第十七害 休息に群がって
遅くなりましたが、お待たせしましたー!
〈四天蟲〉というちょっと強そうなモンスターの一人、ハニークェリアを倒した私たち一向は、今、階段を登っている。
「……おかしいでしょ……」
じゃきーちゃんが呟く。
「……まぁ、そうだね……」
「なんや、こんなことで根を上げとるんか?」
「だぁかぁらぁ! こんなに階段が長いことがおかしいって言ってるの!」
私たちは、今も絶賛、階段を登っている最中であった。
あの後、すぐさま一階に行く予定であった私たちであったが、その道が壁で封鎖されていたのだ。
「しゃあないやろ? 封鎖されてたもんはどないしようもないんやから」
「そもそも、私の魔法でも、龍馬くんの剣でも、じゃきーちゃんの矢でも壊せなかったからね。あれはどうすることもできないかなぁ……」
そして、連続して2階、3階へと上がっていたが、そこも壁で塞がれていた。
故にまだ、私たちは階段を登っている……というわけだ。
「ちなみに王子、ここは何階建てなの?」
「ふム。僕様の家ハ、全部で6階建てダ! そして僕様の部屋ハ、その6階にあるゾ!」
先ほどよりも若干低いテンションではあるが、相変わらずのハイテンションで王子は話す。
「え……てことは……」
「……もしかしたら、最大6階まで行かないといけないかもね……」
「それに、6階も開いとるとは限らんから、戻る可能性も考慮しとかなあかんな?」
「……もう……」
じゃきーちゃんが溜める。
あ、これ不満がたまり切ってる時の合図……
「なんでこんな目に遭うの〜〜〜〜!!!!」
…………
………………
……………………
どうにか、6階へと上がってきた私たち。
幸いにも、6階はしっかりと開いており、道がまだ続いていることに一同は安堵した。
特に安堵したのは、じゃきーちゃんだろう。
「……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
「大丈夫? じゃきーちゃん」
「一応大丈夫……ありがとう、ミライ」
私はじゃきーちゃんにポーションを飲ませ、スタミナを回復させる。
このゲームで息が切れるモーションが挟まるのは、スタミナ切れかそういう特殊異常状態のみだろう。
「ほんとに……スタミナ特化ビルドにすればよかった……つくづく反省……」
「……このゲームって、そう簡単にリビルドとかできるの?」
「そう言う話は、わてはしらんな」
龍馬くんはあんまり知らないみたいだ。
なら知ってるのはじゃきーちゃんだけか……
「あるわけないでしょ? そんなのがあったら、リビルドしまくって、とっくの昔に最適構築とか編み出されてるから! まぁ、今でもだいぶ開拓されて、最適構築とかはできてきてるみたいだけど、あと1年は短縮できたでしょうね、そんな機能があれば」
「なるほどね……」
まあ、たしかにリビルドとかあったら楽に色々出来る……そして自由度も増加する。そういう自由度を撤廃……というか制限しているのは今どきのゲームとしては少し異色であることには間違いないだろう……
「そんなごちゃごちゃ言ってんと、早よ安全なエリアか下に続く道を探すで」
「わかってるわよ!」
私たちは、龍馬くんを先頭にして、6階と思われるエリアを進み歩く。
スタミナは、歩くだけだと消費しない。
それに、罠などがあったとしても、冷静に対処することが可能だ。
「てか、スタミナってそんな早くなくなるものなの?」
私はじゃきーちゃんに聞く。
「私の場合、ステータスをTEC とSTR、それからMSTに割いてるから、他のステータスはイマイチなの。ほら」
そう言って、じゃきーちゃんは自身のステータスを見せてくる。
じゃきーちゃんの全体的に私より数倍高いステータスをしていた。
当たり前だ。レベルが違うのだから。
「ほへぇ……なるほど……ん? この『副職業:アイドル』ってのは?」
私がそのことについて聞くと、少し慌てたような声色で話す。
「え、あ……ちょっとこれは……あはは……ちょっと忘れて……!!」
「えぇ〜? 良いじゃんかぁ〜、教えてよぉ〜?」
私は景兎を揶揄っている時と同じような声色でじゃきーちゃんに接する。
「それは……その……つい出来心で……」
じゃきーちゃんが言うには、とある作業をするために、配信裏で準備をしていた時、街の住人から職業:アイドルの存在を知ったのだと言う。
「ネットにも転がっていないような情報だし……独占できるし……なにより、それに少し好奇心がそそられたというか……とにかく! このことは誰にも言わないで!」
じゃきーちゃんが必死に口封じをしてくる。
「別にわては言わんて。まあ、そこのミライはちょっとわからんけどな」
「私も言わないよ。ちょっと反応が面白かったからからかってみただけだし。それに、他人の秘密を勝手に暴露するような人じゃないからさ」
「……ならいいけど」
少ししょぼくれた声でじゃきーちゃんは喋る。
「そんなに気になるなら、わてのも見せたるわ」
そう言うと、龍馬くんは自身のステータスを開示する。
「ほら、これでおあいこやろ?」
龍馬くんは、じゃきーちゃんと同じレベル100だった。
おぉ……まじか……
まあ、強いもんね……でもあれだな……私ちょっと疎外感あるな……
そんな風に思いながら龍馬くんのステータスを覗く。
すると、この世界では見たことはない文字が見える。
「出身:鬼冥国、種族:剣鬼族? なにこれ、初めて聞く」
「そう言うところがあるんや、剣鬼族ってのは、上位種族やな」
あー、ファイアワークスさんみたいなやつか……このゲームも奥が深いんだなぁ……
「鬼冥国っていうのは、職人と刀の国と呼ばれてるところなの。和風な建物が特徴的で、職人さんや刀使いが生まれる地とも目されてるのよ」
じゃきーちゃんが説明してくれる。
「へぇ〜、物知りなんだね、じゃきーちゃん」
「ま、まぁ……! 上級プレイヤーの間では常識的なレベルだから……! まあ、そう言うところがあるって認識でいいと思うけど」
なるほど、結構な常識なんだ。
あれだな、こういうのも覚えていかないとな。
「ミライのステータスも見してよ」
じゃきーちゃんが言う。
「え? 私?」
「当たり前でしょ! 私たちだけ見せてあなたは見せないって不公平じゃない?」
「お、ほなわても便乗させてもらうわ」
見せたのはそっちじゃん……
「え〜、まぁいいけど……面白いものもないし……」
私はステータスを開示して、二人に見せる。
「ミライは……ステータス低いね……」
「まぁ、まだレベル60になりたてだからね。そりゃ低いよ」
「にしてもよ。私がこのくらいのレベルの時でも、もうちょいステータス高かった」
「そうかぁ? わてはこのレベルやった時のステータスとか、もうこれっぽっちも覚えとらんわ」
それぞれ違う反応を見せた。
え? 私できない子ってこと? 生まれが貴族の子供だからか……?
よく言うもんね、2世キャラはあんま強くないって。
えー、ハズレを引いたってことぉ……?
「まあ、わたしもこの時の記憶は薄いから、絶対に低いってわけではないから、そこまで気にする必要はないよ」
「……みんなこの時の記憶が薄いって言うけど……レベルカンストしたの何日前なの?」
「え、半年前」
「半年前やけど」
私は頭を抱えた。
こんなガチ勢達に囲まれているのか。私はなんて幸運で、なんて不幸なんだろうか……と。
「おまえたチ! 何ぺちゃくちゃ喋っていル! 僕様の部屋についたゾ!」
王子の言葉と共に、全員王子の部屋へと入る。
中はTHE・男の子の子供部屋的な内装であるが、しっかりとキングサイズのベッドが置かれているなど、要所要所で王子の部屋というのが窺えた。
「ほんとに王子様だったんだ……半分信じてなかったよ」
「なニ!? お前、無礼だゾ!」
そう言う王子をよそに、私たちは視界に表示されたとある文字列に目がいく。
「〈リスポーンポイント更新〉……やっと、やっと脱出できたぁ!!」
「ほんとに……あの牢屋にもう戻らなくて済むのね……」
私とじゃきーちゃんは、安堵の声を漏らす。
「さて、こっからどないするんや? わてはまだまだ探索できるけど、この城、わてが来た時よりも随分と様変わりしてるみたいやからな」
龍馬くんは、刀と私たちを交互に見つめ、話す。
「ちょっと私は休ませて欲しい……もう丸一日くらいしてらのよ……?」
あ、噛んだ。
「……じゃきーちゃんも疲れてるみたいだし、今日は一旦解散かな。私もちょっと……長時間すぎて……がたが……」
「そうかい……まあ、わてはまだ残って色々してるわ。次はいつくるんや?」
「そうだね……明日のお昼とかにするかな私は」
「なら、私もお昼頃にしようかな」
「うーん、曖昧やなぁ……もうちょい確定した時間は言えへんのか?」
「いやあはははは……」
明日の予定は特にないけど、疲れで寝てるかもしれないからなぁ……確定的でないことは言えないや。
「グループチャットを作れば、いいんじゃない?」
じゃきーちゃんが呟く。
「あ、その手があったか!」
「わぁ! 急に大きな声出さないでよ!」
「あ、いやぁごめんごめん。でもナイスアイデア!」
グループチャットがあれば、たとえログインしていなくても返事ができるからね!
「なるほど、そう言うことなら、まずはフレンドになろうや」
「うん、そうだね。はいこれ、私のID」
私は、龍馬くんとフレンドになった。
じゃきーちゃんも龍馬くんとフレンドになったようだ。
「じゃあ、グループチャットは私が作っとくから、ミライと龍馬は承認してね」
「おっけー!」
「まあ、わかったわ」
そんなこんなで、私達は、この王子の部屋で解散した。
さて、次こそ王の元へ行けるかな……?




