第三十限 花火、依頼項目「ユーザー」
「さて……とりあえずネロに会いに行くか……」
俺はネロに会いに行くために街を出ようとしていた。
ったく……なんであの鍛治師はこの街の外に住居を構えてるんだ……
「おーい、キョートくーん」
そんなことを考えていると、背後から聞き慣れた声を聞く。
うわ……この悪辣極まりない声は……
俺は振り返り確信した。
端正な顔立ちに高い頭身、そして緑の髪にツタを巻き付かせた謎の装飾はまさしく初めてヤツと出会った時と同じものだ……
「またお前かよ花狂い」
「おやおや、"お"が抜けてるよ? キョートくぅん。 それと、今は"ファイアワークス"ね?」
「あっそう……なんだよまたまた急に……昨日の今日でなんの用だ?」
「いやぁ……実はね、明日か明後日ごろに"彼"がここにくる予定なんだよね」
「彼……? あ……お前まさか……!」
まさかとは思うが……
「ネイチャーか!?」
「アッタリ〜! いやぁ、今日も勘が冴え渡ってるね〜?」
「早すぎだろどいつもこいつも」
「そういうキョートくんは何をしに行くの?」
「あ? あー……俺はな……」
うーん……馬鹿正直に白状してもいいんだが……ネロが危険な目に遭ってしまうかもしれん……っていうか欲を言えば俺で独占したい……あんなかっこいい武器作れる鍛治師を独占したいってのはプレイヤー的にもわかるだろ。うんうん。
「俺はレベル上げかな。まだカンストしてないし」
うんうん、嘘はついてない!
ただのレベル上げだからね! そんなそんなユニークなこと起こすわけないじゃないですか!
「ふーん……でもキョートくんってさ、レベルはギリギリで楽しむ人じゃなかったっけ? なぁにか隠してるよねぇ?」
ギクッ……なんだこいつ勘がいいってレベルじゃねぇぞ……くそ……こいつとつるみすぎたか?
俺のプレイスタイルまで熟知してるとは……
「いやぁ、たまには趣向を変えてみるのも悪くねぇなぁって思ってさ! あはは!」
「あはは! そうかぁ! じゃあ特に用事がないんだね? そういうことでいいかなぁ?」
「い、いやぁ……お前との用事は作る気がないっていうか……? なんていうか俺はやるべきことに一直線だからぁ?」
「じゃあ、来てくれるってことでね? よろしく〜」
「なんでそうなるんだよ!!」
なんなんだよこいつの我の強さは!
女優はみんなこうなのか!? それともこいつがおかしいだけか!?
……こいつがおかしいだけだな……なんていうか俺らにはやたらと強いもんな……家にいる時の姉か? いや、俺に姉とか居ないけども……
「んで? 俺に何を手伝って欲しいんだ?」
「よくぞ聞いてくれた……キョートくん、私と一緒にネイチャーくんを驚かせに行こうよ」
「……はぁ?」
どう意味かはわからないが……おいおいそんなの……
「行くに決まってんだろ!」
「そうこなくっちゃ!」
俺たちはあくまで「悪友」だからな!
こういう時は協力しないとな!
あはは待ってろよネイチャー……お前を恐怖でちびらせてやるよ……ぐへへ……
「んで、今からどこに行くんだ?」
「キョートくんはさ、『ノージステンド』って場所知ってる?」
「あー……この魔導学府に来る時に寄ったからな。知ってるぞ」
と言っても、したことは食事だけだけどな。
「そこにね、ネイチャーくんが明日来るらしいからさ。今日は先回りして明日一緒に驚かせに行こうってわけ」
「おっ、いいね。あいつには借りがあるからな……この前ボコボコにしたのゆるさねぇからな……!」
「まさかまた負けたの? 3連敗?」
「いや、2回闘って1-1だ。いやぁあの試合勝ち越せたらどれほど良かっただろうか……」
「あはは! その負けず嫌いも相変わらずだね!」
「負けず嫌いなのはあいつの方だろ。まあ俺は俺でやれることはしたからな……」
正直あの試合は俺にとっても大きな成長になった……よな?
あいつと闘いすぎてもうわかんねぇわ!
そんなことを話しながら道中を歩く。
すると、突然ファイアワークスが話す。
「そういえばさ、あのミライって名前の女の子とは付き合ってないの?」
「……はぁ?」
またそう言った話題か……全く……俺の悪友共は色恋沙汰にお熱らしいな……
「そんなわけないだろ。ただのゲーム友達だぞ?」
「ほんとぉ〜? 実は付き合ってるとかじゃなく?」
「しつこいな……そんなのだったらお前達に会わせるとかしねぇよ」
「うーん……なら違うかぁ……」
(絶対付き合ってると思ったんだけどなぁ……)
なんだこいつら……てか、ゲーム中に色恋沙汰考える方がアレだろ。ゲームに失礼だろ。
そうして時間が経ち、俺たちは少し前に通った街、『ノージステンド』へと到着する。
「明日だっけ? ネイチャーが来るのは」
「うん。そう言ってたと思うよ。」
「んじゃ、とりあえずここで待機って感じか?」
「テキトーに宿取って今日は解散だね」
「おっけー……んじゃ、俺は依頼でも受けますか……」
「随分とやる気に満ちてるね、キョートくん」
「言っただろ? 俺はレベル上げをするために外に出たってな。依頼達成するのが、経験値集めに一番効率いい気がするんだよ」
「なるほどね……たしかにレベル上げにはもってこいだよね。クエストを達成するのが」
そう、あれはあくまでレベルを上げるのが目的だ。
それも、来たるユニークモンスター戦に間に合うようにレベルを上げなければならない。
最低限は抗えないと話にならないのだ。
「……うーん、そうだな……」
そうファイアワークスが呟くと、俺の方を見つめる。
「なんだよ」
「キョートくんはレベル上げがしたいんでしょ〜?」
「あぁ、そうだな」
「じゃあさ……」
そういうと、ファイアワークスは宙をスワイプしたりタッチしたりしだす。
おそらく何かをいじっているのだろう。
そして、それをし終わると、俺の目の前にある画面が表示される。
〈『ユーザークエスト:火花の助力』を受注しますか?〉
……なんだこれ?
「それはね、ユーザークエストっていうやつ。このゲームではね、プレイヤーがクエストを作って、それを受注したりすることができるんだよね。」
まじかよ……そんな画期的なシステムがあったのかこのゲーム……
「そして、どれだけ依頼の内容が弱くても、レベルが低いプレイヤーにとって高レベルプレイヤーが出した依頼は経験値が美味しいんだよね。報酬はその都度変わるだろうけどね」
「つまり……普通に依頼を受けるより高レベルプレイヤーからの依頼の方が経験値的には美味しい……ってことか?」
「そういうこと。まあ、同じレベル同士とかならほとんど依頼の時と変わらなかったりするし、この裏技が使えるのはほんと序盤くらいかな」
「それでも、短期間でレベルが上がるならありがたいな。でも……お前に借りを作るのか……?」
「貸し1ってことでね、どうする? 受ける?」
うーん……レベル上げはもちろん必要だし……かと言って貸しを作るのもなぁ……
よし、ここはクエストの内容を見て決めるか。
「ところで、どんな内容だ? おまえのクエスト」
「簡単だよ、ネイチャーくんを驚かせる。以上!」
「乗った」
俺はすぐに「YES」のボタンを押した。
「はは! 早いなぁ、即答じゃん」
「そりゃそうだろ、元々あいつを驚かせに来たんだからするに決まってる」
「そりゃそうだ」
俺はメニュー画面からクエスト一覧を表示する。
そこには新しい項目として、〈ユーザークエスト〉という項目が追加されていた。
にしてもユーザークエストか……なんか悪用できそうなやつだな……
「依頼的にネイチャーが居ないと進まないよなこれ」
「うーん、そだねぇ……別に今すぐにでもクエスト内容を変えることはできるけど……したい?」
「いや、別にいい。明日クリアしてから受けるか決めるから」
「了解。んじゃ、今日は解散!」
ということで、今日は解散し、俺は俺で別の依頼を受けに行く。
ははは! ばかめファイアワークス! クエストは同時に受けれるんだよ!
俺はモンスター退治の依頼を受ける。
さて……明日は風が吹き荒れそうだな、この街。
俺はモンスター退治の依頼を達成するために街を出る。
明日まで時間はたっぷりあるんだ! こっちも好き勝手させてもらうぜ!




