第二十六限 チスイとトガム、それは戒めを表す
難産でした……(4敗)
俺はフロンティアグリーディアの世界に降り立つ。
魔導学府は曇天だった。
「ま、いつも通りか……」
いつもの曇り空、これがこの場所の常識らしい。
時刻は午前9時を指していた。
「予定してる時間より1時間くらい早いけど……まあいっか」
俺は特にすることはないので、待ち合わせ場所である図書館へと入っていく。
「ここやっぱ広いなぁ……」
後から知ったことだが、この図書館は別にこの学校に帰属しているわけではないらしい。
正確には"魔導学府評議会"というところが運営している公営施設とのこと。
じゃあなんで学校内にあるのかというと、主に使うのが生徒だからという理由だ。
魔導学府に属しているわけではないため、ここに入るのは自由なのだとか。
アグリさんがここに入れたのもそれが理由だ。
「さてと……流石に来てないか……」
んじゃあ、とりあえず調べ物でもするか……
「と思ったものの……なんの調べ物しようかな……」
とりあえずゲーム内で分かりそうなもの……魔導学府の歴史とかか? それとも、魔法についてとか?
「あーダメだ……方針がないと何も手がつかん……」
とりあえずやめだやめ……そういえば、鏡花……もといミライはいつ来るのだろうか……
文体的に相当急いでいたと思うから、そろそろ来てもおかしくないけど……
そういえば……ミライが追ってるのは"七不思議"についてだったよな……
「七不思議について俺も探してみるか……」
もしかしたら絵本などに書かれているかもしれない……といっても内容が一切わからないからなんとも言えないんだが……
俺は図書館で本を探す。
こういうのはゲーム的に重要な情報は光って見えるものだろ!
「なんか良い本ないかなぁ……」
俺は絵本が置かれてあるスペースをグルグルと回っている。その姿に、さながら変なやつと出くわしたかのような、冷ややかな視線を向けられた。
「……とりあえず色々読むか……」
表紙見るだけじゃ出てこない。そのため、俺は近くにあった絵本を片っ端から読むことにした。
絵本の中は、まさしく絵本というくらいしっかりした出来であり、表紙ごとに中身も全て違っていた。
「こんなところを作り込むとは……流石は神ゲー……すごいなこれ……」
絵本のタイトルはどれも違っていた。
「スライムマウンテン」、「魔女と魔法使い」、「2匹のドラゴン」などなど……どれもこれも内容が違うしかなり面白い。
「あ! 「ウツギさんの袖の中」あるじゃん!」
なになに……3巻が開かれているのか……絵本にしては少し小さいな……
内容は後で集まった際に読むことにし、またまた探索を続ける。
そうやって見ていく中でも、一際異彩を放つ絵本があった。
「この絵本のタイトルはっと……『チスイさんとトガムくん』か……」
血を吸うことで魔力を得るチスイさんとそれをいつも注意するトガムくんという二人の子供のお話だ。
一見すると普通の絵本だが、その異彩さは絵のタッチ、そして物語性にある。
まず、絵だが、他と違いこの本は藍色を基調としている。背景も藍色だし、縁取りなども全て藍色。
それに加え、チスイさんの血を吸う描写は妙なリアリティがありグロテスクなのである。
はっきりいうと怖い本だ。
しかし何より一番怖いのは……
「なんで最後にこんなカニバリズム的血を吸うシーンを入れてくるかなぁ……」
子供用の絵本なんだよなこれ……? 特に最後の文!
「トガムくんとチスイさんは一緒になり、幸せに暮らしましたとさ」
じゃねぇんだわ! どこが幸せだ! 子供が歪んだらどうするんだ!
まあゲームの世界観にケチを言っても何にもならないから置いておくか……
俺が色々漁っていると、時刻は10時に近づいていた。
その時、入り口から物音がした。扉が開いたような音であり、誰かが入ってきたのだろう。
「それにしてもクソでかい開閉だな……図書館であんなに音を立てる輩は、さぞかし可愛げのない奴なんだろうなぁ……」
「悪かったわね可愛げがなくて……!」
「うわ! ミライ……!」
「私もいるでしゅ!」
そこに立っていたのは、全身汗だくで、まるで走ってきたかのような状態のミライとレイの姿だった。
「お、レイもいたのか! なんだか久しぶりな気がするな……元気してたか?」
「もちろんでしゅ!」
「んで、遅かったな随分と」
「あんたが勝手にここ集合って言ったんでしょ……! 今度パフェ奢れ〜!!」
「それは無理な話だな。第一お前が俺に話があるって言ってきたんだろ」
「……あのねぇ……私とレイちゃんはすごい冒険をしてきたんだよ?」
「そうでしゅ! ミライさんかっこよかったでしゅ!」
「へぇ〜」
ま、俺もちゃんと冒険したけどな。とか思いつつしっかりと耳は傾ける。
「こいつ……まあいい……早速本題に入るよ」
「おう、何があった?」
「七不思議を解明できていなかった」
束の間の静寂。風が流れるかのようなそんな音が幻聴として聞こえてくる。
「……え? それだけ?」
「ん? 何かおかしい?」
「あーいや、ただそのことを伝えるためだけに呼んだのかと思ってな……」
「あんたねぇ……これ一大事なのよ?」
俺はとりあえず話を聞くことにした。
「わかった、わかったから。んで? どんな七不思議が解明できてなかったんだ?」
ミライは喋り出す。
「『深夜一時に鳴るチャイム』ってやつ、覚えてる?」
「あー……お前が声高らかに解決したって宣言したやつか」
「恥ずかしいからやめてくれない!?」
少し顔を赤らめたミライは続けて話す。
「んで! その解決したと思っていたやつだったんだけど……今日の一時にまた聞こえて……」
1時ごろのチャイム……?
「あー! 俺も聞いたぞ。今日は少し遅くまでインしてたから、その時にチャイムみたいな音が聞こえるなぁって思ったんだ」
「なら話は早いね。私たちは、そのチャイムを鳴らないようにしたはずなんだけど……」
「結果としてはなんか鳴ってしまったってことか?」
そういうと、ミライは頷く。
「なるほど……たしかに変だな」
「今日の夜、また見に行ってみようかなって思ってるんだよね」
「なるほど……俺もいくべきか? それ」
ミライは首を横に振る。
「いや、今はいいよ。まだ色々残ってるし。あ、でもレイちゃんは借りてくよ」
「それはレイに聞いてくれ。俺のものじゃないからな」
「それはそうだけど、でも一応ね」
そんなこんなで話が終わったところで、またまた図書館の扉が開く。今度はゆっくりと扉が開く。
「あ、そうだミライとレイ。お前も会議に参加するか?」
「会議? なんの?」
「ユニークモンスター『青の吸血鬼』についての情報交換会ってところかな」
「あー……言ってたね、そんなやつ」
「まさか……忘れてたとかいわねぇよな?」
「いやいやまさか!」
(あっぶなぁ……全っ然忘れてたぁ……まあほら、七不思議とかで忙しかったから……ね?)
「まあ、それなら参加しよっかな?」
「レイはどうする?」
「……うーん、聞くだけ聞きたいでしゅ!」
「なるほど……その子達も一緒に聞くってわけね?」
横から声が聞こえてきた。その正体はクラン『探索者』のクランリーダー、マロンだった。
「あ、マロンさん。お久しぶりです」
「おひさ〜、キョートくん。んで、そっちの二人は知り合い?」
「そうですね……こっちはミライ、こっちはレイって言います」
「どうも」
「どうもでしゅ!」
「よろしく、ウチはマロン。んでこっちは……」
そういうと、背後から二人の人間が飛び出てきた。
「キョートさん! どうもです!」
「お久しぶり。本を集めるのは順調かな?」
出てきたのはアグリさんとヴェルノさんだ。
「アグリさん、ヴェルノさん、久しぶりだな」
「お久しぶりです!」
うん、アグリさんは今日も元気だな……
「ところで彼女たちは誰だい?」
ヴェルノさんの問いに答えたのはマロンさんだった。
「キョートくんのお友達だってさ、協力してくれるっぽいよ」
「え? いやそこまでは……」
「してくれるよね?」
「あ……はい……」
マロンさんの圧すごいな……あのミライがたじろぐとは……ふはっ……おもしろ
「ちょっとキョート? なんか変なこと考えてるでしょ」
「考えてるわけないだろ? そんなことより、俺たちが今日集まったのは会議をするためだ」
「そだね〜。んじゃ、早速始めよっか」
ヴェルノさんが音頭を取る。
「クラン『探索者』と協力者アグリ、キョート、ミライ、レイによる共同会議を始めようか」
さて、この会議ではどんな情報が出るのか……
人が増えすぎてわからない! そんな人のために!
現時点の陣営図をみていきましょう。
◯主人公のパーティー
キョート(景兎)
ミライ(鏡花)
レイ
カトラリー・アルス(学校組)
エルダー・ネスト(学校組)
◯クラン『探索者』(シーカー)
マロン
ヴェルノ
◯無所属
アグリ




