第三十四限 その本、404にありけり
とりあえず、校舎裏……つまりいつもの場所まで戻ってきた。
「さて……まずは情報交換からだね」
音頭を取るのはわたしだ。
「机はみんなでみたからわかってると思うし、本棚で調べたことを言うね。本棚には本があった」
「そんなのはわかってるが」
「そうだね、重要なのはそこじゃない。本のタイトルなんだよ」
私は本をみんなへ見せる。
「『ウツギさんの袖の中』……児童書ですか?」
「絵本じゃねぇか、お前は何を探してんだよ……」
おや? アルスさんとネストくんには少し不評……?
まぁそうか……堂々と見せられた見つけたものが絵本とか意味わからないもんね……
「これでもすごく重要なヒントだけどね〜」
レイちゃんは見たことある! といわんばかりの顔を披露している。可愛い。そして少し面白い。
「それくらいかなぁ、見つけたのはね」
私は次の人へと話を振る。
「んじゃ、次は他の人! ……何かわかったこととかある?」
最初に話し始めたのはアルスさんだった。
「では、私から話しましょう。私はあの部屋でベッドを探したのですが……使われた形跡がありました。ベッドは、一人用で人類用でしたね。それとこれは部屋全体に言えることですが、特にこれと言って魔法を検知しませんでした」
「ふむふむなるほど」
てことはあそこに人間が住んでるってこと……?
あり得るとしたらシフィリス先生……? でも、教師が泊まり込む理由とかあるの……?
そんなことを考えていると、アルスさんもなにか思うような顔を見せていた。
「ん? どうしたの?」
「いえ、なんでもありません。特にこれ以上はないですね」
怪しいな……少し頭に留めておこう。
「ふーん。ならアルスさんは以上かな?」
「はい。そうなりますね」
次に話したのはネストくんだ。
「次は俺が話す。俺は窓を調べた。が、特にこれといって特徴のあるものではなかったな」
「ほう……だとすると、窓から中を見られたくない……的なやつかな……?」
「そうかもしれない。それと、闇魔法の痕跡も見当たらなかった」
「闇魔法だけ探知する魔法とかあるんだ」
「闇魔法を使えない人間には探知できない魔法とかもあるからな」
そんなのも探知できるんだ。知らなかった……
「俺はこれで以上だ」
「おっけー! じゃあ最後は……」
レイちゃんが声をあげて言う。
「私でしゅ! 私は、椅子を全部調べたでしゅ! でも、特にこれと言って特徴があるわけでもなかったでしゅ……何故か4つの椅子があるくらいでしゅけど……あの机の大きさから見ても違和感はないでしゅから……」
ふむ……なるほど……
これであの部屋の情報は出揃った……というわけだ。
あとはここから精査していくだけ……
「ここからわかること……か」
「一つ確かなのは、あそこに人が住んでいることだけだな。花が枯れていないのが何よりの証拠だ」
ネストくんの指摘にハッとする。
あ、そうか、花が枯れてないなら誰かが手入れしてるよね……
「たしかにでしゅ! あ、でも魔法とかで保たれてるとかならわからないでしゅ……?」
「その点については心配ないですよ。魔法の痕跡は見当たりません。だから、確実に誰かがお花の手入れをしているはずです」
「は! なるほどでしゅ!」
てことは……誰かが住んでいるのは確定。次に確認すべきなのは……
「この本か……な?」
『ウツギさんの袖の中』の9巻。
表紙のヒントは見れない。見るためのルーペがないから……持ってるのはアグリさん……って人だっけな……
だから見るなら中身である。
「ちなみにアルスさんとネストくんは読んだことあるの?」
「はい、昔ですが、絵本の読み聞かせ会と言うものがありまして、そこで二人とも見たことがあります」
「あの時間は有意義だった。闇魔法について知ったのもあの時間だからな」
え、絵本の読み聞かせで闇魔法を知る……?
「どんな本で知ったの?」
「お前が今持ってるそれだが?」
え……?
「その本は、闇魔法の怖さを子供達に教えるための絵本ですからね……闇魔法に手を出させないための本だったりもします」
「俺はむしろ興奮したけどな」
「ほんとにネストは……」
なんだこの夫婦漫才は……
てか、児童教養のための本だったんだ。ウツギさんシリーズ。
にしては怖い話がたくさん入ってる気がするけど……それは冒険者……いや、現実世界に住む私たちだからなのか……まあそんなことはどうでもいいや
「んじゃ、少し読もうかな」
「あ、その前に」
アルスさんが静止する。どうしたんだろうか。
「その本に魔法がかけられていないかのチェックをしましょう。仮にも怪しいところから取ってきたものですから……」
「たしかに、それはしとこう!」
アルスさんが本に触れる。
「【アナライズ】……!」
そう言うと、アルスさんの周りが少しだけ淡い青色で光る。その光は本にまで届き、本の周りも淡い光を放つ。
アルスさんのその姿は、イケメン系美少女のような風貌を感じさせた。
やがてその光は消え、アルスさんが手を離す。
「どうやら魔法はかかっていないみたいです」
「闇魔法の方もかかってはいなさそうだ。パッと見ただけだがな」
おや、いつの間に……
なんでも、通常の探知は目で見るだけでできるらしい。ただ、奥深くに眠る魔法を探知するには、触れて細部まで見ないといけないとのこと。
「それじゃ、見てみますか!」
「まあ俺たちは見たことあるけどな……」
「でもネスト、そうとう昔のことですから、見返すのも案外楽しいかもしれませんよ?」
「……まあ、そうだな」
「見るでしゅ!」
内容を大まかにメモをした。
◇◇◇
『ウツギさんの袖の中』9巻の抜粋
「"ウツギさん"の袖の中には、小さな黒い点が2つあるよ。小さな小さな黒い点。それは、黒子とも違う何か。」
「"ウツギさん"は手を翳すと、その袖から黒い何かがたくさん出てくるよ。その黒い何かは、みんなを飲み込んじゃうよ。」
「"ウツギさん"は笑うよ。大きく大きく笑って、そして泣いているよ。その場所には、誰も居なかったよ。」
「ウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんはウツギさんは……」
「"ウツギさん"は眠ったよ。そこには一人しかいなかったよ。誰も誰も見てくれないよ。"ウツギさん"は憂いたよ。」
「"ウツギさん"の袖の中には、今でも沢山の黒い何かがあるよ。それは今の闇の素。触れると色んな悪影響が出るよ。」
「ウツギさんの袖の中にいた蝙蝠は、今でも憎悪を膨らませているよ。」
◇◇◇
「……なっっがい!」
想像以上に長い作品だった……
しかもオチが中途半端……まるで続きがあるかのような……
「こんな終わり方なの?」
「はい。そうですよ」
「ここに関しては誰もよくわかってないんだよな。なんでこんな終わり方なのか……」
まあ……後はみんなと合流してから確認すればいいか……あのルーペでヒントがあるはずだし……
「さて、後は何かある?」
誰も名乗りをあげない。おおよそ全部話したのだろう。
「ってことは、次の部屋の探索が必要だよね……」
「次は準備室だが……それは明日に行けばいいだろう。今日はもう遅いし……」
「そうですね……チャイムの方は今日は確認しませんし……明日に再開ということでいいと思います」
時刻は夜の8時を指していた。
確かに遅い時間だけど、最近は1時に寝るとかが当たり前になってきたからな……あんまり遅く感じない……
まあ、生活習慣を整えるのも大事なことか……今はその言葉に甘えよう。
「おっけー! んじゃ、明日またここに集合で!」
「でしゅ!」
ということで、一同は解散した。
宿屋に戻った後、レイちゃんと別れ、私もログアウトをする。
それにしても……あそこに住んでいるのは誰なんだ……?
シフィリス先生か……? 可能性が一番高いのは……
アルスさんのあの沈黙も……いや、考えすぎか……?
「もうだめだ……色々考えてると埒があかない……お風呂に入ろう……」
私はご飯を食べた後、お風呂に入る。
シャワーを浴びている間、ずっと考えていた。
何があったのか……あの絵本は何を指しているのか……何を隠しているのか……何故あの本があそこにあったのか……あの花は何なのか……
ダメだ……考えれば考えるほど頭が混乱してくる……
もう寝よう……明日に任せよう……
私は明日に任せ、寝た。
そういえば、見つけた旨を報告してないな……まあいいか……
次は景兎回になる予定です。きっと




