第五十五限 黒藍の吸血鬼、その15
ぬん
キョートとレイちゃんが前線を張っている……私たちはその間にしないといけないことがある……
ひとつは吸血鬼の弱点探し。
吸血鬼にはいろんな弱点があるけど、その中でも異様に嫌うものを探すことだ……
この弱点に関してはアグリさんは探知できない。
アグリさんはあくまで「弱点であろう場所」を探知することしかできない。
故に、弱点の属性とかは自分達で調べるしかないのだ……
今の所……有力なのは「銀製の武器」と「光」だが……
「光の攻撃ってなんでもいいのか?」
ネイチャーさんが聞いてくる。
「わかりません……ただの光でいいのか……光属性じゃないとダメなのか……」
「……んでも、その光属性を使える奴が今あんな状態だぞ? 今向かわせたら間違いなく死ぬぞあれは」
私は、ネイチャーさんが指差した方を見る。
そこには、力を失ったかのように座り込むアルスさんの姿があった。
私たちのしないといけないこと二つ目は、アルスさんの回復……いや、メンタルケアだ。
どれだけ私たちが強くなったとはいえ、今この場で一番レベルが高いのはファイアさんとアルスさんなのだ。
さらに、有効打であろう光属性の魔法を持っているのも彼女である……すなわち、なんとかして彼女を立ち上がらせないといけない……
「アルスさん……聞こえる?」
「……イさん……も……だ……」
「ん……?」
「もうやだ……なんで……私の周りの人は……みんな……不幸に……」
「アルスさん……」
「私なんて……」
「そ、そんなことないですよ! アルスさんも頑張ってますし! それに、絶対に戻ってこないなんてことは……」
「ですが……!」
力強い口調で、アルスさんが叫ぶ。
その声は、前線で戦っている人には聞こえない程であったが、確かに感情が乗っていた。
「私が襲われたから……私が狙われたから……私が最優秀生徒であったから……みなさんが……危険な目に……ネストも……」
静寂が響き渡る……そう思っていた時、一つの風が滞留する空気を変える。
「おい、アルスって奴」
「……なんでしょうか……えっと……」
「ネイチャーだ。名前なんて今はどうでもいい」
突然、ネイチャーさんがアルスさんと話し始める。
何を言う気なんだ……?
「単刀直入に言うわ。俺はお前のことが嫌いだ。不幸な目に遭わせるからとか、危険な目に遭わせたからとか、そんなものじゃない。お前のその態度が嫌いだ」
「……!」
「NPCにこんなこと言ってもってところはあるし、俺も説教垂れ流すつもりでここにきたわけじゃない。ただ、弱音を吐くのはここじゃねぇだろ。お前がそう言っている間に、キョートだってファイアワークスだってレイって奴だって頑張ってるんだよ。お前の大切な幼馴染助けるために頑張ってんだよ。お前を助けるために、みんな頑張ってきたんだよ。だから、せめて卑屈に考えてくれるな。俺たちがお前を助けた、俺たちがあいつを助ける意味がないだろ」
その言葉は、ある意味間違っていて、ある意味合っていた。
「いや、キョートはどうせそんな助けたいとか思ってないから。ユニークモンスターを倒したいって思いしかないでしょきっと」
ただ……この言葉自体は正しい。
アルスちゃんには卑屈になってほしくない。
ネストくんと言い合いながらも頼りになる、ちょっとどこか抜けた存在で居続けて欲しい。
「アルスさん、私たちも勝つ気で来てる。それには、アルスさんの力が必要なの。だからお願い、力を貸して欲しい」
それは、本心からの言葉であった。
「…………ね……」
また、アルスさんが何か言った。
その話した内容は、すぐに分かった
「みなさん……本当に優しいですね……」
「もちろん、アルスさんも友達であり、仲間でしょ!」
「友達であり……仲間……」
「まあ俺はそんなこと思ってないけどな。たかだかNPCにそんな熱い感情は向けたくない」
「えぇ!? せっかくいいこと言ってましたのに、なんでそんなこと言うんですか?」
「悪かったな。これがキョートの友達である"悪友共"の生き方なんだよ」
やっぱ変なひと多いなぁ……ただ、たしかに関わりとかないし……普通の人はその発想なのかな。
「アルスさんもミライさんもネイチャーさんも、みんな私の友達ですよ」
アグリさんが言う。
なんという朗らかな雰囲気なのだろうか。
だが、忘れてはいけない。ここはバトルフィールドであり、死地なのだ。こうしているうちに、キョート達が耐えようと頑張っている。
「私も復帰したから! 行けるよキョートくん!」
「来たかファイアワークス! オッケーだ! レイは少し休んどけ!」
「でしゅ!? でしゅが……」
「体力を万全にしたらスイッチだ! わかったな!?」
「わ、わかったでしゅ!」
レイちゃんが発光している間、レイちゃんには攻撃は飛んで来なかった。
キョートが避け続けて攻撃を加え続けた。
それであってもレイちゃんとキョートくんのHPは1割まで減少していき、MPも減らしていた。
スタミナもすでに底を尽きている。
そんな状態でも尚、スキルを駆使して避け続けていた。
だが、あんな状態が長続きするわけがない。
現に吸血鬼のHPはほとんど減っていないらしい。
おそらくリジェネ……自己回復を所持しているだろう……
いずれ瓦解する。そうなれば、キョートとレイちゃんが一時停止してしまい、後に残るのは復活したてでHPが半分しかないファイアさんと近接職ではない人たちばかり……早く私たちがサポートしないと……!
「アルスさん、行けそう?」
「……ミライさん、ネイチャーさん、アグリさん」
「……どうしたの?」
「なんだ? 言いたいことは早めによろしく」
ネイチャーさんは行く準備を整えている。
「なんですか?」
アグリさんもスキルを再使用していた。
「……私のことは、アルスとお呼びください。お前とかさん付けとかじゃない……友達で呼び合うような……です……それと、私はもう大丈夫です。」
「……どっちでもいい、立てるなら戦力になってもらうだけだからな!」
ネイチャーさんは少し厳しめ。
「もちろんですよ! よろしくお願いします!」
アグリさんは優しめ。
私はどう言おうかな……よし、決めた。
「わかった……じゃあ、行こうか、アルス!」
「……はい!」
私たちは、アルスの回復という課題を見事にクリアした。
よし、これで戦力は大幅増強だ……
問題となるのは吸血鬼の弱点だ……が、これも見当がついてきた。
「アルス、早速で悪いんだけどさ……」
私はアルスに聞きながら話す。
「……たしかに……それなら倒せるかもしれません。ですが、そこまでセットするのに時間がどれくらいかかるのか……」
「そこは……うちの前線組を信頼してほしいな」
指を刺しながら、私は言う。
この作戦は、一度私が一人離脱するため、今までリスクが大きかった。
その穴を、アルスが塞いでくれている。
今ならいける……!
私はネイチャーさんとアグリさんにも共有した。
「……それ、効くって言う確証あるのかよ」
「一応過去にもそう言うことをしている。だから行けると思う」
「ですが……いえ、私はミライさんを信じますね!」
「なんでこんなあって数時間の人間を信じれるのやら……待ってるぞ。来るまで耐え抜いてやるよ!」
「……ありがとうございます! キョートやレイちゃん、ファイアさんにも伝えてください。できれば吸血鬼にはバレずに」
「任せろ」
「私がなんとかしてみます!」
アグリさんとネイチャーさんが言う。
あ、この人たちなんだかんだいい人だな……そうひしひしと伝わってくる。
「じゃあ……やってきます!!」
私は、一人中庭から離れ、北館1階へと足を運んだ。
とある小冊子を持ちながら、走り続ける。
あぁ……移動系スキルとか移動系魔法が欲しい!!
そう思いながら
そろそろイメージ立ち絵とか出してもいいのかなって頃合いですが、正直需要があるのかと言われるとうーん……となるので一旦保留トゥナイトです。




