第二限 冒険の前、轟く静寂
俺たちは、王都クランドから出発し、魔導学府に向かっていた。
「そういえばレイ、お前はどうやって戦うんだ?」
「わ、私でしゅか? 私は……その……魔法とか使ったり……でしゅ……」
「なるほど? なら、私とおんなじじゃーん!」
「あ、でも……殴ることもできるでしゅ……」
「ほへー」
なるほど魔法戦士系か……
俺たちのパーティーにはいない編成だな……
ただ欲しかったのはヒーラーとかだけどなぁ……というのは心の底に仕舞う。曝け出すのはやばい奴だろそれは。
「なら、俺が前に出て、レイは基本的にキョー……じゃなかった、ミライを護る形で陣形取るか。」
「うん、それがよさげだね〜」
「わ、わかったでしゅ!」
レイをパーティーに入れた時に気づいたことだが、レイのレベルは俺たちよりも数段上なのである。
現時点で20そこらしかない俺がミライを護るよりもレイが護った方が良いんじゃね? というわけだ。
「それに……モンスターとの戦闘をずっと任せっきりってのも悪いしな」
というわけで、俺たちは魔導学府に向かっていた。
道すがら、別の冒険者が戦っていたのか体力が減っているモンスターなんかを討伐したりしていた。
「やっぱモンスターのレベルもあがってきてるね……」
「そりゃ、最初と比べたらな。言っても俺たちと同じレベルくらいだし、いけるいける。」
これくらいまでレベル上げたら、リッチも楽勝かもな。あの時はティアさんという最強の助っ人が来てくれたから勝ったが……次は俺一人で……
そんなことを考えながら、俺たちは進む。
「さて、着いたな。スタルトラ王国最北端の町、『ノージステンド』」
「こっから魔導学府行きの乗合馬車がある的な話だったよね〜。」
「そうだな。まずはここで支度してから行けってことだろう。」
「たべもの! 食べたいでしゅ!!」
「そういえば、出発してから6時間くらい? 全然何も食べてなかったもんね」
「たしかにそうだな……よし! なんか食べるか!」
「わーい! 美味しいものがいいでしゅー!」
というわけで、俺たちは腹ごしらえとしてレストランへと来た。
冒険者にももちろん、腹減りという概念がある。
一番関わりがあるのはスタミナだ。
腹が減っているとスタミナは回復しづらく、最終的には回復すらしなくなる。それを賄うために食事なり携行食料なりを食べる必要があるのだ。
とはいっても、別にここに来る必要はない。携行食料を持ちながら進んだ方が楽だし速いからだ。
ではなぜこんなことをしているのか?
こたえは……
「おいしいでしゅ〜!」
「そうか、良かったな」
NPCとの親睦を深めるため!
というのもこのゲーム、俺の考えではNPCとの交流がしっかり大事になってくるんだよな……
ただのNPC枠のやつらですらかなり感情があったり発言に自由性があったりする。つまり好感度を稼ぐのは別にデメリットでも無駄でもない。何かがきっかけで新たなクエストが始まってもおかしくないしな!
「そういえばキョート、これからどうするの?」
「どうするって言ったってなぁ……まあ、魔導学府に行くのは確定だからな。」
「そこなんだけど、ほんとにいいの?」
「というと?」
「ほら、今から行くところって魔導学府じゃん? てことはさ、キョートは魔法使えないしほぼ関係ないわけよ。」
「まあ、そうだな。」
「だから、ほんとにいいのかなーって思って」
「まあ……知ることは悪いことじゃない。」
知ることで何か得るかもしれない。それだけで俺にとってはアドだ。
「なるほど……調べ物を一切しないキョートらしいね」
「言っとくがゲーム内での調べ物はちゃんと読むぞ! 当たり前だけど!」
「まあ読まないと進まないとかあるからねぇ……」
「??? ……難しい話でしゅ……」
そんなこんなで話し合った俺たちは、さっさと次の町に向かうため、馬車へと乗った。
「馬車で4時間だっけか?」
「そうだったはず〜」
「でしゅか……」
長いな〜なんて思いつつ、今後のことについて考える。
「武器も新調したし、とりあえずはバッチシだな」
「そうだ、一つだけ、もしキョートが入れないってなったらなんだけど……」
そうミライが話し出す。まあその話はしとかないとな。そもそもスキルしか持ってない俺が入学できるのかというと……限りなくノー! といえる。つまり、魔導学府に着いたら分かれる可能性があるわけで……
「その場合は俺1人で何かしとくわ、暇になったら別ゲーするだけだし。」
「なるほど……まあ、それでもいいけど、こっちを疎かにはしないでよね?」
「そりゃまあもちろん」
「また難しい話をしてるでしゅ……」
「レイ、お前は魔導学府に着いたらミライと行動するんだ。わかったか?」
「でしゅ!?」
「よろしくね〜」
まあ、俺と違い魔法戦士なレイは高確率でいけるだろう。ミライだけでは心配だしな。進捗度的な意味で……
「わ、わかったでしゅ……」
「大丈夫だ、こう見えても信頼できる女だ、ミライってのは」
「なんだぁい? その言い方ぁ?」
「あーあーごめんごめん、どう見ても信頼できる女性でしたね〜」
「よろしい」
チョロい。チョロすぎる。
「お姉さんは優しいのでゲーム3つで許してあげよう」
「がめつい! 鬼! 悪魔!」
「ぬはは! なんとでも言うといい!」
「あの……キョートさん……!」
「ん? なんだ?」
レイが話しかけてくるとは……受動的すぎてご飯の時以外では話さないのかと思ってたぜ……
「あの……これが終わっても……一緒に旅しても……いい……でしゅか……?」
なんだそんなことか……
「当たり前だろ? お前はもう仲間だ。」
「……! ……はい!」
(ふーん……やっぱキョートってタラシだねぇ……)
そんなこんな話をしているうちに、馬車は目的地へと辿り着く。
俺たちの視界には、大きなとんがり帽子の建物が並ぶ都市が広がっていった。
〈Voice:『魔導学府 イデア』に辿り着きました。〉
「ついに来たぞぉ!! ここが魔導学府!!」
「『魔導学府 イデア』!! 2個目の国! 上陸じゃぁ〜〜!!」
「で、でしゅー!」
現在時刻は夕方の6時、まだまだ行けそうだぜ……!
この世界の乗合馬車について
馬車は現実世界でいうタクシーのように、団体を運ぶシステムのものと、バスのように複数人を運ぶ用の二つがあります。
今回使ったのはタクシー式、ただこれも、一団体というわけではなく……
つまり何が言いたいかと言うと、キョート達以外にももう1パーティー乗ってたわけですね。
声や音は遮音魔法がかかっていて聞こえないのでそこだけは安心?