第十三限 夏の始まり、新たな依頼
少し遅れるのが日課になってきているのは如何ともし難いですよね。
ほんとに
「んで、一体これはどういうことなんだ? 鏡花」
俺たちは今、終業式が終わって帰るところだ。
ようやくの夏休み、ゲーム三昧なのはもちろんだが、昨日の夜に……しかも深夜一時ごろに寄越したメールは、俺を考えさせるのに十分な要素だった。
「ん〜……どういうって言ってもねぇ〜、そのまんまというか〜」
「もったいぶらずに教えろよ」
「ん〜、しょうがないなぁ〜」
鏡花が言ったことは、以下の通りだった。
昨日俺がいない間、レイと2人で学校の中を探索したこと。
その中で出会った少年、ネストと、少女のアルス、2人のNPCから受けたクエストが特殊なこと。
七不思議なるものがあること。
なんだお前……めっちゃ楽しそうなことしてんじゃねぇか!!
「んで? なんの七不思議があるんだ?」
「んーとね、私が解決したのが、『深夜一時のチャイム』的なやつ?」
「深夜一時のチャイム?」
「そうそう、なんというか、深夜一時、授業がないはずの時間にチャイムが鳴る……というなんともこわ〜い怪奇現象だったよ?」
「お、そうか……んで? 本当は?」
「実際は何者かが魔法に細工を施していて深夜一時に鳴るように調整してたってだけ。怖さとかはほとんどなかったよ」
「なるほどね……」
「ただ……」
「ただ?」
「どうも引っかかるんだよね……なんでそんな細工が必要なのか……どうしてそれをする必要があったのか……」
「犯人の動機ってやつか?」
「そそ……なんていうかさ……クエストを進行してて理由も、仕掛けた人も、一切現れなかったんだよね……」
「ゲームの仕様なんじゃないか? 妥協部分としてというかそんな感じなんじゃ?」
「いやぁ……あの神ゲーさんがそんな所妥協すると思う? NPCの意識とか、魔法のリアリティ……果てには景兎の派手な動き……アレらを搭載してここを省くのちょっとよくわからないんだよね……」
「うーん……まあ言われてみれば……」
「まあ……現状、納得する推論としては……このクエストの最後に黒幕が現れる……とかだね」
「ん? 終わったんじゃないのか?」
「言ったでしょ〜? "七"不思議って。だから、あと残り6つあるんだよね」
「なるほど……あの魔導学府の生徒もたしかあと12日だったよな? それまでには見つけたいな……」
「そうだね……景兎も私たちが授業中に調べるとかできる?」
「どうだろうな……俺そもそも学内の細部に侵入できるわけでもないし……授業参観すら禁止されてるからな……」
「一応私たちの教室にはいけるでしょ」
「お前達がいる所に行ってどうするんだよ……それじゃ意味がないだろ」
「うーん……まあそれはそうか……」
「とにかく、続きはフログリ内で聞くわ……ここ分かれ道だし」
「おっけー。とりままた後でね〜」
「おう」
俺たちは解散し、俺は家に帰ってきた。
部屋を片付け、ベッドにダイブ!
あぁ、夏休みって最高〜!!
そう……夏休みになったんだ……ということは……
「制限なしでゲームができるな……!」
もちろん、家族での取り決めがある。が……
しっかり宿題をしてからしなければならないという縛りが……俺のゲーム欲を掻き立てる……!!
「ちょっとだけ……ちょっとだけだ……」
「お兄ちゃん? ちゃんと宿題してる?」
「ゲッ!? 飛鳥!? なんで入ってくんだよ!?」
「お母さんに言われたの。しっかり見なさいって」
「……部屋はやらねぇぞ」
「んな……!? ち……ちがうし!? 決してお母さんに部屋交換してあげるからとか言われてないし? そんなことよりだらけな……じゃなかった、勉強しなよ!!」
おい、ほぼ本音丸出しじゃねぇか。
まぁた母さんが飛鳥に変なこと言ったのかよ……全く……
とりあえず、飛鳥を追い出した俺は、勉強しながら今後のことについて考える。
「自然野郎が来るんだろ……? あいつならすぐに俺らのとこまで来そうだな……まあ、1日のチュートリアルをどれだけ終わらせれるか……そこ次第かな」
問題は……
「お花狂い……かぁ……あいつもやってたんだな……」
基本的に俺の悪友と鏡花は知り合いではない……理由は俺が出会わせるのを阻止しているからだ。
鏡花のためを思って……? 否、そんなわけがない。
理由は単純。悪友共と鏡花は"相性がすこぶる良い"。全員どこかしらが狂ってるし、感性も似ている。割とRP気質なところとか。
ただ……
「このままだと出会いそうだなぁ……100%」
すごく悩み、結果として、悩んでも仕方ないという結論に至った。
未来のことは未来の俺に任せよう! 俺は今日を生きるんだ!
絶賛勉強から逃げれないけど……
あれから結局2時間ほど経ち……
「ふぅ……やっと終わったぁ……」
俺は1日分の宿題を4つ終わらせた。
いつもの俺のやり方である。出来るものは早めに終わらせることこそが重要なのだ。早い方が楽で良いからね。
「さて……昼でも食べて、早速やりますか〜」
お昼を食べた俺は早速フログリにログインする。
---Log In
さて……2人はっと……
「キョートさん! おはようございますでしゅ!!」
俺を出迎えたのはレイだった。
「おぉ〜レイか! 一昨日ぶりだな。元気してたか?」
「はいでしゅ! 昨日はミライさんと沢山冒険したでしゅよ!」
お……これ、良い情報聞けそうだな……
「それは良いね。ぜひ聞かせてくれ。その冒険譚」
「分かったでしゅ! まずは……」
話した内容は概ね鏡花と同じだった。ただ、一点だけ違うものがあった。
「あれ……ミライもその魔法式破壊に協力したのか?」
「そうでしゅ! ネストさんの闇魔法をミライさんも使って、一緒に作業したでしゅ!」
「ほへぇ……なるほどな……」
おいおい……鏡花は「NPC2人が破壊した〜」とか言ってたよな……レイが嘘をついた? いや、ここで嘘をつく理由が思い当たらない……てことは鏡花……何か隠してるな……?
てか、闇魔法も光魔法もしらねぇんだけど……そもそもあんまりこのゲームの魔法詳しくないからあれだけど……やっぱ結構隠してるな……
ただ……
「この話って、全部七不思議ってやつか?」
「よくわかったでしゅね? そうでしゅ!」
そうか……そこは本当なんだな……
「おっけ、なかなか面白い冒険をしたんだな。レイは」
「でしゅ〜! キョートさんもどこか冒険するでしゅ?」
「いやぁ……お前達と違って学校内に入るのはほぼ無理だからなぁ……」
そんなことを言いながらメニューをいじっていると、ゲーム内チャットにメッセージが来ていた。
送り主は……「マロン」……あの探索系ギルドのリーダー……だっけか。
なになに……
「『魔導学府郊外で不自然な所に鍛治師がいるっぽい。空いた時に調べたら良いことあるかもしれないよ〜』……か」
そういえばそろそろ装備変えないとまずいんだった……鍛治師はアリだな……ただ郊外となると……
「うーん、レイと一緒には無理だな……」
「でしゅ!? 何がでしゅ!?」
「ちょっと郊外……いわゆる街の外に用があってな。少し遠いから、レイとは無理だなって思ってな。」
「わ、私もできるでしゅ! 行きたいでしゅ〜!」
とは言ってもな……
「何時間かかるかわからないからな……」
「行きたいでしゅ〜!」
「うーん……だめ……」
そう言いかけた時、俺は思いついた。
「あー……そうだな……ミライに迎えに来るよう頼むから、それまではついてきて良いぞ。」
「ほんとでしゅ!?」
「ああ、その代わりに、迎えが来たらレイはさっさと学校に行く。良いな?」
「わ、わかったでしゅ!!」
というわけで、俺たちは郊外へと行くことにした。
鏡花にはゲーム内チャットで話をして、俺がプリンを奢ることで了承した。現金なやつめ……
しかし……来て早々息抜きとは如何なものか……まあでも鏡花の方面に学校のクエスト任せて、他は探索系ギルドがしてくれている……俺が出来ることはレベルアップだけだ。であれば行くしかあるまい。
「よし、行くか!」
「はいでしゅ!!」