第五十三限 黒藍の吸血鬼、その13
GWとかいうやつが終われば忙しくなりそうです。
GW中は毎日投稿継続します!
〈ユニークモンスター 『青の吸血鬼』シフィリス・トガムが出現しました。〉
サマルテGTの時に得たような威圧感を放つその存在に、俺たち全員が気圧される。
ユニークモンスター……こっちが本物ってわけか……!
「まじかよ……あいつは前座だったってことかよ……」
「さすがはユニークモンスター……何重にも重ねてくるとはね……でも、それならそのままぶっ飛ばすだけだけどね……!」
「ハハッ……そうだな!」
ネイチャーとファイアワークスは覚悟は決まってるようだ。
「HP、MP共にさっきの吸血鬼とは桁違いです……! 気をつけてください!!」
アグリさんがそう伝える。
「行くぞ! おそらくこっからがこのクエストの山場だ!」
俺は『二丁剣 雷電』を装備し、臨戦態勢を取る。
静かな静寂が辺りを包む。
先に動いたのは敵の方であった。
「【ナイトメアワールド】」
奴の周りから異質なオーラが出てくる。
少し様子が変わった。
空気が、淀めいている。青く、そう深く、青く……
それは、4階に上がった時に感じた空気と同じものであった。
「奴のフィールドってか……! 〈兎脚〉!!」
俺は距離を縮める。
吸血鬼は未だ動く気配はない。誘われているのか……?
「このまま……! 斬りつける……!!」
俺は二本の剣を振りかぶり、吸血鬼の首目掛けて斬りつけようとする。
「あぁ……憂鬱ですねぇ……」
「なっ……!?」
だが、その攻撃が当たることはなかった。
すんでのところで敵は反撃の構えを取り、その姿勢を低くした。
元の首の位置には、ただ空間があるだけだった。
「そう……当たると思っていた攻撃が当たらないのは……実に憂鬱ですね……フフフッ……」
俺に近づくは、奴の足だった。
斬りつける動作から次の動作に移行する頃には、俺の腹に一発の衝撃が響く。
「ぐはっ……!?」
俺はそのまま飛ばされ、校舎の壁に激突した。
「キョート!?」
「……いてて……やべぇなあいつ……ただの蹴りでこれだけのダメージだと……?」
満タンだった俺の体力は半分へとなっている。
これは体力が半分しか削れなかったのではない……
「……チッ……ここで一枚使用してしまったか……!」
再起の祈符が一枚減っている……残りはあと1枚……
きついな……こいつがユニークモンスターか……!
ただ、この効果が発動されたということは、俺の行動は意味をなさない……回復に専念するしかない……
俺がダウンしている間も、攻勢が止まることはなかった。
「キョートくんがやられたからって……別に困ることでもないね……! 〈蔓の鞭〉!!」
ファイアワークスは、自身の体から無数に蔓を出し、吸血鬼を撹乱する。
そのことにしっかりと反応するように、吸血鬼もファイアワークスへと狙いを定める。
「ふふふっ……憂鬱ですねぇ……やはりあなたが最も厄介な敵のようですね……」
「それはどうも!!」
蔓で攻撃するファイアワークスであったが、そのほとんどが避けられてしまう。
「ですので……憂鬱でしょうが……消えてください……」
吸血鬼はファイアワークスを掴み掛かろうとする。
その瞬間、吸血鬼の目の前を通り過ぎた物体があった。それは矢であった。
「おいおい……一人にばっか注目してるなんて……お間抜けさんだぜ……?」
「まさか石を投げつけられるとは……憂鬱ですねぇ……」
しっかりと避けた吸血鬼に対して、ネイチャーはすかさず構えを取る。
「即断即決!! 〈乱れ打ち〉!!」
ネイチャーはファイアワークスが張った蔓の中へと勢いよく矢を放つ。
その様はまるで昔の合戦かのような矢の雨であった。
「今日の天気は晴れのち矢雨ってかぁ!?」
「くっ……憂鬱ですねぇ……誰も彼もが厄介です……」
吸血鬼は矢の雨を受け、少し後ろへと下がる。
「さぁ……憂鬱ですが……【ブラインドネス】」
射程内に居た人物達……ファイアワークスとネイチャーの視界が失われる。
「何これ……全く見えないんだけど!!」
「やっべぇ……どこから来るかわからねぇな……」
ネイチャーとファイアワークスが立ち止まる。
ファイアワークスは蔓を使い、ネイチャーは聴力で、吸血鬼の動向を探る。
ネイチャーの方へと吸血鬼が忍び寄る。
「憂鬱ですね……」
「そこ……!」
ネイチャーは声のする方へと矢を放つ。
当たった感触は……
「残念ですねぇ……」
なかった。
ネイチャーの後ろへと回っていた吸血鬼が、ネイチャーに攻撃を加えようとする。
「でしゅぅぅぅぅぅううう!!! 〈怒棍〉!!」
「……なに……!?」
その時、レイが急接近をする。
攻撃を加えようとした瞬間を狙ったのか、吸血鬼にぶつかる。
吸血鬼はぶつかった衝撃で、ネイチャーから離れ、少し距離を置く。
「憂鬱ですね……やはり物理には危険が伴いますね……憂鬱ですが……【ブラックスケア】」
その攻撃は、ファイアワークスとネイチャー、レイに向けた攻撃であった。
アグリさんが叫ぶ。
「みなさん!! 魔法がきます!!」
MPが消費したことが見えたのだろう。戦闘離脱中の俺を除いて、一番遠くにいるはずなのに真っ先に言えるのは軍師向けと言えるかもしれない。
「あれは痛いやつ……! なら、【バリアブレイブ】!!」
ミライが、そう唱えると、俺と敵を除いた全員のHPに消費型の装甲がつく。
「憂鬱ですねぇ……ですので、喰らってください……」
そう唱えると、3人の装甲がみるみる減っていく。
そして、やがて装甲が剥がれたが、それにお構いなしにダメージを与える。
「くっ……なんだこれ……!」
「い……いたいでしゅ……!?」
「やぁばい……あんま喰らいたくない痛みだ……!」
3人の装甲は剥がれ、それぞれ大幅にHPが削られた。
だが、まだなんとか立っているという状況だった。
「まずい……みんな回復しないと……!」
だが、ミライとアグリが動けない理由があった。
そもそもアグリには、攻撃魔法はなく、スキルでの攻撃もさほどダメージがでない。かろうじてあるのはレベルの低いサブジョブ「体術使い」の技のみであり、それもこの数日で取ったものであるため、あまり有用ではない。
そして、ミライはそんなアグリと、今回の護衛対象兼救出対象であるアルスを守らないといけない。
今、アルスはネストの気絶により錯乱しており、まともに戦えるような状態ではない……
ネストも、回復を試みてはいるようだが、回復する気配は一切なかった。
故に、今前に立っている3人が倒れた場合、この戦闘は敗色濃厚となる……
俺の行動制限ももう時期回復するが……今の体力だと守りきれるかどうか……
そんな極限の状態の中、その緊張が切れるような音が聞こえる。
静寂に突如鳴り響いたのは、チャイムであった。
不気味な音色で鳴り響いたそれは、確かにみんながよく聞く"キーンコーンカーンコーン"のリズムであった。
「ふははっ……そうですか……もうそんな時間でしたか……憂鬱ですねぇ……」
「……何を言っているの……?」
単純な疑問がミライに降りかかる。
止めたはずではないか……いや、それに関しては復活する可能性があると結論づけた。
チャイムが鳴った……つまり今は深夜1時ということだ……
では何故あいつは笑った……?
その答えはすぐにわかった。
「……アルスさん……?」
アグリさんがそう呟く。
ファイアワークスとネイチャー、レイには聞こえない。
ほんの小さな声だった。
「…………まてよ……」
ミライの頭の中で駆け巡る情報。
それは、一つの結論へと導いた。
「もしや、アルスさんに最初から何か仕込んでいたのではないか……」と。
その結論は今、形となって現れた。
アルスがネストを抱えて歩き始める。
アグリさんが叫ぶ。
「アルスさん!! 危ないですよ!! そっちは危ない!!」
ミライはすぐに走り出す。
アルスの目には光がなかった……きっと操られている……
アルスを止めるため、どうにかして……
「待って、アルスちゃん!!」
「おや……憂鬱ですねぇ……」
ミライの目の前に、吸血鬼が接近する。
そして、ミライの首筋に向かって牙を向ける。
「……なっ……!?」
それに気づいた時には、すでに牙が首筋へと食い込んだ後であった。
「……っ!!?」
ミライが崩れ落ちる。まるで力が抜けたかのような感覚に陥っていた。
(なんだ……今……何された……? 力が……抜けた……? ゲームで……?)
ミライは、意識を失うことはなかったが、耐え難い憂鬱感と脱力感に見舞われた。
(まずい……このままだと……)
「何かわからないけど……辿り着かせない……! 〈蔓の鞭〉!」
無数の蔓が、アルスの行手を阻む。
「邪魔です。【サンシャイン】」
虚な瞳でファイアワークスの方へと向いたアルスは、ファイアワークスへと魔法を行使する。
「ちょっ……嘘でしょ……!?」
ファイアワークスは光に包まれ、吹き飛ばされる。
それに応じて、蔓も吹き飛ばされてしまう。
ネイチャーやレイの妨害は、アルスを傷つけてしまう。アグリさんには力がない。だから止めれるのは、純粋な拘束魔法を持つミライとファイアワークスだけであった。
その二人が無理だったということは、もうアルスを止めることはできない……
そして、アルスは指定の位置へと辿り着く。
「ふふふ……憂鬱ですねぇ……守るべき対象が操られていたというのは……はははっ……それと……感謝しています……主様……」
アルスは抱えているネストを吸血鬼に差し出す。
それを見た吸血鬼が、笑う。
「憂鬱ですね……これが終わればまたあなたは正気に戻ってしまう……ですから、正気に戻った後も狂気に陥れるようにしましょう……ふふふ……」
チャイムが鳴り終わると同時に、アルスの意識は戻る。それと同時に、自分がしたことを理解する。
「え……嘘……なんで……私……」
「ありがとうございます……主様……あなたからの贈り物を……しかと頂戴いたしました……目一杯……憂鬱になりましょう……」
吸血鬼は、アルスを優しく吹き飛ばす。
そして、ネストを置き、何かを書き始める。
「見ていてください……主様……私の儀式を……」
プレイヤー達のウィンドウから、浮かび上がってくる。
そこには、「イベント:融合の儀」と書かれていた。
少し長くなってしまいました。
まあ、許してください。
出てきた魔法について
あんま本編で語る必要ないなって思ったのでここに掲載
そのうちフログリ内魔法大全集とか作りたいですね。
バリアブレイブ
属性外属性魔法【バリアハート】の進化版。
消費型装甲の耐久値が大幅に増えたものである。