「で……でしゅ……」
緊張した空気が辺りを漂う。
もしかして……もうクライマックスか……?
そんな俺の心配は杞憂に終わった。
「よく帰ってきたなぁ! レイよ! お父さんは心配したぞ!」
「だぁかぁらぁ! くっつかないでくれでしゅぅ!!!」
そこには、レイを引き寄せて抱きしめながら涙を流すユニークモンスターの姿があった。
……ほえ?
な……なるほど……このユニークモンスター……親馬鹿なのか……
ヤのつく人たちみたいな見た目してやがるってのに、恐ろしさが感じられない……
そう思う俺の方を向いて、大きな獣は問いかける。
「ところで……キョートだったか。特別な客人と言っていたな……それもレイの……」
「えっと……まぁ……はい……」
先ほどとはうって変わり、重厚な威圧感がこの場を支配する。
やべぇ……なんだこの威圧感……!
さっきは親馬鹿ユニークモンスターかと思ったけど……威圧感でまともに動けねぇ……!
まさか……死ぬ……?
「まさかお前さん……レイの花婿ってぇ言うんじゃあねぇだろうな?」
突如言われた言葉に、俺の頭の中は真っ白になった。
…………ん?
「ちょっとお父様!? 何言ってるでしゅ!?」
レイも反論している。
そりゃそうだ。俺たちはそういう関係ではないし、普通にゲーム中に恋仲云々の話とかあんまりしたくないし……
「いやいやいや! そういう関係とかじゃなくて……」
そう口走る俺へ、レイの父親は更に威圧を強める。
「ほう……オレのレイが可愛くねぇってか……?」
その鋭い眼光は俺をしっかりと見つめる。
「い、いや、そういうわけじゃない……っていうか……ただ、どちらかと言うとレイは親になってる気分で接しているというか……」
その威圧感からか、俺はかなり正直に話していた。
実際、俺はレイのことは妹か娘かのような存在みたいに接している。
まあ、娘とか居たことないんだけども……それくらい危なっかしいからそう見えるのかもしれない。
「なるほどな……お前さん……」
刹那、沈黙が続いた。
たった一瞬の沈黙であったが、如何様にも長く感じる時間であった。
……やばい……殺される……
流石の俺でもユニークモンスターを一人討伐なんてまだ無理だ。だから考えるならここから逃げることだけ……
「ガッハッハッハ!! おもしれぇ男じゃねぇか!! ガッハッハッハ!!」
「…………え」
……なんだ……急に笑い出して……
「オレに向かって「親になってる気分で接してる」たぁ……度胸があるじゃあねぇか!!」
……たしかに。
「あ、いや、別にあんたの育てを否定している訳とかじゃなくて……」
「いや、いい。オレがそんなこたぁ一番わかってんだ。わざわざ否定すんな」
「は……はぁ……」
なんだ……? いい奴なのか……? それとも泳がしてるだけなのか……? 真意がわからねぇ……!
「そんなことよりも……なるほどな……気に入った! キョート……お前さん、オレの下に付く気はねぇか?」
「あんたの……下に……?」
下ってどういう意味だ……?
部下になれってこと……? だとしたら嫌なんだが……
例えレイの家族であろうと、ユニークモンスターはユニークモンスター……そのうち敵対することが起こる可能性だってある。
そんな奴の下に付くのはリスクがあるし……何より俺が嫌だ。
だけどなぁ……ここでNoって言ったらどうなるんだ……? 普通にミンチにされるくらいしか未来が見えないんだけど……くそっ……こういう時に鏡花が居てくれたら全部丸投げにできるってのに……!!
「オレの提案……どう受け取るよ……?」
レイの父親は、更に威圧感を高めている。
おいおい……こんなのNoって言ったら即死じゃねぇか……!?
くそ……素直に従うしかねぇのか……?
そう考えている俺に対して、天使と悪魔が微笑む。
……待てよ……俺は今ゲームの世界に居るよな……?
なら……どんだけボコボコにされて殺されても生き返ってはこれるわけだ……つまり……ここは……
「いや……それに関しては断らせていただきたい。俺は、誰かの下に付きたくはない。ましてや、国政の話になると尚更付かない。俺は自由に生きる冒険者だから、その話はお断りさせていただく」
俺のその言葉に、ヴァリエンテが目を丸くする。
まるで、珍しい生き物でも見たかのような顔だ。
それに反して、レイはどこか誇らしげな顔をしていた。
「ガッハッハッハッハ!!! おもしれぇじゃねぇか……!!! キョート!!! 気に入った! 俺の部下じゃなく、舎弟になれ!」
「……舎弟?」
「あぁ……部下みたいに一緒に行動する義理はねぇ……ただ、少しの間オレの元で修行を積む……いわゆる門下生っていうやつだ……お前を縛るもんはなんもねぇ……ここまで譲歩したんだ……どうだ? なる気はねぇか?」
なるほど……たしかにそれなら俺にも利があるし、敵対しようがしまいが心置きなく行える。
それに……
「そこまで期待されて言われてんなら……なりやしょう……あんたの舎弟に……!」
ユニークモンスターの舎弟とか……面白ぇ以外の何者でもないだろ!!
「……ガッハッハッハッハ!! そう来なくてはな!」
そう言うと、ユニークモンスター……いや、レックスは盃を持ち、俺の元へと置く。
「そいつを飲みゃ、舎弟ってもんよ」
何か毒でも仕込んでは……ないか……
あんだけ豪快に笑う奴が、そんな姑息なことしないよな……!
俺は、レックス・イラベスティアと盃を交わした。
「キョート! オレのことは好きに呼べ! なんでも許してやる!!」
「親父殿にああも真っ向から反論するとは……キョート殿は流石であるな……」
「キョートさんはすごいんでしゅ!!」
おいおい……そんな褒めんなって。褒めても何も出ねぇよ……
「とは言っても……舎弟になるって言ったって何をするんすか? オジキ」
「そうだな……今から修行を行う前に、お前さんにやってほしいことがある……」
やって欲しいこと……?
なんだ……? おつかいクエスト的な……?
いや、まさか、ユニークモンスターがそんなお使いクエストなんてするわけないか……!
そう思っていながら話を聞く、オジキはこのように言う。
「なぁに……ただの計測よ……お前さんを知る為のな」
正直言うと、すごい怖いが……側にはレイが付くと言う。
……まあ、ここでレイにカッコ悪い姿は見せられねぇな……!
俺は、レックスのオジキについて行き、とある場所へと向かった。




