第五十一限 黒藍の吸血鬼、その11
Switch2欲しい
まずい……キョートとファイアさんが動けなくなった……前衛組が両方止められたのはこちらにとってかなり……いや、すごくヤバい。
何より立てていた作戦が崩壊する危険性が出てきた……ここは私がやるしかない……
「ネストくん、あの魔法の準備は?」
「もう発動可能だ……だが……アルスも巻き込んでしまう……たのむ、誰でもいい、アルスを奴から引き剥がしてくれないか……?」
「と言っても……どうすれば……」
「あの吸血鬼の弱点は……心臓みたいです。そこを攻撃すれば、怯ませて手を緩めるかもしれません……」
「でも……その肝心の心臓の前にはアルスちゃんがいるし……」
「……俺がやる」
そう言ったのはネイチャーさんと言う方だった。
「ネイチャーさん、できるんですか?」
「俺はシューターだ。一発で命中させれる。でもそのためには、奴の俺に対する注意を消すこと、そして、アルスというやつが奴の心臓を守っていないタイミングでないといけない。誰か前に出てくれると助かる」
何をするんだろうか……だが、策があると言うのならば……
「わかりました! レイちゃん、アグリさん、いける?」
「私はいけるでしゅ!」
「〈鑑識眼〉をしているので、準備バッチリです!!」
「おっけー……あの行動不能の2人は後回し! まずは全力でサポートだよ!」
「でしゅ!」
「はい!!」
私の残りMPも半分切ったし……なかなか辛いなあ……こりゃまた……
「行くよ……【バリアハート】!!」
「おや……次はあなた達ですか……まとめてかかってきてください……」
私たちの目的は、撹乱すること……であれば……!!
「レイちゃん!!」
「わかったでしゅ!! 〈怒棍〉!!」
勢いよく飛び出し、先生目掛けて頭突きをする。
その行動を先生は予測できていなかったのか、攻撃は足にヒットする。
「くっ……まさか物理攻撃とは……」
「アルスちゃんを返してもらいます!! 【ウィンドカッター】!!」
風の刃が先生の脚を目掛けて放たれる。
機動力が失われている先生は、当たることしか出来なかった。
攻撃はしっかりと命中した。
「よし! いい感じ!!」
「吸血鬼のHPも減ってきています!!」
便利だな……アグリさんの〈鑑識眼〉……
職業:探偵のジョブスキル、〈鑑識眼〉
対象のHP、MP、そして弱点がわかるというものだ。
探偵でレベル20に到達することで開眼できるらしい。
序盤のスキルにしてはなかなか破格なものだ……
「今ならいけます!! ネイチャーさん!!」
「任せろ……!! 俺の得意技を見してやる……!」
精神を研ぎ澄まし、標的に狙いをつけ、放つ。
「〈狙撃〉……!!」
その矢は、空を突き刺しながら、狙いに向かって進む。
その狙いは先生の心臓にあった。
「くっ……まず……」
「もう遅いぜ! 吸血鬼!!」
放たれた矢は、先生の心臓があるであろう部分に当たり、先生がのけぞる。
「くっ……」
「もらったでしゅ!!」
その隙をついて、レイちゃんがアルスさんと先生を引き剥がす。
「レイちゃんナイス!」
そのままアルスさんはネストくんのところへと運ばれる。その事実に一番にキレていたのは先生であった。
「…………不味いですねぇ……これは……もう容赦はしませんよ……」
私たちは、先生の方へと向き直す。
「例え先生であっても……友達を傷つけたなら、容赦はしない……!!! あなたは先生じゃない!!!」
「ふっはっは……そうですか……悪い生徒ですね……そんなあなたにはお仕置きが必要なようです……」
私は窓際まで歩きながら、杖を持つ手の方を前へとする。それに呼応し、レイちゃんは教室側の方へと行き、手を前へと出す。
「容赦なし!! 【ボルフレア】!!」
「【ボルフレア】でしゅ!!」
二つのボルフレアが先生……いや、吸血鬼に向かって放たれる。その炎は渦巻き、一つになると、更に火は燃えたぎる。
「くっ……なんという光……! そして熱……!」
その炎は吸血鬼へと命中した。
「当てたでしゅ!!」
なんだ……何か違和感が……
当たったという感触がない……
なぜだ……?
その答えはすぐにわかった。
「流石は私の教え子ですね……当たれば火傷では済まないでしょう……ですが……」
「…!! ミライさん! 後ろ!!」
「!? なっ……!?」
まさか……瞬間移動……!?
「遅いですね……【ウィンドバースト】」
「くっ……うわぁぁあああ!!!」
私は後ろへと吹き飛ばされる。
後ろには、私たちが生み出した炎の渦が残っていた。
「ミライさん!!!」
アグリさんが叫ぶ。
このままだと炎の中へとドボンする……ここで意識を失えばどうなるかわからない……だけど……
「ネストくん!! やれぇぇええええ!!!」
その声を聞いたネストくんは反応する。
「アルスを誘拐した罪は償ってもらう……! 【ダークパイル】ッ!!!」
私たちの狙い、それは、窓際まで吸血鬼を誘導し、その後魔法で中庭まで弾き飛ばすというものであった。
その攻撃はしっかりと命中し、吸血鬼は外へと弾き飛ばされる。
「死にたくないからね……【ウォーターヒール】!」
私は杖を炎の側へと向け、水を噴射した。
私は水属性を扱う値だけ異常に高い……
それを使えば……
水を噴射してから炎は弱まり始め、ついには鎮火に成功する。
「よし!! 鎮火完了!!」
「俺はこいつらを起こす。他のみんなは先に行っててくれ」
「うん、わかった」
ネストくんを残し、私たちも下へと降りる。
そこには、怒り心頭の吸血鬼さんが居た。
「……貴様等…………!」
「さて、第二ラウンド開幕だよ……」
◇◇◇
俺達は身動きが取れない状況……これはまずいな……
そんな時、後ろからとある声が聞こえる。
「【バインドストローク】」
そう聞こえると同時に、俺たちの暗闇状態は消えた。
「大丈夫か?」
そう言ってきたのはネストだった。
「お、お前が魔法を撃つってことは……うまく行ったわけだな……?」
ネストの側にはアルスと呼ばれていた少女が居た。
「もちろんだ……だが……俺はアルスをこんな目に遭わせたあの吸血鬼が憎い。まだ、協力してくれ」
俺達は少し気の抜けた顔をすると、顔を見合わせ2人で笑う。
「な、何がおかしい!」
「いやぁ……当たり前のことを聞くなって思ってな」
「なに……?」
「お前もその子も助けてやるし、あいつも倒す。それが俺たちの……冒険者のやり方なんだよ」
「だからそんな心配はしなくていいよ〜?」
「そ、そうか……ありがとう……」
律儀なNPCだな……足手纏いとかいってごめんな……
「そんなことよりも……さっさとぶっ飛ばそうぜ……あの吸血鬼をよ」
「そうだね……さぁ、みんなが闘っているから、行こう」
俺たちは、下……つまり中庭へと降りた。
まだ戦闘は再開してないようだ。
「くっくっくっ……やはり面倒でしたね……死んでください……みなさん……!!」
「なぁに言ってんだ……お前がぶっ飛ばされるんだよ!」
「先生……いや、吸血鬼……! あなたを絶対倒します!!」
さぁ、第二ラウンド……開始だ。




