第一害 蠢く獣に吠える蟲
あと少しで100話を超えるということに驚きを隠せない人です。
まじかよ……よく書いたな……
蝉が囀り、太陽からの光が眩しい朝。
俺は妹の怒号で目を醒ます。
「お兄ちゃん!! 私のプリン勝手に食べたでしょ!?」
朝から騒がしい妹の声に起こされた俺は、内心イライラしながら答える。
「俺じゃねぇよ! どうせ母さんか父さんが食べたんだろうが! 俺のせいにするな!」
「嘘つかない! 私の占いではお兄ちゃんが食べたって言ってるんだから!!」
チッ……厄介だな……妹の占いはよ……
普段であれば大体母さんが食べているのだが、今日は違う。
普通に俺が食べた。
犯人の供述としては、「珍しく夜中に小腹が空いたため、冷蔵庫を漁ったら出たから食べた」とのこと。
まあつまり、腹減ったから食ったってことだな!
我ながらクズすぎるな……
「わーったよ! 今から買いに行くから、少し待っとけ」
「早く買いに行け!! このバカ兄!!」
妹の怒号が階段を通して扉の前で響く。
そんなんだからいつもうるさいってクレームがつくんだよ……このオカルト妹が……!!
ということで、俺は近所のスーパーにプリンを買うため出かけた。
「にしても暑いな……もう夏か……」
8月ももうそろそろで中盤に差し掛かるところであるせいか、蝉の鳴く音のせいか、蒸し返るような暑さが俺を襲う。
暑いな……そりゃもうアホみたいに暑い……
「早く帰ってフログリしよ……」
今では日課となっているフログリ。今日も鏡花たちとお昼から待ち合わせをしている。
「別ゲーしたくなってきたな……」
今、俺の中のレトロゲー魂がグツグツと煮えたぎっている。
うん、明日しよう。そうしよう。
明日はそういう日にしようと決めながら、スーパーに行き、プリンを買った。
「さて……帰るか……」
涼しい店内から出て、蒸し暑い外へと出るのは大変心苦しいが、家に帰ってゲームしなければならないのだ。
「はぁ……テレポートとか使えたらなぁ……」
テレポートといえば……『迷彩8』とかしたいな……
迷宮のサイレンウォリアー8
クソデカい殺人蜂が跋扈する世界。
その中で、選ばれた存在である主人公は、様々な特殊能力が使える。
その特殊能力を駆使して蜂を撃滅するというアクションゲームだ。
あのゲームの少し設定に反したかのような能力群が好きなんだ……
うわ、めっちゃやりたくなってきたな……
「我慢だ我慢……待たせてるから……」
そうブツブツと言いながら俺は帰路についた。
そんな景兎を不思議そうに見つめる視線が刺す。
「……あの人は……」
……が、景兎がそれに気づくことはなかった。
「おい、飛鳥。買ってきたぞ」
俺は飛鳥にプリンを渡す。
「わぁ! ありがとう! じゃない! もう二度と勝手に食べないでね!!」
「わーったよ……とりあえず俺、自分の部屋に行くから、邪魔すんなよ〜」
「お兄ちゃんじゃないからわかってますー!」
「なんだこいつ……」
全く……妹の横暴には辟易するぜ……
まあ、俺が全部悪いんだけど……
「さて……やるか!」
俺はゲームを起動して、ベッドへ寝転がる。
---Log In
俺が待ち合わせ場所に着くと、そこにはミライとレイ、そして天皇河さんが立っていた。
「おそーい!! 一体いつまで待たせてんのよ」
「わりぃ、ちょっと家庭内トラブルがあってな」
「どうせキョートが悪いんでしょ?」
「よくお分かりで……」
「あんたねぇ……」
いつも通り怒るミライに頭を下げつつ、俺は天皇河さんの方を見る。
「そういえば天皇河さんは、どこか行きたいところとかないんですか?」
「へ……!? あ、いや、皆さんについていきますよ」
「あ、了解っす」
俺たちは今、蟲地王国へと向かっている。
あのクラン会合の後、行き先に困った俺たちは話の流れでとりあえず蟲地王国へと向かっていた。
天皇河さんにそのことを伝えると……
「私も一緒についていきます!」
と言ったため、一緒に行くことになった。
うーん……天皇河さんはこんなことに時間を使って良いんだろうか……一応配信者なんだろ? なんの面白みもないところだぞ、今のところ。
そんなことを考えながら道を進む。
すると前方に、広大なジャングルの入り口が姿を表し始める。
「お、もうそろそろで到着だな。もう3日は歩いたぞ……」
「そうだねぇ……蟲地王国に行ったら何する?」
「そうだな……まずは飯食って宿取ろうぜ」
「まあそうだね〜、宿は前のとこでいっか」
そのような話をしていると、前から土煙が出現する。
「……なんだあれ」
「モンスター……ではなさそうですね」
「でしゅ……」
天皇河さんとレイが身構えている。
土煙の正体は、甲冑を着た蟲地人族の群れであった。
見た目的に、おそらく王国兵士であると思われる。
「居たゾ!!」
……ん? 居たぞ……?
何やら不味そうな気配がするな……
その気配は的中する。
蟲地人族の兵士が、俺たちの近くで減速し始める。
そして、俺と、近くに居たレイを取り囲む。
「居たゾ! 獣人族ダ!! 捕まえロ!!」
その言葉を聞き、レイが体を震わせる。
「で……でしゅ!?」
完全に取り囲まれた俺とレイ。
兵士達に弾き出されたのか、ミライと天皇河さんは囲まれた場所から少し離れた位置にいる。
こいつは……何かまずいことでもあったか?
「……えっと、どうかされましたか……?」
とりあえず、話だけでも聞かないとな……
「今現在、我らが蟲地王国は獣王国と戦争をしていル。獣王国との関連性があると思わしき人物達ハ、皆例外なく捕える所存ダ。と言うことデ、お前達を引っ捕えル!!」
俺は、返ってきた言葉に驚愕する。
戦争…………? まじかよ……
「い、いや、俺はその獣王国って名前の国とはなんの関係性もないって!」
「何を言うカ! その耳はなんダ! どう考えても獣王国の人間だろウ!!」
そう言いながら、槍を俺たちは向ける。
「なんでそう決めつけるんだよ!! ほら、レイもなんか言ってくれよ」
俺はレイの方へと向く。
それに釣られたのか、兵士たちもレイを見つめる。
「これハ……やっぱり獣王国の奴じゃないカ! 即刻捕まえロ!!」
そう言うと、俺たちに槍を突き刺そうと動かす。
「わぁ!? お前、危ねぇだろ!!」
「問答無用!! 捕えろ!!」
「だから話を聞けって!!」
そんな言葉は兵士には届かず、俺たちはそのまま二人仲良く貫かれ……
「〈乱れ斬り〉」
るわけではなかった。
兵士達の槍の先端が音を立てて転がる。
何事かと前を向くと、そこには獣のような二足歩行の生物が静かに立っていた。
「……まさカ、お前ハ……!」
「そう、我こそは……! 誇り高き獣王国軍隊長 ヴァリエンテ・イラベスティアである!」
そう高らかに宣言した獣は、兵士に対して剣を構える。
「どうする? 我と闘うか? その武器がない状態で……」
それに怖気付いたのか、兵士たちは全員一歩後ろへと下がる。
「そこの名もなき異邦人達よ、我について来い!!」
そう言うと、俺の袖を掴みながら、走る構えを取る。
「ん? え、えぇ〜〜!?」
「さぁ、行くぞ!!」
「ちょ、ちょまっ……!!」
俺が静止するその前に、その獣は走り出す。
「ま、待テ!!」
「今は戦う時ではない!! そうだろう?」
そう告げると、俺とレイを担いだそいつはどこかへと去る。
「…………え、どこに行った?」
ミライと天皇河は困惑した。
◇◇◇
森の中へと入る。
その獣は、俺たちを降ろす。
それに憤りを感じたのか、レイが叫ぶ。
「ちょっと……何するでしゅか!! お兄しゃま!!」
……え?
「お兄さん……?」
俺の目の前に居た獣は、レイの兄貴であった。