第十五限 鍛治師、睡眠を薦める
今回はキョート回です。
なんとか間に合ったかな?
「はぁ……はぁ……はぁ……」
俺は、息を切らして倒れ込む。
ゲーム的な処理としては、スタミナ切れと言ったところだろうか……
「キョートお前……ようやっとるな。2時間でこれだけのマナタイトは初めてや……」
感慨深そうに言っているのは、ネロさんだ。
「にしても……ほんまに500個あつめるなんてなぁ……」
「俺たち冒険者は報酬という言葉に弱いんだ……報酬のためならなんだってするさ……」
「よくわからん生態してるなぁ……まあええやろう……わっちの力、貸したるわ」
そういうと、倒れ込んでいた俺に、ネロは手を差し出す。
「ふっ……そうこなくっちゃな……!」
俺は、伸ばされた手を掴んだ。
「さてキョート、お前の武器を作るから、ちょっくらついてこい」
「あ、はい」
言われるがままについていった俺の目の前に現れたのは、ネロと初めて出会った時に見たオンボロ小屋だった。
「うわ、ほんとにここでするのかよ……」
「当たり前や。こう見えても、機能性だけは一級品やからな」
そういうと、ネロは家の中へと入って行く。ついてこいと言われたのでもちろん俺もついていく。
中へ入るとたしかに、機能性だけは高そうな家であることがわかった。
炉もあるし槌も多数ある。
そして謎の変な畑? もある。
「これは……なんだ?」
「それはメナシグサの畑や。これがわっちの大好物でな。成長も早いから重宝しとるんや」
「なるほどねぇ……」
ほんとに……外観が襲われた後みたいな見た目じゃなければ最高の家だな……
部屋も分けられている……
「そうや、お前の得物、見してみ」
「あ、確かにそうだな……これです」
俺が渡した二つの武器……一つは剣、一つは盾という戦士としては普通の装備だ。
だが、俺がこれをもらった相手は他でもないこの世界の妹とこの世界の師匠なのだ。
「随分と使われとるなぁ……」
「まあな……」
「……待て……キョートお前……あの徘徊巨神兵と戦ったのか?」
「巨神兵? あー……サマルテGTのことか」
なんでわかったんだ? 鍛治師のスキルとかか? だとしたら強すぎるか……何か特殊なものでもあるのか……
「そういえば……キョート、お前のその身体……確かに巨神兵の残滓やな……」
たしかデバフをつけられたな……これ残滓だったのか……
「てか、なんでわかるんだ? そんなの」
「わっちの目は特殊でな。わっちは色んなものが見え"すぎる"んや。まあ、ただこれのおかげで武器の気持ちもわかることやから、ええんやけどな」
「なるほどね……」
何かありそうだけど、聞くのは野暮だな。
俺は部屋で待つこととなった。
俺が通された部屋は、ベッドがある様子から寝室として使われているところだろうということがわかる。
他にも2つほど部屋があるらしいが、マシな部屋がここしかなかったらしい。
「というわけで、できたら言うから、ここで少し待っておけ」
「うす……」
とは言ってもなぁ……待つのも暇だし、少しだけ鍛治風景をば……
そう思いながらチラッと覗く。
そこには、真剣な眼差しで、武器と向き合っているネロの姿があった。
独り言を呟いているようだが、声は聞こえなかった。
なんか喋ってるな……なら……!
能力〈兎覚耳〉!
よしよし……これで聞こえるな……
俺は耳を澄まして、ネロの喋る声を聞いた。
「……お前、可愛がられとるんやな……未だ無銘の剣と盾や……けど、お前はまだまだ輝ける……」
「……うん、あいつは随分と良いもんを持っとるようやな……任せてな……わっちが最高の得物に進化させたる……」
ネロがそう言い終わると、すぐさま立ち上がり、槌を選び、握った。
そして、炉に火をくべ、準備をする。
いよいよ鍛治が始まろうとしていた。
準備ができたようで、部屋の温度が先ほどよりも明らかに高くなっているのがわかった。
「これが鍛治師……ネロ・スミスか……」
ネロがこちらを向く。
「見とるのは知っとるよ。長くなりそうやから、今は寝て待っておき。」
まじか、バレてたか……
そうか、寝てても大丈夫なのか……なら一旦落ちるか……
「ああ、わかった。俺の武器をよろしくな」
「もちろん。無下にはせんよ」
俺は一度落ちることにした。
「……にしても、随分と感情豊かだよな……フログリのNPCは」
ネロもそうだが、パッと考えるだけでレイ、ミア、ティアさん……やっぱ感情豊かだな。
「流石はAAA級タイトルなだけはあるな……」
俺は、コーラを片手に優雅にティータイムを満喫しようと考え、リビングまで歩く。
が、リビングに行くなり、飛鳥に止められた。
「なんだよ飛鳥……まるで俺にリビング入られて欲しくないみたいな」
そういうと、飛鳥は小声で言う。
「そう、そのまるでなの。今友達とファッションショーをしてて、着替えとかリビングに置きっぱなしなの!」
「へぇ……お前がファッションショー……ねぇ?」
てか友達とかいるんだな。って前もしたなこれ……
「てか、お母さんとかは?」
「今出掛けてるの。今リビング入ったらぶっ叩くからね?」
おい、それはなしだろ。飛鳥のパンチは俺が吹っ飛んでしまう。
「と言ってもなぁ……んじゃ、取ってきてくれ」
「なにを?」
「コーラと辛辛チップス、一個ずつな」
「はいはい、持ってくるから、絶対に入らないでね」
「へーい」
少しすると戻ってきた。手にはしっかりとコーラと辛辛チップスがある。
「お、ありがとな。てか、この前の友達か?」
「うん。あの子は人見知りなの。だからあんま顔合わせないでね」
「なんだそれ……まあそう言われたら合わせんようにするから安心しろ」
話は終わったか? んじゃあそろそろ部屋に戻らないとな……
「あ、そうだお兄ちゃん」
突然、飛鳥が喋る。
「なんだ?」
「今日の運勢は大吉だって」
「……そうか」
大吉か……まあ半分信用くらいにしとくか。
飛鳥の占いは当たる。それは誰よりも俺が知ってることだ。ただ、運勢で言われる時は半々くらいだ。そもそもどこを見て大吉って言ってるのかわからんしな。
ということで、俺は自分の部屋に戻り、くつろぐ準備をする。
チップスとコーラを片手に俺は調べ物をする。
しっかりウェットティッシュも完備している。油まみれは嫌だしな。
「てなわけで……ん? なんだこれ」
俺の元に、一つのメールが届いた。
それは、ネイチャーからのメールだった。
差出人:ネイチャー
要件:来たぞ
フログリ始めたけどさ、一日チュートリアルって何?
ほんとに一日チュートリアルさせられたんだが。
あと、お花狂いがお前のこと探してるらしいぞ。
うわぁ、鏡花と居る時に会いたくないな……
ん? もう一件来てるな……
「げっ!? お花狂い」
そのメールの差出人は、お花狂いだった。
差出人:お花狂い
要件:どこ?
キョート君さ〜、フログリ始めたんだって〜?
ネイチャーから聞いたよ〜?
とりまどのマップにいるかだけでも教えてくれないかな?
ネイチャー……あいつ……!
別に教えても良いけど……鏡花と別れてる今がチャンスか……もしや……
とりあえず、テキトーに返事を返しながら、俺はネットの海を漂うことにした。
「さて、調べさせっぱなしも癪だし、俺もそろそろ調べるか……フログリについて……」




