旅とクランと仲介人
ユニークモンスターとは
『不眠の徘徊者』や『黄金龍皇』のような存在の総称であり、プレイヤーが100人単位で集まって叩いて、やっと勝てるかどうかである。
ましてや、10人以下の少数精鋭で勝てるわけがない。
経験を積んだプレイヤーなら誰しもが理解するであろう共通見解である。
だが、その常識は、つい先日塗り替えられた。
ユニークモンスター『青の吸血鬼』の討伐……しかもたった5人での討伐。
フログリのゲーム内にてアナウンスという形で知らされたこの事実は、プレイヤーの中で大きな渦を生み出していた。
その渦は、引き起こした張本人の一人、ファイアワークスをも巻き込んでいた。
とある会社の食堂。
ファイアワークス……いや、禍崎 操花は、食事をしながらとある人と話をしていた。
「んで? そのためにユニークモンスターを倒した人間の情報が欲しいってわけ?」
ファイアワークスの前に座っているのは、高身長でスタイルの良い女性であった。
「まあ、そんなところだ。ファイアワークスはお前のPNだったよな。一体どうやった。教えろ。操花」
「ん~、やっぱり気になる? フログリ内最強クラン『機神隊』のリーダーさん?」
そう言われた女性は答える。
「そりゃ、気になるだろう。何せ、私たち『機神隊』ですら一度も成し遂げていなかったユニークモンスターの討伐……それをたった5人で行ったとなれば、こちらとしても色々と確認しておかなければならない……」
クラン『機神隊』
フロンティアグリーディア内のシステム「クランシステム」における現時点で最も実力のあるクラン。
全員がレベルを上限まで上げるのはもちろん、様々な情報網やクランとの協力網、そしてリーダーの圧倒的カリスマからなる実力派クランである。
そして、そのカリスマ的存在であり、クラン『機神隊』のクランリーダーこそが、中学生時代からの同級生であり、今目の前にいる女、「王澤 回奏」である。
そう、ファイアワークスは認識していた。
「ところでさ、ミカちゃんはどうしたいわけ? 私も含めて……ユニークモンスターを倒した人たちを」
「おまえも含めて私のクランに入れる……と言いたいが、それは難しいだろう。特にお前が」
「だってミカちゃんのとこのクラン窮屈そうじゃん? 特にサブリーダーとかさ」
そう言うと、回奏の顔が強張り、苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
「やっぱ目の上のたんこぶほど、痛いものはないね〜、完璧人間ミカちゃんも」
「だからこそ、我々はユニークモンスターを討伐しないといけない」
なるほど、とファイアワークスは納得する。
「じゃあさ、私に少し考えがある。もし、ミカちゃんがこれに乗ってくれるって言うなら、会わせてあげるよ」
「本当か? お前の言葉は3割嘘だからな」
「失礼な、もう何年の付き合いだと思ってるの。嘘くらい見破ってほしいね」
「嘘はつくのか……まあいい……わかった、ひとまず話を聞く」
お昼ご飯の時間が終わるまで、会議は長引いた。
◇◇◇
「よし! 見えたぜ! グラスノア蟲地王国の王都! 『グラートセバル』がな!!」
俺たち3人と一体は、ジャングルを掻き分け、ついに王都を目視する。
「やっと見えたぁ……ほんと長い旅路だったよ……」
「でしゅ……ここまででもう4回は戦ったでしゅ……」
ジャングルを歩き、道中で戦闘を何度もしたからか、ミライとレイが疲れ切っている。
「レイさん、4回じゃないですよ? 6回です」
「あんまり変わんないでしゅ!!」
この道中で、レイと天皇河さんも仲が深まったみたいだ。
……ん? 仲を深めてどうするんだ……?
……やめだやめだ、この考えは面倒になるから一旦端に寄せておこう。
「にしてもやばかったなぁ……いろんなモンスターに襲われて……」
「流石はジャングル……神出鬼没で見えないところから攻撃してくるんだから……ほんと……」
そんなこんなで、俺たちは、王都『グラートセバル』へと到着した。
王都前には検問官が居り、それぞれ入る人に対して身分証提示などを求めているようだ。
ただ、並ぶほど人がいるわけではないし、割とスムーズに入れそうだな。
みんな順調に通過していく。
そして、遂に俺の番となる。
「身分証の提示をお願いいたしまス」
俺を対応したのは、蟻の蟲地人族であった。
「えーっと、じゃあこれで」
俺は冒険者ギルドの身分証を提示する。
「…………かしこまりましタ。こちらお通りくださイ」
難なく入ることができそうだ。
せっかくなので、俺は門番さんに話しかけてみることにした。
「門番さん、他の国ではこういった身分証の確認とか行わなかったんですけど、ここだけどうしてこういう提示が必要なんですか?」
「いエ、私たちも普段はしていないのですガ……最近王様がご乱心でしテ……」
王様がご乱心……?
「それはいつ頃から?」
「つい3日ほどまででしょうかネ。ですのデ、この身分の確認も王様が指示したことなのですヨ。無理をおかけしまス」
「なるほど……ありがとうございます」
3日ほど前……つい最近か……一体何があったんだ……?
まさか……グランドクエストとか言うやつが進行した影響か……?
色々考えて、結局何もわからなくなったため、とりあえず門をくぐることにした。
俺はそのまま門をくぐり、王都の中へと入る。
先に三人が通っており、ミライが、待ちくたびれたような態度で待っている。
「遅いよキョート……もう30分は待ったよ〜?」
「ダウト、そんな経ってねぇだろうが」
「バレた? でも結構待ったのはほんと。心理的にね」
うーん、まあ確かに話したり考え事してたりで少し時間は使ったかもしれない……
まあでも言われるほどでもないな!!
集まって少し落ち着いたのを確認したのか、天皇河さんが話す。
「みなさん、実は私、これから用事があって……少し抜けないといけないんです。ですので……」
「なるほど……なら待っとくよ」
「そうだね、暇だし〜」
「えっ!? あ……ありがとうございます!」
彼女的にも、ユニークモンスター討伐を成し遂げた俺たちと離れるということはしたくないだろう。
「あ、そうだ。フレンドになりませんか?」
天皇河さんが提案してくる。
「お、いいぜ」
「やったぁ〜、有名人とお知り合いだ〜」
ミライがはしゃいでいるが、まあ平常運転だな。うん。
俺たちはフレンドを交換し、続きは明日以降に行うことになった。
「それじゃ、お疲れ様でした!」
「うん、おつかれ〜」
「また明日な」
「でしゅ!」
「はい! また明日!」
天皇河さんがログアウトする。
「さて……流れに任せてここまできたものの……どうするよ、これから」
「うーん……まあ、とりあえずリスポーン登録する?」
「まあそうだな」
「でしゅ!」
そんなことを言っていると、メールが届いていたことに気づく。
「ん? なんだ、メール……?」
なんだ? 空のメール? イタズラメールか?
送り主は……げっ……ファイアワークス……!
そう言えば……朝のメール返し忘れてた……!
「ほんとにねぇ? なぁんで忘れるかなぁ?」
突如、俺の後ろから声が聞こえる。
それは、少し笑っているような、怒っているような声音で、俺へと語りかけていた。
「ま、まさか……」
俺が振り返る。
そこにいたのは、ファイアワークス、その本人であった。
「あ、ファイアさん! お久しぶりです〜」
「どうも〜ミライちゃん。元気だったみたいだね〜。レイちゃんもね〜」
「お久しぶりでしゅ!」
うーん不味いな、無視したつもりでもなかったが返し忘れていたぜ……ここは、逃げの一手だな。
抜き足……差し足……忍び足……
「どぉこに行こうとしてるのかなぁ? キョートくーん?」
不味い、奴の怒りのボルテージがマックスだ……!
「悪かったって、ちょっと忘れてただけなんだ」
「ここを君の墓場にしてあげようかぁ?」
「まてまてまてまて、ちょっと待てぇぇぇぇえ!!」
…………
………………
……………………
「んで……なんなんだよ……話って……」
「ちょっと待って……キョート……ふふふっ……」
「人のボコられた姿見て笑うなミライ!」
「いやだって……ふふふっ……」
ミライめ……あとで覚えておけよ……
ファイアワークスが話し出す。
「そうそう、話をしにきたんだよ」
「だからなんだよ。それは」
「それはね……私とキョートくん、ネイチャーくんと後、ミライちゃん……それと、アグリちゃんで……」
少し溜めた後、ようやく口に出す。
「クランを結成しない?」
「「…………クラン?」」




