第二害 紅き獣に縋る道
遅くなりました〜〜!!!
申し訳ございません〜〜!!
「ちょっと……何するでしゅか!! お兄しゃま!!」
……え?
「お兄さん……?」
俺の目の前に居た獣は、レイの兄貴であった。
「レイを助けたのだ。それ以上は言うまい」
「答えになってないでしゅ! なんでこんなところに来たでしゅか!」
どうやら少し修羅場のようだ。
こいつら……兄弟喧嘩でもしてんのか?
「えっと……お兄さん……?」
俺はレイがお兄ちゃんと呼んだ奴に問いかける。
「そうとも! 我こそは、誇り高きイラベスティア獣王国軍隊長にして、レイの実の兄! ヴァリエンテ・イラベスティアである!! 気軽にヴァリと呼んでくれたまへ!」
おいおい……まじかよ……
レイに兄貴が居たのかよ……
いやまあ居てもおかしくはないが……最初出会った時はボロ雑巾みたいな見た目だったレイの兄貴が……こいつ……?
俺は困惑したが、それ以上に怒り燃えるレイをとりあえず宥めて落ち着かせることにした。
「おいおい、そうピリピリするなよ、兄妹なんだろ?」
俺はレイに優しく諭す。
「でしゅけど……! ……とりあえず! なんでこんなところに来たんでしゅか! お兄しゃま!」
そう質問するレイにお兄ちゃんとやらが答える。
「そんなの決まっておるであろう! レイの安全を守るために決まっている!」
「なんでそんなことする必要があるでしゅ! 離れてって言ったでしゅ!!」
「家族なのだから当たり前だろう!? 我はレイの安全を願って……」
「もう私は!」
そう言いかけたレイの兄貴……ヴァリの言葉は、レイの怒号で遮られる。
「もう私は……イラベスティア家の人間じゃないでしゅ……! だから……ほっといてくれでしゅ……!」
「……レイ……」
おいおい……こんなところで兄妹喧嘩かよ……
いや……レイの一方的な突き放しか……?
どっちでもいいが……一応、俺たちのいる場所はただの森の中だし、奴らが追ってきたら今度は捕まるだけでは済まないぞ……?
俺はレイに近づく。
「とりあえずレイ、落ち着け。とりあえず深呼吸だ。な?」
「…………でしゅ……」
とりあえずは治った。
レイがこんなに取り乱すなんて中々ない。
一体過去に何があったんだ……?
「ところですまないが、貴殿は何者だ? 名前を教えて欲しい」
「あ……忘れてたな……俺はキョートだ。よろしく」
「ふむ……キョートであるか……では、我が妹の付き添い人であるか?」
ヴァリが俺に、更なる質問を投げかける。
「え? あー……まあそんな感じではあるけども……」
突然聞かれてもな……レイは仲間だから、一応付き添いと呼べなくもないのか……?
「キョートさんは、私を助けてくれた命の恩人でしゅ!! お兄しゃまとは違うでしゅ!」
「んな!? 我が妹よ! そこまでいう必要はないではないか!?」
「ふんでしゅ!」
「が、がーん……」
レイが放った言葉に、ヴァリは傷ついたのか、地面へ突っ伏す。
この感じを見るに、レイは反抗期的な感じなのかもしれないな。俺の妹と言動が似てるし、ツンツンしているところもそっくりだし。
可哀想に、ヴァリよ。同情するぜ。
「ところで……キョートよ……丁度良い。突然なことではあるが……ついてきてくれはしないだろうか」
「ん? まあいいけど、どこにだ?」
「我らが住処、イラベスティア獣王国……その王都、セントモンドコアである」
その言葉を聞いて、レイがまたうるさくなる。
「でしゅ!? い、いやでしゅ!! キョートさん! 行かないでくれでしゅ!!」
「えー? どういうわけか説明してくれないとわかんねぇな」
「それは……」
そう言うと、レイは黙りこくる。
どうやら何か隠し事をしているようだ。
「それは言えないか……なら、俺は行くぞ」
「でしゅけど……」
「じゃあ、どう言うことがあったのか……なんで行きたくないのか……俺に教えてくれないか?」
「…………」
これでも口を割らないか……
ほんとに何があったんだ?
「……んじゃあ、行くぞ。レイ」
「わ……わかったでしゅ……」
レイは決して喋ることはなかったが、行くことにはしたみたいであった。
正直……何もわからんからどっちの選択がいいとかわかんないけど……ここに居ても謎の罪に晒され続けるだけだ……であるならば、ついて行った方が有意義になる可能性もある。
行くしかねぇだろ……冒険者的にはよ……!
俺たちは、ヴァリについて行き、森をひたすらに歩き続けていた。
どこから来たのか、どこで折り返したとか、もう何もわからない。
「俺別に方向音痴でもないんだけどな……なんだここ……どこから来たか覚えてねぇぞ……」
「我らが住処は遠い森の奥にある。であるから、獣王国は別名として「迷い森の王国」とも呼ばれるのだ」
迷い森の王国……か。
防衛上は有利なのはわかるが、獣王国側は迷わないのか……?
やっぱ住んでると覚えるのか……?
それとも、何か目印とかあるのか……?
そんなことを考えながら進んでいく。
俺たちはヴァリの案内の元、とある場所に辿り着く。
森が突如開けたかと思えば、そこに広がるのは大きな街であった。
巨大な壁のような塀に囲まれたその街は、狼や羊、ライオンやゾウ、キリンなどさまざまな動物の種族である獣人族が住んでおり、中には普通の人族など、他の種族も住んでいるのか、歩いている様子が見える。
少し山がちな地形の方には、大きな宮殿のようなものまであった。
……なんかアステカとかマヤとかにありそうな宮殿だな……
「ようこそキョート殿! こここそが、イラベスティア獣王国が王都! 『獣王都市セントモンドコア』である!!」
「ここが……獣王国か……」
俺はそのままヴァリに案内され、大きな宮殿の方に向かう。
「今から、我らの親父殿に会ってもらいたいのだ。我と……そしてレイの客人としてだ」
「でしゅ!?」
「それは構わないけど……お前達の父さんってあんな宮殿に住んでるのか?」
俺の問いかけに、ヴァリが答える。
「うむ。我らの親父殿はこの国の王であるからな。当然であろう」
……ん? え?
「え? ちょっと待て、お前達王族なの?」
「答えは……ここの扉を開ければわかる」
ヴァリがそう言うと、ドアをコンコンと叩く。
「我こそは! 親父殿の二番目の子、ヴァリエンテである! ぜひ開けられたし!」
そう叫ぶや否や、扉が開かれる。
扉を開けば、そこは大きな広間のような部屋が広がっていた。
端の方には使用人らしき獣人族達が整列しており、その奥には大きな獣が鎮座していた。
レイとも、ヴァリエンテとも似ていないようで、どこか似ているその見た目は、まさしく父親であるのだろうと俺へと伝えさせる。
「おぉ……よぅ戻ってきたな……ヴァリエンテ……」
「親父殿……此度は特別な客人を連れてまいりました」
ヴァリエンテが俺の方を見る。
挨拶しろってことか……
「えっと……お初にお目にかかる。俺はキョート、ヴァリエンテに連れられて来ました。レイの付き添い……的な感じ? かな。です」
とてつもない威圧が俺を襲う。
俺を試してるのか……?
「……レイ……? まさか……レイが居るのか……?」
「あ……はい……お父様……お久しぶりでしゅ……」
その瞬間、威圧が最高潮に達したのを感じた。
俺の画面にとある通知が飛ぶ。
〈ユニークモンスター 『怒仇の征獣王』レックス・イラベスティアと遭遇しました。〉
…………え?
「……ユニーク……モンスター……?」




