第六話 新米とうるさい男
短くなると言ったな……
あれは嘘だ……
「どうしよっかなぁ……」
私は今、考えている。
おばちゃんと名乗るNPCに連れられ、ギルドに行った私は、ギルドマスターと邂逅した。
ギルドマスター曰く、「3つの依頼を受け、依頼達成すると合格となる」らしい。
なので今、依頼書が貼られている所の前に来ているのだ。
「できそうなのは……魔導書庫の清掃、貴族様の家の清掃、学校の清掃、酒場の清掃……ってぇ! 全部清掃じゃないの!!」
なに? 初心者はこれくらいがお似合いですって!?
舐めてんじゃないわよ!
「ってか……これ以外に何かないのかな……」
討伐系依頼は当然ダメ。私は今、生まれたての赤ちゃんのようなものだから、少し格上が出たらすぐに死んじゃう。魔法職だし尚更ね。
他は清掃依頼と王都の外へ出る依頼だから時間がかかる。
他の冒険者と組もうにも、チュートリアルクエストはプレイヤー同士のパーティは組めないし……
「やっぱ清掃しかないのかぁ……?」
「やぁ! そこの麗しいご令嬢!」
「? お貴族様が近くにいるのかな……?」
だとしたら依頼とかもらえるかも……って言ってもレベル的に無理か
「もっと違う依頼でも探すかぁ……」
「聞いていますか! 麗しいご令嬢!」
無視されてる人いるわ、笑っちゃうねぇ〜
「そこのご令嬢! 水のように綺麗な髪をし、鏡のように綺麗な青色の瞳を持つそこのご令嬢!」
……どこかで聞いたことあるな……いや厳密には"言われた"ことがある……
水のような髪色……青い瞳……もしや……いや……そんなわけが……
私は後ろを振り返った。
そこには、私の方を指差し、大股で中腰になり立ち止まっている金髪の男がいた。
…………いや、気のせいかもしれない。
「えっと……どなた様でしょうか……?」
「申し遅れた、コホン……私の名前はアインス! 君と共に冒険に出かけたいのだ麗しきご令嬢よ」
「いや、今は……」
組めないしなぁ……
「是非とも共に冒険をしたいのだ!」
えー……?
この人も初心者の頃があったわけだしチュートリアルクエストについてわかってるよね……アインスだっけ……? 一体どんなプレイヤー……
その時、私の眼前に一つのウィンドウが表示された。
〈お助けNPC:アインスを仲間に加えますか?〉
…………ふぇ!?
「あなたってプレイヤーじゃ……?」
「ぷれいやぁ……? なんだその珍妙な名前は。とにかくどうだろうか? ご一緒したいが……無理なら無理と言ってくれ! 私はいつでも待っている!」
「えっと……一つ質問をいいですか?」
「なんなりと!」
「あなたの職業は……近接職……あー……戦士とかですか……?」
「私か? 私は聖戦士である!」
聖戦士ってなんだ……?そんな職業あったっけな……まさか上位職業?
だけど近接職っぽいな……てことはもしかして討伐依頼系も行けそうでは……?
「えっと……付いてくるのはいいのですが、あまり勝手な行動だけはやめてくださいね……?」
「なに!? 一緒に冒険してくれるのか!? 感謝する! 麗しきご令嬢!」
「あー……麗しきご令嬢は言いづらいと思うので……わたしはミライです。よろしくお願いします。」
そう言って、私は手を差し出し、握手の構えをとる。
「そうか、麗しい名前だ! ミライ嬢! よろしく頼む!」
そう言って握手を交わした。
NPCも握手ってするんだ。賢いな……
あと……なんだこの濃いNPCは……さすがは神ゲー……? なのか?
とりあえず、受付に依頼を出しに行くことにした。
「すみません、この依頼を受けたいのですが!」
私が出した3つの依頼はそれぞれこのようになった。
・魔導書庫の清掃
・錬金術師の護衛
・道草の除去
一つは戦闘系、一つは護衛系、そして一つはエリア系か……時間はかかるけど、これが一番やりやすそうだし、何より作業感が薄い!
「流石に3箇所掃除なんてのは流石に精神的にキツいからなぁ……」
「ところで! ミライ嬢はどのようなことができるのだろうか?」
「私は……魔法使いかな? レベルは低いし、まだ一度もモンスターと戦ったことないからあれだけど」
「ふむ……であれば魔導書庫の清掃は正解だったかもしれないな!」
「というと?」
「スタルトラ大図書館は、いつも魔導書庫の掃除の依頼を出しているのだ。その報酬というか対価として、魔導書を一つプレゼントするという。変わったところだろう?」
「たしかに……」
たしかに一般人的目線では変なことかもしれない。だけど、私たちプレイヤーにとってはありがたいものかもしれない。なにせ、チュートリアル装備しか持ってない人にとって、いきなり強化チャンスの可能性があるということ。
「そういうことなら、まずは魔導書庫に行くべきかな」
「いや、この内容だとまずは錬金術師の護衛をするのが良いだろう!」
「というと?」
「この国の錬金術師は外に出ない。」
「なるほどね?」
研究に没頭して家から出ないタイプだなさては……
てことは割と楽勝?
「多分だが、表向きは護衛として依頼しているが、実際は新たな錬金道具のテスターをする人材を探している……と言ったところだろう。」
「え?」
それって、私が被験体になるのでは……?
「えっと……本当に大丈夫?」
「大丈夫だ! この国の錬金術師はそこまで狂ってはいない。テスターの体調を損なうことはないだろう。それに、私も一度受けたことがある。」
「な、ならいっか…………」
少し心配だったが、錬金術師のアトリエに私たちは赴いた。
予想通りテスターとなってくれと言う依頼だったが、割とすぐに終わった。気になったのは……
「この薬はなんですか?」
「これは、痛みを一時的に無くして、無敵になる薬ですよ〜……ですが、短時間しか続かないし、その後激痛に見舞われるので、あまりおすすめはしませ〜ん……」
うん、麻酔じゃん。
流石は錬金術師?
「いりますか〜? 今ならタダであげちゃいますよ〜?」
「え、うーん……じゃあもらうだけ貰っときますね……」
「ありがとうございます〜……置き場所に困ってたので、貰い手が見つかってよかったです〜」
これはまたクセがすごいな……
それにしてもテスターしてる時横でアインスが「ミライ嬢はとても麗しい。そう思うだろう?」とかずっと言っていたのは正直うるさかった。
そんなこんなで次は魔導書庫の清掃をしに来た。
「うわ! 予想以上の汚さ!」
「うむ……埃まみれであるな……」
これだけ汚れてると掃除せずにはいられない……!!
「うおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「ミライ嬢! とても麗しい……!!」
「アインスもしっかり手伝う!!」
「おまかせを!!」
片付けは、3時間ほどで終わった。
「あ"ー……しんどい……これで綺麗になった……」
「おやおやまあ……こんなにも早く終わるとは……初めてのことだよ……」
奥から何かおばあちゃん口調で出てくる若いお姉さんの声が聞こえた。
「アインス……あの人は……?」
「うむ……あの方は、この魔導書庫の司書、イブ殿であろう。」
「イブ?」
「おやおやまあ……私のことをご存知かい? わたしはこのスタルトラ大図書館の館長にして、魔導書庫司書 イヴリス……言いずらいだろうからイブでいいよ……」
イヴリス……か……なんか用心ならないというか……掴めない人というか……そんな感じに思う……
「イブさんですね、よろしくお願いします。お片付けは終わりましたよ。」
「うん……これまた随分と綺麗になって……」
「ミライ嬢が身を粉にして頑張っていたからな! 嫌いになるのも当然である!」
「うるさい、ちょっと静かに」
「うむ……それは申し訳ない……」
アインスNPCのくせにうるさすぎでしょ!
そういうNPCなのはわかるけどね……
でもちょっとうざい。
「ミライっていうのかい……いい名前だねぇ……気に入った……ミライ……お主に魔法を授けよう」
「え、いいんですか?」
アインスの話だと魔導書をもらえるとか言ってたような気がするけど……
「私の魔法は特別だからねぇ……ミライ、どんな魔法が欲しいんだい?」
「え……どんな魔法……? うーん……」
難しすぎる……! 私序盤も序盤なんだよ!?
まだ基礎魔法ですら全てを覚えてるわけじゃないのに! 何を選べばいいんだ!? せめて選択式にしてほしかったよー!!
「えっと……ど、どんな魔法を教えてくれるんですか……?」
「決めきれないってことかい? なら、お主に合った魔法を授けてあげようじゃないか……」
あ、できるんだそんなこと……でもまだ使ったことすらないんだけど……
「いいかい? ミライ。今からお主に与える魔法は、基礎魔法でも、属性魔法でも、付与魔法でも、神聖魔法でもない……これらの枠には囚われない自由の魔法さね……」
私は魔法使いを選択した。
ただ、魔法使いにも種類がある。
基本的な魔法のあれこれを持つ基礎魔法職「魔法使い」
属性魔法や攻撃魔法に特化した「魔術士」
相手へのデバフを付与することが得意な「呪術師」
神に祈り神の力や魔法を行使する「神官」
自身に対するバフがを高い倍率でかけれる「僧侶」
その他にもさまざまな職業があるようだが、主にはこれらとなる。
そして、私にもたらされた魔法は、これらとは少し違うらしい……
「ミライ……お主に授けるのは罪の知恵……お主に相対するは罪の華……お主が立ち向かうのは罰の審判……混ざり合えども混ざらす……全てを見て理解る必要なし……だが……この力の意味は心に留めておくこと……」
すっごい意味深なこと言ってる……なんだ……何が始まるんだ……?
「お主に授けるは虚い飾る力……大いなる魔法さね……【鏡洛魔法】、その全てさね……まだ鍛錬が足りないようだけれど……鍛錬を積めば、全ての魔法を習得できるよ……」
「あ……ありがとうございます……」
わたしはステータスを確認した。たしかに、【鏡洛魔法】なる欄ができており、新しく2つの魔法を覚えていた。
「お主に幸あることを祈っているよ。ミライ」
「は……はい……」
これってレアイベント……? もしかしていいもの引いちゃった? 原因は何……綺麗にした時間が短いから……? それしか考えられないけど……
「ミライ嬢! あの司書殿から魔法を授かるとは! やはりミライ嬢は麗しい!!」
うるさいなぁほんとに……
「とにかく……これで依頼は達成……残るところは道草……つまり植物モンスターの除去だね」
「うむ……植物モンスターは剣が通りにくい……やはりここはミライ嬢に任せる他ないだろう!」
「えー……とは言っても……」
わたしレベル3だよ? さっきの錬金術師のところで上がったせいで3まで上がったけど……こんなんで倒せるわけ……
「して、ミライよ。お主はなんの魔法を覚えておる?」
とイブさんが言ってきた。
「なんの魔法……? えっと……さっきもらった魔法と……基礎魔法を3つほど……」
「内訳はなんじゃ?」
「えっと……【バリアハート】、【インスタントヘルス】、【フレア】です。」
「植物モンスターは炎に弱い。この意味がわかるか?」
「あ」
なるほど。理解しました。
「ファイヤーー!!!」
『ギャーーーーー!!!』
「流石はミライ嬢! 一瞬で片付く!」
ちょっと可哀想に見えてきたが……南無三!!
ということで、私のチュートリアルクエストは何事もなく全て達成した。
「なんだかんだありがとね、アインス」
「いやいや、ミライ嬢の力になれたならば私としても感無量である!」
「ところで、なんでそんな私のことを持ち上げるの?」
「それはミライ嬢が麗しいからだ!!」
……それしかいえないのか……はぁ……
「まあいいや、とりあえず受付で達成報告しないとね」
私たちは依頼達成を報告した。
「うむ……これで今日から冒険者だ。ミライさん。」
〈Voice:クエスト:錬金術師の護衛クリアしました。〉
〈Voice:クエスト:魔導書庫の掃除クリアしました。〉
〈Voice:クエスト:道草狩りクリアしました。〉
〈Voice:チュートリアルクエストを全てクリアしました。〉
〈Voice:レベルが上昇しました。レベル3→レベル8〉
〈Voice:新たな魔法を獲得しました。〉
〈Voice:称号獲得 脱・初心者〉
〈Voice:称号獲得 魔法使い〉
〈Voice:称号獲得 実験台〉
〈Voice:称号獲得 焼畑農業〉
〈Voice:隠し称号獲得 罪と華〉
〈Voice:ようこそ、フロンティアグリーディアの世界へ〉
こうして、私のフロンティアグリーディアが始まった。
「そうだ、アインスはどうするの? どこか行く宛があるの?」
「できれば付いていきたかったところではあるが……少し追手が来ているみたいだ……本当に残念でならないが……致し方あるまい……では、また会おう! 麗しきミライ嬢!!」
と言って去っていった。
「アインス、追われてる身だったんかい……」
とりあえず疲れたので、今日は終わることにした。ちょうど23時くらいだし、寝るにはちょうどいい時間だ。
というわけで、わたしは一旦ログアウトした。
次の日、学校に行くと景兎が眠気で死んでたのがツボったのはまた別の話。
魔法のこと書いてたら長くなったよね()
だいぶダイジェストにしたつもりだったんだけどな……
称号について
〈魔法使い〉
魔法を使って敵を倒すともらえる称号
魔法使いなら大体持ってる
というか魔法職で持ってない方がレア
〈実験台〉
錬金術師の薬を飲むことでもらえる称号
被験体というのは、常に危険と隣り合わせである。
〈焼畑農業〉
植物系モンスターを炎属性攻撃をして倒すともらえる称号
〈罪と華〉
ーー閲覧制限ーー