一際目立つアイドルV
なんとか間に合いました
俺たちは、蟲地人族の街であり、砂漠の中でも一際目立つ街、「砂漠の都 クグルシカ」にたどり着く。
「ずいぶん賑わってるなぁ……」
「グラスノア蟲地王国の中でも最大級の街って言うくらいだからねぇ……そりゃ人も多いんでしょ」
「でしゅ! 蟲地人族の料理はすごく美味しいんでしゅよ! 早く食べたいでしゅ!!」
とのことなので、俺たちは休憩がてらレストランへと入った。
まさか有名インフルエンサーと食事を共にするとは思いもよらなかったが……何かの縁なのだろうか。
にしてもさっきのあの目……なんか謀略とか考えてそうな目だったな……危害を加えようってもんなら、こっちにも考えがあるが……生憎まだ何もしていない……まあ今のところは平和な冒険ということでいいのだろう……天皇河 邪鬼子ねぇ……
そんなこんなで俺たちはレストランへと入る。
触覚を生やした人族って言うとなんだか某漫画の某緑肌のキャラを思い出すが、生憎こいつらの肌は黒いし、皮膚の様々なところで外骨格に覆われている。
どうやら蟲地人族と言うのは、地域によって肌の色が違うようだ。というか、モデルとなった虫の種類が違う……というのが理由なのだろう。
「ご注文をお伺いしまス」
ちゃんと店員さんも蟲地人族なんだな。
汎用モブを使い回すとかよくあることだからな。特色があるのはいいことだ。
「んじゃ、何食べる? みんな」
ミライがメニュー表を持って聞いてくる。
「私は、蟲地料理でしゅ!! 美味しいでしゅよ〜!!」
そう言いながら、「店長自慢の鰐肉ハンバーグ」と書かれた商品を指差す。
「鰐肉ねぇ……んじゃ俺もそれで」
特に食事にこだわりとか無いしな。
「んじゃ私もそれで〜♪ じゃきーさんはどうする?」
「え、ミライ、天皇河さんのことじゃきーって呼んでんの?」
「さっきオッケーってもらったからね。そりゃ使うでしょ」
こいつ馴れ馴れしいな……
「すまないな、こういう奴なんだ」
「いえいえ! 楽しい人でいいと思いますよ! そうですねぇ……私もそれでお願いします」
「おっけー。じゃあこれ4つで!」
「かしこまりましタ。すぐにお持ちしますのデ、少しお待ちくださイ」
少ししてすぐに料理が出される。
見た感じは普通のハンバーグって感じだな……
「美味しいでしゅ〜!!」
「おう、そうだな」
俺たち探索者は味覚とかないからな……わからないんだよなぁ味とか。
ミライもゴム食ってるみたいな顔してるし……
天皇河さんも……別に嫌な顔はしてないな……別に何も感じてないのか?
レストランに入って食事を取っていると、店外で人だかりが出来始める。
「あ! あれってもしかして、じゃきー!?」
「じゃきーがいるの!? 嘘!?」
「俺、ファンなんだよ!! 握手してもらおうかな!?」
人だかりは、天皇河 邪鬼子の方へと注目しているようだ。
すごい人気だな……そこまで有名なのか……
そこに、天皇河さんが言う。
「皆さん、少し待っててください。ちょっと外の空気を吸ってきます」
「お、おう……」
「気を付けてね~……」
食べ終わったのか、空になった皿にナイフとフォークを置き、立ち上がり外へ出る。
外へ出ると、人だかりが天皇河さんの周りを囲む。
「天皇河 邪鬼子さんですよね!? よかったらサインとか...…」
「皆さん!」
そういうと、快活な声で彼女が喋る。
その声は、店内にまで聞こえてくる。
「いい? 今はプライベート中なの! あんまり人だかりを作っちゃうと周りに迷惑をかけるから! ちょっとお静かに……ね?」
その言葉を聞いた人だかりは、何か納得したかのようにうなずき、そして叫ぶ。
「ご、ごめんなさい!!!」
「いいのいいの! それよりサインだっけ? あそこの広場で書いてあげるから~! ちょっとついてきてね☆」
「あ、それなら俺もお願いします!!」
「お、おれも!」
「私も!!」
次々と手が上がる人たちに、天皇河さんが答える。
「はいはーい、ここだと他の人の迷惑になるからね~、こっちこっち~!!」
そういうと、ぞろぞろと人だかりが、一人の小柄な少女についていく。
そして、レストランの前から完全にいなくなる。
インフルエンサーってすげぇ……あんだけ居た人だかりを一瞬にしてどかすとは……流石としかいいようがないな……
「流石じゃきーさんだね。こなれてる」
「インフルエンサーってみんなこんな感じなのか……?」
「まあ、そうなんじゃない?」
俺は、さっきの天皇河さんと、ファイアワークスを見比べていた。
同じインフルエンサーでもここまで印象が違って見えるとは……
「うーん……やっぱあいつおかしいな……」
「ん? 何が?」
「いや、なんでもない」
「……?」
食事を終え、レストランを出ると天皇河さんが戻ってくる。
「はぁ……はぁ……お待たせしました……」
「大丈夫? お水飲む?」
「いえ……ご心配ありがとうございます」
「まあ、んじゃ出発するか。やっぱ王都に行かないとな」
蟲地王国の王都はどうやらジャングルの中にあるらしい。
そして、その王都は、ここから更に西に進んだところにあるという。
行くしかねぇだろ、冒険者的には……!
「じゃあ行こう〜!」
ミライが元気よく言う。
そこに、何かが走ってくる音が聞こえる。
「チッ……邪魔ダ!!」
「わぁ! な、なに……?」
突如ミライが突き飛ばされる。
何か急いでいる様子で走っている奴の手には、黒い鞄があった。
「僕のバッグ……!! 取られちゃっタ……!!」
すぐ後ろの方で、追いつけなくなったのか止まって啜り泣く少年の声が聞こえる。
どうやら、持ち物を取られたようだ。
「……〈狩人の視界〉」
突然、天皇河さんが喋る。
その手には弓を握っており、弦を張りつつ構える。
「…………〈一射一殺〉」
その手に込められた矢が放たれる。
その矢は、まっすぐひったくり犯の背中目掛けて飛んでいく。
「いでぇ!!?」
その矢は正確に命中した。
俺たちはひったくり犯に駆け寄る。
「だ……誰ダ……!」
「悪いことをする人は、おねーちゃん、許さないぞ☆」
その声こそは可愛げのある声であるが、その背後には、鬼の形相をした式神がいるかのような迫力があった。
「ひ……ひぃ……!!!」
そこに、治安部隊らしきNPCが駆けつける。
「どうされましたカ!?」
「この人、ひったくり犯なんです。捕まえておいてください」
「こ……こいつが……撃って……」
「はいはい、話は署の方で聞くからね」
「待て……こいつが……あの女が……!!!」
そう言いながら、男は治安部隊に連行された。
「……治安大丈夫か……? ここ……」
「大丈夫じゃないから治安部隊がいるんでしょ……」
「たしかに……」
天皇河さんは、バッグを持って少年の元へと駆け寄る。
「これ、君のバッグだよね?」
「エ……? あ……僕のバッグ……!! あ……ありがとウ!!」
「どういたしまして! よしよし〜」
随分と可愛がっているな……子供好きなのか……?
「そういえばキョート、さっきのひったくり犯さ……プレイヤーじゃなかった?」
「……え? プレイヤー……?」
どういうこと……なんでプレイヤーがそんなアホなことをしているんだ……? そんなことしなくても素材とか売れば金になるだろ……?
「もしかしたら、そう言う縛りプレイをしてるのかもしれませんね」
天皇河さんが帰ってくるなり言う。
「縛りプレイ?」
「ほら、あるじゃないですか。『ジャンプ禁止』とか、『〇〇禁止』って言葉。最近流行ってるんですよ」
「なるほど……」
俺が考えている間に、ミライが言う。
「それで、無一文になった。スタミナとかHPとかヤバすぎるからひったくりとかして、なんとかお金稼ぐしか無かった……ってこと? なんか変な人たちだね……」
「最近は悪質なプレイも増えてきましたからね……ほんと……」
なんか訳ありっぽいな。
ひと段落し、俺たちは街を出ることにする。
「さて……早く次の街に行くか」
「ですね……! 行きましょう!」
俺たちは道なき道を進みながら、蟲地王国の王都へと足を進める。
天皇河邪鬼子について軽く補足
天皇河邪鬼子は、「じゃきー」という愛称で親しまれています。




