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フロンティアグリーディア〜今日と今日から〜  作者: 無食子
憂越は鬱りて、尚陽炎を見ず
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第六十限 黒藍の吸血鬼、その20

この章でだけ50話いくとは思ってなかった。

動いちゃうもんね、仕方ないね

「やっべぇな……こいつ……思ったより焦ってやがる……」


焦りからなのか、吸血鬼は今までとは違う動きを見せる。

今まではどちらかと言うと優雅さを見せていたが、今は一風変わって乱れた攻撃へと変化していた。

俺は乱れ打つ吸血鬼の攻撃を、避け続けている。


「チッ……流石に全部の攻撃は避けれねぇ……!!」


爪攻撃が来る。

吸血鬼の攻撃を避けず、剣で弾く……構え!!


「ここッ! 〈パリィカウンター〉!!」


「憂鬱ですねぇ……! 私がそう何度も同じ罠に掛かると思っているとは……同じ手は喰らいませんよ……!」


クソッ……! 失敗したか……!

だがまだ持ち堪えれる……早くしてくれよ……ミライ……!


「憂鬱ですが……【シャドウボール】」


長い時間戦っていたからか、はたまた状態異常のせいか、俺はその攻撃に対応するのに少し遅れた。

藍色の球がこちらへと接近する。


「……! しまっ……!」


「キョートさん!!」


アグリさんの声が聞こえる。

その藍色の球は、アグリさんにぶつかると衝撃波を出し消滅した。

威力はかなりのものであろう……ぶつかればひとたまりもない……


「アグリさん! 大丈夫か!?」


「気にしないでください!! 私は平気です!! 今の私は……ただの盾ですから!!」


まじか……すっげぇ気概だ……

いくらノーダメージになるとはいえ、積極的に喰らいたいとかいうやつは居ないだろう……

アグリさんの瞳は、何を反射しているのか知らないが、光っていた。

未だ夜、暗闇の中、少しの灯りだけが頼りのこの戦いで、真っ直ぐ敵を向く。


「……なんかすげぇな……アグリさんは……」


「ほぇ? 何か言いました?」


「いや……奴を倒す続きをしないとな!」


「はい!!」


◇◇◇


「よし……これで全部……!」


ロウソクは置き終わった……火は後でつけるもの……


「次は……うん、誘導だね」


「違いますよ!!」


アルスが少し声を荒げて言う。


「あ、そうだそうだ、ネストくんを剥がさなきゃね……!」


ヒューヒュー……いやぁ、ワスレテタダナンテソンナ……ちょっと……アルス……視線が痛い……!


「そうだ、アルス。一つ頼みたいことがあるの」


「なんでしょうか?」


「私に魔法を撃ってほしい」


「え!?」


「私の魔法、覚えてる?」


その魔法とは、鏡洛魔法【イミテーション】だ。

今装填されている魔法は【ウォーターヒール】……

これだと剥がすことはできない。

だから、アルスの魔法が使いたいのだ。


「えっと……覚えています。確かチャイムの時に……」


「そうそう。それ以外でも使ったけど、その魔法を撃つためには」


「ですが、下手したらミライさんが死んでしまいます……! それに……!」


「……それに?」


「……私は今、魔法の強弱をつけれる状態じゃありません……」


「……なるほど」


どうしよう……困ったな……

魔法の熟達者は、魔法に強弱をつけることができる。

アルスはもちろんつけれるし、ネストくんも闇魔法に限りつけることができる。

だが、今のアルスの状態では、自身の力がコントロールできないと言っているのだ。


「……いや、待ってて。すぐに終わるから!」


私はインベントリからあるアイテムを出す。


「それは……宝玉ですか?」


「そうそう、よくわかったね。さすが首席ちゃん」


「その言い方はやめてください! それよりも、どうするんですか? そんな高価なものを……」


「これをこうして……こう!」


私は、手に持っていた宝玉を割った。


「えぇ!? ちょっと……高いのでは……!?」


「こんなの未来の勝利に比べたら安いもんだよ!」


それに、貰い物だからね……使わなきゃ損損。


「さて……来い……! MST(精神力)!!」


MSTを引きさえすれば……! まだ舞える……!



1回目は……DEF(守備力) ハズレ……


2回目は……INT(知力) ハズレではないけど……


3回目……来い来い来い来い……!


画面に表示された3文字は、「MST」と書かれていた。


「ぃよっしゃぁ!!! MST(精神力)増強だぁ!!!」


私はこの作戦がうまく行くと確信した。

運が巡り巡って私の元へと来た……!!


「アルス! 私へ魔法を撃って!! 絶対に倒れないから……!!」


「わ……わかりました……!!」


アルスは私に魔法を放つため、杖を振りかざす。


「行きますよ……! 【サンシャイン】!!!」


その瞬間、戦場の一角が、まるで真昼間のように光り輝く……


「うわ! 眩しっ!?」


「なにあれ……アルスちゃんとミライちゃん……?」


「くっ……なんですかこの光は……! 憂鬱ですねぇ……!!」


私は、その身にアルスの魔法を受けた。


…………


………………


……………………


「……なんとか耐えた……!!」


私は、HPが残り2割を切っていた。

危ない……ほんとに死ぬかと思った……!!

だけど……これなら……!


「行こう……! アルスちゃん!!」


「はい!!」


◇◇◇


今のは……合図ってわけか……!


「一気に切り込むぜ……!! 〈兎脚〉(ラビットフィート)!!」


俺は吸血鬼に一気に近づく。

そして、吸血鬼の眼前へと近づいて叫ぶ。


「〈双剣斬〉!!」


その瞬間、吸血鬼を斬りつける。

このスキルはリズムが重要だ……だからこそ……


「無闇に動くと怪我するぜぇ……!!」


「これは……憂鬱ですねぇ……! 【ブラインドネス】!!」


俺は視界が暗くなる。

何も見えない……だが……そんなのは意味ない……!


〈兎覚耳〉(ラビットイヤー)!! 起動!!」


俺は畳まれていた耳を伸ばし、展開する。

その様は、まさに兎人族(ラビニア)と呼ぶに相応しいものであった。


足音……後ろ……そこ……!!


「【ブルークロー】!!」


「〈パリィカウンター〉!!」


俺の剣と奴の爪がぶつかり合う。

その五月蠅さには、少し耳鳴りがするほどだ……が……そんなのは関係ない……!!


「くっ……こいつ……力を強めてきてやがる……!!」


〈パリィカウンター〉でカウンターをしようにも、弾くことができないと発動しない。

そして、奴は今、圧倒的なSTRで俺の剣を粉砕しようと目論んでいる……


今までそんなことしてこなかっただろ……!! 相当焦ってんのか……!!?

くっ……結構……っていうか、かなり厳しい……

だが……!!


「俺の相手してばっかで良いのかよ……! シフィリス・トガムさんよぉ……!」


「……なに?」


「行くよ……! 鏡洛魔法……【イミテーション……」


「「【サンシャイン(〈サンシャイン〉】)】!!!」」


二つの光源が、吸血鬼のすぐ後ろで光り出す。

その光源は、俺にすらダメージが届かんと言わんばかりの光を発していた。


「くっ……不味いですね……私が……(ネスト)が……! 剥がれ……!」


「そもそもあんたのじゃない!!」


「その身体は……ネストのものです!!」


光は吸血鬼を飲み込む。


「憂……鬱……です……ね……」


光の中からネストが飛び出してくる。

どうやら吸血鬼によって負った傷は治っているようである。

アルスがすぐさま駆けつけた。


「良かった……ネスト……」


意識が戻っていないネストを、アルスは抱きしめる。


俺の状態異常が回復した。


「……やったか?」


ネイチャーが言う。

だが、ここにいる全員、そう易々と気を緩めることはなかった。

俺たちの当初の予想では、この戦いは「一定時間が来るまで耐える時限制」だと思っていた。

そんな奴がすぐにくたばるとは思えない……

そして、その予感は的中した。


「憂鬱ですねぇ……非常に憂鬱です……まさかこの身体に乗り移ることになるとは……とても憂鬱です……」


シフィリス・トガムは、まだ生きていた。


「おいおい……しつこい男は嫌われるぜ……?」


「憂鬱ですねぇ……これだから嫌いなんですよ……光は……」


奴の弱点……やはり光か……

だとしたら……さっきの攻撃が一番効くが……


「ミライ……は無理そうだな……」


ミライのHPが2割を切っていた。

アグリさんの無敵時間も切れているみたいだ……

それに、宝玉の効果も切れている……

対して奴は回復こそしていないものの、リジェネが機能しているのかだんだんと損傷が回復していく……


「全てやり直しってか……?」


きついぞ今更! なんだこのボス……ほんとに勝てんのか……?


そんな時、俺に一通のメールが届く。


「メール……なんでこんな時に……」


宛名は、マロンさんからだった。


『もうすぐ魔導学府つくんだけどさ、空暗すぎない? なんか雲みたいなのがかかってるし。もう朝の7時だよ? そっちはどうなってる? もう終わった?』


はぁ……? こっちはどう考えても夜中の……


まてよ……? まじかよ……! 大マジかよ!!


「くっそ……してやられてたぜ……」


だとしたら……この空は偽物……つまり……


「キョートさん?」


いつの間にか近くまで来ていたアグリさんが心配の眼差しでみている。


「……良いところにアグリさん……大急ぎでみんなに伝えたいことがある……」


俺はアグリさんに俺の推理を伝える。

アグリさんが少し険しい顔をする。


「なるほど……それが正しければ……この戦いに勝てないってことですか……?」


「あぁ……そうなる……だから、その対処のために、みんなに伝えてくれ」


「わかりました!!」


「よろしく頼む……それとネイチャーに、『派手に暴れろ』ってことも」


「わ、わかりました!!」


アグリさんは大急ぎでみんなの元へと駆けつける。

俺はどうするべきか……


「やっぱ……まだぶつかるってか……?」


俺はまた、吸血鬼と目が合う。

どうやらこいつも、俺のことが相当憎いらしい……


「かかってこいよ! 言っただろ、逃げも隠れもしないってな!!」


俺はまた、奴と対峙する。


今度はこの剣だ……行くぜ……ミアテット……!

そろそろこの章も終盤なのです。

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