クラン『機神隊』との会合
少し時間すぎちゃった!!
ごめんね!
「……さて、お話し合い……はじめよっか?」
クラン『機神隊』に向かい合うように、俺たちは席へ座る。
今ここに、新米クランと最強クランの歴史的会合が始まろうとしていた。
「……威圧感あるな……あっち側」
「全身フルアーマー装備だもん。そりゃ威圧感マシマシよ」
「そこ、私語は慎むように」
ファイアワークスが俺たちに注意した後、話始める。
「さて、今回はどんな理由で来たんだっけ? ミカちゃ……いや、オーサー・ペンドレーヘンさん」
少しあざ笑うかのように、ファイアワークスが言う。
「今回、私たちがここに来たのは、提案をするためだ」
提案……ねぇ……?
どんな提案をしてくるのか……
「なるほど、その提案とやらを聞かせてほしいものだね」
「我々からの提案はひとつ、情報協定の締結及び同盟の締結だ」
情報協定と同盟……?
てか、二つじゃねえか。
「我々は今、ユニークモンスターを討伐するために力を蓄えている」
そういいながら、ファイアワークスの方をじっと見つめる。
「知っての通り、少し前まで、ユニークモンスターという存在は”絶対に討伐できない存在”、いわば壁であったわけだ。我々『機神隊』ですら、未だ倒したことは一度もない。そういう存在だ。あの事件が起きる前まではな……」
そういいながら、今度は俺たちの方へと視線を向ける。
「”ユニークモンスター『青の吸血鬼』シフィリス・トガム”の討伐……誰も知らなければ攻略サイトにも掲載されていなかったユニークモンスターの討伐、そしてその討伐人数……最初は耳を疑った」
「……それで、こちらに接触してきたと?」
「そういうことになる。最初は、全員を私のクランに引き入れようとしたが、ここにいる女が根こそぎ奪っていったからな」
そういいながら、ファイアワークスの方へと、再度視線を向ける。
「いや~ごめんねぇ? 先に私がみんなを取っちゃってさ~。でも、リーダーをしているオーサーちゃんならわかるよね? 情報を制御することがどれほど重要かってことくらいさ……?」
そういうと、少し空気が乱れてくる。
「失礼だが、そちらの態度がいささか気にくわない。立場をわきまえてくれないか?」
そう文句を垂れ流すのは銀甲冑のフルアーマー軍団の中でも、一際派手な格好をした男であった。
身なりと言動からして、おそらくサブリーダー的ポジションなのだろうか。
PNのところには「ギガンタイル」と書かれている。
「やめろギガンタイル」
オーサー・ペンドレーヘンがそういうと、ギガンタイルと呼ばれた男は一歩下がる。
「申し訳ございません。リーダー」
乱れた空気が少しおとなしくなると、オーサー・ペンドレーヘンが話を再開する。
「少し話がずれてしまったな。話を戻そう。私たちは君たちをクランに取り込むことはできない。だからこそ私たちは、”情報に関する相互の協定”および”片方のクランがピンチになった際、もう片方のクランが助け舟を出す防共同盟”を結びたいと考えている」
なるほど……つまり、お互いの知る情報を均等にする代わりに相互でクランを守りましょうってか?
けど、ピンチになる場面とかあるのか? クラン抗争でもあるの?
「一つ質問いいですか?」
話に割り込み、そう聞くのは、ミライであった。
「なんだ。言ってくれ」
「その内容だと私たちのメリットが少なすぎると思うのですが、どういった理由とかありますか?」
ズバッとミライが切り込んでいく。
俺も思っていたことだ。そもそも防共をするメリットが思い浮かばない。
今の俺の認識では、たとえこの同盟を結んだとしても、情報が全部あちら側に流れるだけなのではないか? となっている。
オーサー・ペンドレーヘンが、その問いに答える。
「そうだな……メリットは多く用意している。一つは情報提供だ。私たちの持つ情報を一部渡すことができる。狩場の場所やジョブのとれる場所、果てには新大陸の情報。これだけでも十二分にメリットといえるだろう」
「そしてもう一つは防共。これは、クラン間で稀に起こる「クラン抗争」に対抗するためのものだ。クラン抗争では、数多のクランが血で血を拭う争いを行う。そうなれば、5人しかいない弱小クランの君たちでは太刀打ちできないだろう。だが、我々と同盟を組んでいれば、君たちを守ることができる。これも大きなメリットとなる」
うーん……いまいちピンとこないな……クラン抗争もどういうやつなのかわからないし、情報提供も攻略サイト見ればいいだけじゃね……とどうしても思ってしまう。
「それにだ。我々のクランとの同盟は対外的に見るとメリットしかない。君たちはすでに数多のクランに目を付けられている。それこそ、殺人クランや監禁クランにも狙われていることだろう。そこで。我々という後ろ盾を備えることにより、それらのクランから狙われるリスクを減らすというわけだ」
なるほど……確かにそれはそうかもしれん。
俺たちはユニークモンスターを倒したとはいえ5人のクラン。
何十人というやつに囲まれたら一瞬でお陀仏だ。
そこをトップクランと名高いクラン『機神隊』が守ることで、牽制を与えるというわけか。
「なるほど、わかりました。ありがとうございます」
ミライも俺と同じ考えに至ったのか、引き下がる。
「そもそも、お前たちは自分たちが注目されているというのは知っているのか?」
「注目?」
確かにユニークモンスターを討伐とかしたけど、特に変わったことはなかったけどな……
「ユニークモンスターの少数討伐……その後、行方をくらませ、今なお表舞台には登場しない。それはもう大目立ちだろう。とあるところでは運営の回し者ともいわれているくらいだ」
そしてその数日後にクラン結成……こう見るとかなり目立つ行動をしてるんだな……俺ら。
「そんな奴らが狙われないわけがない。だからこそ、我々が守ることで、情報を交換するということを提案している」
なるほどな……奴らの言っていることは一理ある。
けど……
「その同盟に関するお話なんだけど、少し内容を変えたものを提示したいんだけど、いい?」
ファイアワークスがそう言う。
その発言に反応したのは、ギガンタイルであった。
「なんだと? 我々の提案が気にくわないというのか? 立場をわきまえてほしいのだが」
「おっと、下っ端さんは黙っててね~。私が話してるのはリーダーさんとだから」
「なんだと……!?」
ファイアワークスが軽く一蹴し、オーサー・ペンドレーヘンの方へと向く。
「……どのようなものだ?」
「簡単なことだよ。まず一つ、防共協定に関しては言うことなし。正直クラン抗争はもう懲り懲りだからね。次に、情報協定について、大まかには了承できる。ただし、お互い本当の情報を出し合うこと。という一文を付け加えること」
おいおい、良いのか? ファイアワークス。
これどう考えても不平等条約だろ。
そう思っていた俺の考えは、次の発言で撤回された。
「そして最後に、この協定同盟は”二クラン間でのものではないということ”」
「なに……!?」
「…………それはどういうことだ?」
「つまりこういうこと!! さぁ、入ってきて~」
そういうと、喫茶店の扉が開く。
そこに立っていたのは、色白系ギャル的な少女と背の高い青年であった。
「はぁ……いつまで待たせるの? もう三十分は待ったけど?」
「まあまあリーダー。こういうのはタイミングが肝心だからさ」
中へと入ってきた存在を、俺たちは知っている。
およそ三度の会議をし、最後にアイテムをくれたあの人たち……
「久しぶりやね、みんな。忘れてたらあれだけど、マロンだよ。おひさ~」
「どうもみんな久しぶり。ヴェルノだ」
「ということで、この協定同盟は”二クラン間”ではなく、クラン『探索者』も含めた”三クラン間”で行うことを提示するよ!」
「…………なんだと……?」
会合は荒れる。この荒波は、止められない。




