クラン『機神隊』との邂逅
遅れました
「わぁ……ひろぉーーい!」
「でしゅぅ!!」
俺たちは、”商業の国”ネウトレイリス協商国の中をぶらついている。
昨日、この街へ入った俺たちは、そのまま宿屋まで行きリスポーンポイントを更新した。
その後、朝までログアウトして合流し、何をするかを話し合った。
そこで、そこら辺を歩こうということになり、今に至るわけだ。
「テーマパークにきたみたいだぜ……テンションあが...…」
「言わせないよ?」
「なんでだよ!! そこまで言ったら言わせろよ!!」
「……ふふっ」
ん……? 天皇河さん、今笑ったか?
あの人が笑ってるの初めて見たかもな……
……いや、見たな……めちゃくちゃ不敵な笑みだが……
何が企んでいるのかと勘繰っていたが、ここまでの道のりでそれらしい行動はしてこなかった。
俺の考えすぎか、はたまた……
「ところで皆さん、今日はお昼からこの街で予定があるんですよね?」
「んあ、あぁ……そうだな。だからちょっとばかし、別のところでのんびりしといてください」
「あ、いえ、そのことなのですが……もしよろしければ、私も行っていいですか?」
「んえ?」
……まじか。
俺とミライが顔を見合わせ、コソコソと話し合う。
「どうする……めちゃくちゃ部外者だぞ……」
「でも、悪い人には見えないんだけどなぁ……」
「相手はVtuberだぞ? ポーカーフェイスがクソほど上手かもしれん」
「でも、10日くらい旅をしてさ、そういう変なこととか全くしてないじゃん? だから少しは信用できそうだけど……」
「うーん……そこなんだよなぁ……」
俺たちを悩ませる要素はここである。
今のところ、彼女は俺たちに不利になるようなことは何ひとつしていない。
だが、それが演技かもしれないという懸念はある。
忍耐強さのレベルがカンストしてるのか……ただの優しい人か……
とにかく、俺たちはそこの真意がわからない……
「とりあえず……ファイアさんにでも聞いたほうがいいんじゃない?」
「……そうだな……メール送っとくか……」
とりあえず、責任は全部ファイアワークスに押し付けりゃいっか!
どうせあいつが決めることだしな。うんうん。
「……あの……」
「あぁ、ちょっと待ってくれ、その話はまた後ほどってことにしてくれないか? 今ちょっと俺たちの責任者に話を聞いてるところだからさ」
「あ、そういうことですか。わかりました」
うーん……やっぱ礼儀正しいな……
俺の考えすぎか……?
そんなことを考えながら、時間になるまで、俺たちはこの街を散策する。
ネウトレイリスは大きな商業都市であり、街の至る所で個人経営の店や大型チェーン店などが本店を構えている。まるで、デパートにでもいるような感覚に陥るくらいだ。
「にしてもでかいな……流石は商業都市ってか?」
「だねぇ〜。確か、このゲームで一番大きい商業施設がここの街らしいよ」
「はぇ〜」
「ミライさん、物知りなんですね」
ミライの言葉を聞き、天皇河さんが反応する。
「いやぁ、ネットの情報をそのまま出してるだけだよ」
「それでも、しっかりと相手の人に教えれるくらい知識があるのはいいと思いますよ」
「ありがと!」
そんなことを話しながらも、時間はどんどんと経過し、やがて、約束の時間になってくる。
「あ、キョート。もうすぐ約束の時間だよ。そろそろ行こう」
「まじか!? あ、ちょっと待ってくれ」
こんな時にメール……一体誰が……
そこに書かれていたのはファイアワークスという文字であった。
いやこいつかよ……
あれか……俺が送ったやつの返信だな? さては。
俺はメールの中身を確認する。
『うーん……そうだねぇ……んじゃあ、連れてきてくれない? よろしくね〜』
……つまり、連れてこいってか……?
あいつ……またなんか企んでるな……?
とりあえず俺は天皇河さんにこのことを伝えることにした。
「天皇河さん」
「は、はい。なんですか?」
「さっきウチのメンバーから連絡があってさ。許可が出たぜ」
「……つまり……?」
「俺たちについて来て良いってこと。どうする?」
「なるほど……そういうことですか」
少しの沈黙が流れた後、天皇河さんが答える。
「でしたら、是非行かせてください」
「おっけーだ。んじゃぁ行こうぜ」
その返事を受け取った俺たちは、約束の場所へと向かう。
「……てか、どこに行きゃ良いんだっけ」
「忘れたの? この国の「迷光喫茶 雛と翅」だよ!」
そうだったのか……やべ、何も聞いてなかったぜ……
◇◇◇
「迷光喫茶 雛と翅」ネウトレイリス支店
ここには、メンバーを待つ一つのグループがいる。
「……うーん。遅いねぇ……みんな」
ファイアワークスは今か今かと待ち焦がれている。
開始時刻はまだである。ただ、一対クランである今の構図を、彼女はあまり好みには思っていない。
刻一刻と迫る開始時間に、少しの憂鬱と心配が彼女に湧き始める。
(はぁ……早くこないかなぁ……みんな……)
そんなことを思いながら思いを馳せている様子に、対面に座っている人たちは少しの怒りを持っているようだった。
「おい、いつになったら来るんだ! まさか嘘ついたんじゃないだろうな!?」
先ほどからずっとガヤガヤと喚くその男に、ファイアワークスは内心かなりイラついている。
その男はクラン『機神隊』のサブリーダーである。
上に表示されている名前には「ギガンタイル」と書かれていた。
普段であれば、少し背の高い好青年を思わせるその容姿は、今のイラつき具合で打ち消されるだろう。
(うるさ過ぎ……ストレスでも溜まってる?)
「まさか、嘘なんてつくわけないじゃん。そっちのリーダーの面子を潰すほどアホではないよ、私は」
ファイアワークスは、静かに座る『機神隊』のリーダー、「オーサー・ペンドレーヘン」に目配せをする。
少し怪訝そうに窺うオーサーの眼は、はっきりとファイアワークスを捉えていた。
「もし時間通りに来るのが嘘であった場合……私はお前を斬る」
「まあまあ待とうよミカちゃん。まだ時間は来てないからさ」
「ゲーム内でその呼び方はやめろと言っている」
緊迫した空気感を出すオーサーの覇気は、ユニークモンスターに対峙したファイアワークスにとっても緊張感を感じさせるものであった。
(はぁ……早く来てくれないかなぁ〜。みんな)
そんな時であった。
「到着! いぇーい一番乗り〜」
「こんなの認めれるか!! ノーカンだノーカン!!」
「なんだぁ……? 辛気臭ぇとこだな……」
「うぉっとっと!! あ! 皆さん! 先に来ていたんですね!!」
クラン『旅虹者』のメンバーが、全員がほぼ同時に到着した。
「はぁ……はぁ……はぁ……いきなり走るなんて……」
一人の部外者と共に。
「さてと……みんなよく来たねぇ〜。ちゃ〜んと予定通り着いたみたいだね」
「流石に7日で着けはきつかったけどな……まあなんとかなったわ」
「お前……会計せずにでやがって……しっかりツケを払ってもらうからな……!!」
「なぁんのことでしょう?」
「ファイアワークス!!!」
このピリついた空間が一気に賑やかになったことを、全員が感じた。
「……コホン。さて、ミカちゃん。お話し合い……はじめよっか?」
「……良いだろう……それがお前の仲間か……」
両者は見つめ合う。
「……え、『機神隊』……!?」
その場に驚く一人の少女は、立ててた策を練り直す。




