第七限 悪友登場、その一
えー、昨日はしんどすぎて休みました。申し訳ございません。
ゲームを終了した俺は寝る準備をしていた。歯を磨き、服を着替えそのままベッドにインする。いつものルーティンだ。
そんな俺の元へと一件のメールが届いた。
「ん? こんな時間に誰だ……ゲェ!?」
差出人は俺の悪友からだった。
要件:来いよ
そろそろAHOに顔出してこいよ。ボコボコにしてやる準備は出来たぞ。
明日の16時にいつもの場所で待つ。
「ほぉ……?」
これは……まあ、少し息抜きでもしようかな。最近フログリばっかりだったし。
「やってやるよ……」
俺は寝て明日に備えた。
7月も中頃へと差し掛かり、今学期の授業も終わった日の帰り道。景兎は疲れ切った様子でわたしの方に向いて言う。
「明日からだっけ……夏休み……」
「なわけないでしょ、まだ終業式が残ってるし」
「そうか……早く休みになってくれぇ〜……」
「それはそう……てか、景兎はテスト、どうだったの?」
「俺か? 俺は全然余裕だったけど」
「なら良かった。危うく補講だったね」
「うわ、聞きたくねぇ……その言葉……」
「渥美先生も怒ってたよ? なんでテスト出来るのに授業中あんなことばっかするのかって」
「そりゃあの先生の授業鬼つまらないからな……まだゲーム内書籍読んだ方がマシだ……」
「だからと言ってねぇ……」
「まあまあ、そんなことはさておきだ。鏡花、フログリについてなんだけどさ。」
「うん、どうしたの?」
「ちょっとネッ友に呼ばれてさ、今日はできそうにない。」
「えー? せっかく楽しくなってきたとこなのに〜」
「しょうがないだろ? 俺もしたいけど……来ないと何されるか分かったもんじゃないからな……」
「ふーん……まあいいや。今日は授業までレベリングしてその後は授業受けてって感じだし」
「だからまあレイを頼むぞ」
「あんたのものじゃないけどね?」
「そんなことは言ってねぇよ!」
景兎と別れた私は家に帰りフログリにログインする。
「早くレベル上げないとね〜」
私は、宿屋のベッドで目覚める。
「あ、おはようございましゅ。」
NPCであるレイちゃんの声が聞こえる。
「あ、おはよう、レイちゃん。元気してた?」
「はい、元気でしたでしゅ!」
うーん……かわちい……
「そういえば……キョートさんはどこでしゅ?」
「キョートはね……今日は起きてこないかな」
「そうなんでしゅ……?」
「うん……なんか忙しそうというか……?」
「なるほどでしゅ……」
それで納得するんだ……
まあいいか、そんなのどうだっていいし
「ねえ、レイちゃん。今日は私と一緒に冒険しない? どうせ授業もあるし!」
「わ、分かったでしゅ……!」
私たちは冒険に出かけた。
◇◇◇
俺は家に帰り片付けをしてベッドに寝転がる。
「さて……AHOってことは……俺をストレス発散のサンドバッグにしようってか……あいつめ……」
AHO……正式名称は「アビリアヒーローズ:オルタ」というゲームだ。
ゲームジャンルは格闘ゲーム。プレイヤーはアビリアという技を使うヒーローとして、対戦相手と闘うというゲームだ。
発売時期はフルダイブが出始めた頃であり、かなり古いゲーム、いわゆるレトロゲームだ。
少し違和感とかあるが、フルダイブ始まりのゲームのうちの一つとして、根強い人気を今でも博している。
俺もそのうちの1人だ。
「さて、約束の時間はもうそろそろか….…よし、やるか」
俺はゲームを起動した。
log inーーー
広がるステージ、少し手狭なフィールド。昔のようにフィールドに制限を設けているゲームはこのゲームくらいなものだ……人が1人も居ないのは、まだ16時頃だからだろうか……いや、1人居た。俺は待ち合わせ場所に居た1人に話しかける。
「さて……今度は何を見せるんだ? ネイチャー」
「おいおいおい、キョート。遅かったじゃねぇか」
「十分早いだろうが!? 今16時ぴったりだそ!?」
「ぴったりに来るか!? 普通!」
奴の名前はネイチャー……本名は地平 寧という。なんで知っているかって?
奴とは……かなり前からつるんでいる悪友だからだ。それと、奴の本職にある。
「そんなことより……プロゲーマー様の力とやら、見せてくれよ? ネイチャー」
「何がそんなことだ……舐めやがって……今回の俺は一味違うぞ?」
「やってやるよ……俺も少しやりたいことがある……」
「俺のアビリアは根だ」
アビリアヒーローズシリーズにはアビリアと言われるさまざまな特殊技を選択できる。
そして、根は、その中でも奴の1番得意なアビリアだ。
自身の手足が蔓のようになり、パンチが少し変化する。代わりに機動力がゴミのようになるというアビリアだ。
そして俺が選択するのは……
「やっぱりか、なら俺は兎だ。」
俺が選んだアビリア、兎は機動力を向上させ、脚を強化する代わりに、受けるダメージを上昇させパンチが弱くなるというものだ。
「兎? 珍しいな、そんなの使うのか。」
「今回ちょっとやってみたいことがあってな……ついでだし、それの練習も兼ねるわ」
「はぁ!? 俺をサンドバッグにしようってか!?」
「はっはっは! どうせ俺をサンドバッグにしようとしてたんだろ! そう簡単にはやらせねぇよ!」
「おもしれぇ。やろうぜ!」
お互いがアビリアを選ぶ。すると、お互い指定位置にワープされ、カウントダウンが始まる。
少し先に居るネイチャーがいる。このゲームのシュールなところだ。
3……2……1……GO!
「いくぜぇぇぇ!!」
「うぉーー!!」
Goの掛け声と共に俺たちは走り出す。
俺はリーチが短い……故に懐に入り込み徒手空拳で殴るのがベスト!!
「まずは一発!!」
「読めてるぜ!!」
ガード……! ……一旦ステップ!
「おいおいキョート……距離離すのは俺にはナンセンスだぜ?」
根が俺の足元を駆け巡る。
このまま捕まるとコンボが決まる……まずいな……なら!
「おるぁ!」
俺はジャンプをする。この兎、ジャンプするたびにジャンプ力が上昇する。そして、その効果は5重までする。つまりだ。
「バカほど跳ねて捕まえられなくしてやるよ!!」
より高く跳ぶ。これにより奴は俺を捕捉できない。
「お前……それ弱いテクニックじゃねぇか……着地狩りしてやるよ……」
たしかにそうだ。着地狩りされるリスクが格段に上がる。
だが、人というのは、慣れた行動に何かしらの新しいアクションがあると、一瞬思考が硬直するのだ……こんな感じにな!!
「ここだぁ!!」
「おらぁ!!」
俺はジャンプ中に空中ジャンプを挟むことで、奴の攻撃周期を少しずらし、少しの間、技の硬直時間ができる。
「なにぃ!?」
「もらったぁ!!」
「くっ、硬直が……」
「俺の蹴りはいてぇぞ……ネイチャー!!」
俺は蹴りの連打を叩き込む。
奴の体力はみるみるうちに減っていく。
「くっ……でもな……プロってのはそれくらいのことが起きても勝つんだよ!!」
硬直していた根を素早く動かし、俺を掴もうとする。
「な……はや!? そんなに硬直解けるの早かったか!?」
「自分の根同士の硬直は重たいが……地面を叩く硬直は短いんだよ!!」
俺は掴まれ、今度は奴の連打が炸裂する。
「くっ……なら……!」
「おいおい! 兎にはこれを抜ける算段はないぜ!!」
「いーや……やってやるよ!!」
俺はジャンプをしていた。これだけでは単なる着地狩りマシーンだ。次に虚を突いた。これは一発だけの弾丸……俺がやりたいことはこの次だ!!
ジャンプ! そして!天高く!!
「おいおい! さっきのやつか? 俺にはもう効かないぜ!?」
俺は空中で姿勢を変更する。
このゲームには物理エンジンが搭載されている。
そして、このゲームでは物理エンジンに基づいて威力が変動する技がある。
俺はその姿勢を……あのリッチを倒した時と同じく足を伸ばす。
「バニーシュートだ!! おらぁ!!!」
俺は根を根こそぎ破壊しながら、奴の身体へと接近する。
「くっ……ってえぇ!? まじかよ!? 根が壊され……おわぁ!!?」
そのまま奴の身体にダイレクトアタックをかました。
《WINNER キョート》
「よっしゃぁ!!」
【作者のメモ書きコーナー】
地平 寧
20歳 男性 職業:プロゲーマー
好きなもの:自然、うなぎ、
主に格ゲー、FPSを主体としている。
一番好きなのは今回の根のようなトリッキースタイル。
4年前にプロデビューし、わずか2年で日本一に登り詰めたガチゲーマー
その弛まぬ研鑽からくる予測等が特徴な秀才タイプ
キョートとは3年前からつるんでいる。
最初に会ったゲームはAHO
フログリ経験はまだない。プロゲーマー稼業に勤しんでたんだね。