政局は移ろい、その足は戻る
長くなってしもた……!
会合は終了した。
クラン『機神隊』のメンバーは、解散後、すぐに俺たちと別れた。
マロンさんやヴェルノさんも、どうやら忙しいようで、その後すぐに別れることになった。
少し近況とか話したかったが、まあ良いか……
「さて、君たち。よく7日で来れたね〜。感心したよ」
「お前が来いって言ったんだろうが!」
「まだコーヒー一杯分の代金もらってねぇからな! 忘れるなよ?」
「はいはいはいわかったわかった、後で払うから。キョートくんが」
「なんで俺ぇ!?」
「よしキョート、払え」
「払うわけねぇだろ!!」
一通りコントをしたところで、ファイアワークスが天皇河さんに視線を向ける。
「さて、おしゃべりしよう! と言う前に……そこに居る女の子は少し席を外してもらえないかな?」
その言葉に、天皇河さんが反応する。
「私ですか?」
「そうそう〜。今からキョートくんとネイチャーくんの個人情報暴露大会するからさ、ちょっと出といてくれないかな?」
「はぁ!?」
「お前……それしたら諸刃の剣だぞ!!」
「それも承知のこと〜」
なんだこいつ……!
てか、俺の個人情報とか知ってる奴……居たわ、真横に……
いや、いくらなんでもそこまでは……言いそうだなぁこいつは……
ドタバタしているところに、天皇河さんが喋る。
「わ、わかりました。では、キョートさんとミライさん、少しこの街をブラブラしてくるので、何かあったら呼んでください」
「わかったよ〜」
そう言い残すと、天皇河さんが店を出る。
残ったのは、俺たち『旅虹者』のみであった。
「んで? わざわざ部外者を退場させてまで話したかったことってなんだ? まさか本当に個人情報暴露大会するわけじゃねぇだろ?」
ファイアワークスのことだ。おしゃべりをしたいがために除け者にしたわけではないだろう。
暴露大会は……正直この場でなければしていた可能性がある……が、奴はそんな無意味なことをしないだろう。
俺が放ったその言葉に、ファイアワークスが答える。
「うーん、そうだねぇ……ここからは君たちだけに聞いて欲しかったからかなぁ? 何せ、機密情報だからね」
なるほどな……やっぱりなんか理由があったか。
「本当かよ……俺たちに何も教えずにここに来いってだけ言ったやつが機密情報だぁ?」
「えー? 言っちゃおっかなぁ!? ネイチャーくんの個人情報!」
「おま……や……やめろぉ!?」
何やってんだこのバカ達は……
「んで?その言いたいことってのはなんなんだよ」
「私も聞きたいですね〜」
「私も!! 聞きたいです!!」
「コホン、んじゃあ、言いたいことを言おう。特にキョートくんとミライちゃんに関係してるからね」
「「俺……?」」
「そうそう、あの女の子……天皇河邪鬼子ちゃんについて……ね」
……!! なるほどな……
「たしかに聞きたいわ。めちゃくちゃ」
「何かあるってことですか?」
「うん、まあそゆこと〜」
とはいえ、なんだろうな……
あれかな? 隠し事があるとかか? まあそれならわからなくもないだろうけども。
そんなことを考えていると、ファイアワークスが話し出す。
「彼女はね、アグリちゃんやネイチャーくんは知らないかもしれないけど、有名人なんだよね〜」
「そうなんですか!?」
「それくらい知ってるぞ」
アグリさんは知らなかったか……まあなんかしら無さそうだもんな。
「ネイチャーが知ってるとは……意外だな」
「いや、前にコラボの誘いが来たことがあんだよ。その時はちょうど大会前調整の段階だったから普通に断ったけど、その時の文体が妙に丁寧だったから覚えてる」
「なるほどな、そういうことか」
確かにこいつ、プロゲーマーだったもんな。
コラボの誘いとかあってもおかしくねぇわ。
「あ! 天皇河邪鬼子ってあの!」
どうやら、アグリさんもピンと来たみたいだ。流石は有名人。名前だけはみんな知ってるみたいだな。
「まあ、その有名人である彼女なんだけど、私の見立てでは、多分彼女は敵なんだよねぇ〜」
「「敵?」」
「そうそう、敵。まあ、具体的に敵対しているってわけじゃないんだけど、どうにもそんな気がするんだよ」
「気がするって……お前の勘かよ」
「こらこらキョートくん。女の勘ってのは案外当たるものだよ〜? それに、勘以外にも根拠はあるよ。彼女の非公式wikiによると、彼女は取れ高主義って書いてるからね。このゲームで今一番取れ高になる私たちを探すのは自然の摂理じゃない?」
「参考が非公式wikiなんですね……?」
「いやいや、侮ったらダメだよ〜? ミライちゃん。非公式wikiってのは、彼女が好きな人が彼女のことを記録するために作ったものなんだから、多分そこらへんのものよりも真実性は高いよ」
「な……なるほど……」
ファイアワークスもそんなところから情報入手するんだな……それは初めて知ったわ。
「んで? 具体的にどう怪しいって?」
ネイチャーが問いかける。
「うーん……まあ、怪しいと言うより確定的な情報だけど、今後彼女は、私たちの情報をネットに流すことになると思う。つまりそこで身元が割れるようなことがあればかなりの危険になりうる。普通に行動できなくなるだろうからね。だから、情報をネットに公開するのをやめてもらうか、今のうちに離れてもらうかの2択になるね。もちろん前者は難しいから、取るなら後者になるかな」
「つまり、どこかのタイミングで離れろってことか?」
「今とかベストタイミングだけど、それなら……」
ミライが言いかけたところで、ファイアワークスが止める。
「いや、今はダメだね。彼女が情報を公開しちゃうからさ」
「特に……三クランの同盟とか世に出たら大変なことですもんね……!!」
「そうそう、アグリちゃんわかってるね」
「じゃあなんで聞かせたんだ……? それなら最初から離れた方が良かっただろ」
普通、そうするはずだ。
俺もミライもそう言うことを考えていなかったわけではない。だからこそファイアワークスにどうするか聞いたんだ。
だが、ファイアワークスが選んだのは、「連れてこい」だった。
「何か理由があるってことですか?」
「そうそうミライちゃん。じゃあその理由について教えてあげよう。一つは牽制。「私たちは同盟を結んだんだよ? 君がこの情報を漏らすのであれば、敵対することになるけど良いのかな?」的なね」
「確かに、一人であのクラン連合と敵対するのは普通にまずいな」
「まあ、最強クランと敵対したいとはまず思わないよね。どれだけ強いプロゲーマーでも、数に押されちゃ負ける可能性なんて大いにあるんだから」
それはそうかも知れないな……
ただ少しリスクがあると思うけど……そこも何か考えがあるのだろうか……
「もう一つはね、私の目でその天皇河って子を見たかったから」
「…………それだけ?」
「それだけって言い方良くないんじゃない? 私は大真面目に答えたんだけど〜?」
「悪かったって。でも、ほんとにそれだけの理由で呼んだのか?」
「うん。そうだよ。彼女のことを直接見て、仲間に加えれるなら加えたいなぁって思ってね」
その言葉を聞いて驚いたのはネイチャーだった。
「仲間に……? クランに加入させるってことかよ」
「うん。もし仲間に加えたら、いちいちそんな心配をしないで済むし、色々楽になるんだよね。だからそのための顔合わせって意味で連れてきて欲しかったんだよね」
「なるほどな……」
まあ確かに仲間にした方が早い気はするな……
「まあ、このクランのリーダーはお前だし、そこら辺は全部任せるわ」
「そうだな」
「まあ、そうだねぇ……ここからの方針について発表するよ」
そういうと、ファイアワークスが席を立ち、言う。
「まず、天皇河邪鬼子ちゃんについて、これはキョートくんとミライちゃんが監視兼見極め役をする。これで異論はないね?」
「まあ、任せろ」
「がんばりまーす!」
「うん。じゃあ次に、同盟についての諸々。これは私が全部しとくよ。みんなは好きに冒険していってね〜」
「助かります!!」
「まあ、俺しばらくログインできるかわからんけどな」
「え? ログインできないの?」
ファイアワークスがネイチャーに聞く。
「もう少しで大会なんだよ。だから終わるまではそっちの方に集中したい。まあ終わればまたログインするから」
「うーん……ネイチャーくんも割り振ろうと思ったけど……まあ仕方ないか」
ファイアワークスが少し考えた後、俺たちに向かって言う。
「よし、じゃああとは全部私がしておくよ。みんなは、各自の冒険をするということでね」
「わかりました!!」
アグリさんが元気よく答える。
「そっちの二人は監視もよろしくね」
「任せろ」
「がんばりますね〜」
まあ、この手のやつは得意だぜ……頭さえ使わないならな……!
「んじゃあ解散?」
ネイチャーが問う。
「そうだね〜。解散!」
その言葉と共に、俺たちは解散した。
「さて、どうするよ。とりあえず」
俺はミライに聞く。
俺たちの目的はこの国に着くことだった。
それが終わった今、俺たちは目的もなしに途方に暮れることになる。
「うーん。一旦蟲地王国くらいまで戻ってみる?」
蟲地王国か……たしかにほとんど見れてないな……
「いいな。それ、乗ったわ」
「おっけー、じゃあ、天皇河さんと合流してついて来させよう〜」
そう言って、俺たちは天皇河さんの待っているところであろう宿まで戻る。
「さて……蟲地王国まで戻るかぁ……」
一方その頃レイは……
「……zZZ」
ということで、ちゃんとみんなの掛け合いを描こうとした結果ファイアワークスが暴れ続けるだけの話達でした。なんでこうなったんや……?
まあ筆が乗ってしまったからね、仕方ないね