第十三害 惑いに微睡む御一行
「ほな、わてがどうしてここにおるのかから話していくで」
「おねがいします」
細目ともとれる目の男が刀を持ったまま考えている。
うわぁ……胡散臭い顔だなぁ……
いや、それは偏見か……?
「ほな話すで。18年前、とある田舎の剣道場の家の子として……」
「ちょい待ちちょい待ち」
「ん? なんや。今から話そう思うて話してたのに」
「過去回想であなたの出生から入る必要ないでしょ! 私たちが知りたいのは蟲地王国で何が起こったのかって話! それと、あなたがどうしてここにいるのか!」
なんで名前も知らない初対面の人にそんなボケかますかなぁ……
「せやったせやった。ここで起きたことと、わてがどうしてここに居るか、やな。しゃあないなぁ……あれはちと前……わてがこの街に来たところまで遡るんやけどな……」
侍さんは、刀を仕舞いながら話を始める。
しっかりと始まったことに少しばかりの安堵が募る。
「わてが来た時には、検問官とかおらんかったんや。せやからなんの問題もなく入ることが出来たわけや。その時はぎょうさん賑わっとった。わてはあの事件以降外を見れてないんやけど、それでもまあ今よりは活気があったとは思とる」
そうだったんだ……
前に来た時は、そんなに人は居なかった気がするから、やっぱり私が来た時にはもうこんな感じになっていたのか……
「その時に王城に侵入したんや。まあ、わての冒険者の勘ってやつが王城に何かあるって睨んだんやな。あの時は一般人も気軽に入れたから、いくらでも入った。その時に出会うたんがこの王子や」
「僕様ダ!」
ちょっと前まで王城に普通に入れたんだ……それも知らなかったな。
てか、この数日で変わりすぎでは?
「わてが次にログインした時には様子が変わっとった。ぎょうさん賑わっとったはずの街には人通りが少ない。そして、見える人影は衛兵が増えとる。まるで戦時中の国を見とるかのようやった」
彼は刀を撫でながら、続けて話す。
「まあ、今となってはその読みは当たっとったわけやけども、とりあえず異変を感じたんや。わてはもう一度、王城へと入ったんや」
「その時は王城にまだ入れたの?」
じゃきーちゃんが言う。
「いや、入れんかった。衛兵に止められてな。理由を聞いても、『王様の命令です』としか帰ってこんかったんや」
「なるほど、でも、あなたは入ったんだよね?」
「せや。不法侵入ってわけやな」
冒険者であれば、好奇心からの王城侵入は理解できなくはない。
かくいう私も、オフラインの別ゲーで入れないはずの王城に、バグとスキルを駆使して入ったことが何度かある。あれはクソゲーだったか……
やっばいな私、クソゲーに毒されすぎでしょ……
少し毒素を抜かないとな。
そう思いながらも、彼の話は続く。
「そしたらこの王子が泣きついてきてな。どうやら王様の様子がおかしい言うて、わてを縋ってきたんや」
「僕様は別に泣いてない! 泣きついてきたのはお前の方だろ!」
王子と呼ばれている蟲地人族が声高らかに言う。
まあ……多分嘘だろう。この武士さんが泣きつく様子とか想像つかないし、王子って人のが想像つくし……
「……まぁええわ。そんで王城の中を見ていくうちに、その件の王様って言うやつのとこまで行ってな。それで捕まって今こんな状態なわけや」
「……なるほど」
「全部王様が悪いっていうのは、どう言う意味?」
じゃきーちゃんが聞く。
「そうだ、私も聞きたい!」
「そうやなぁ……時にお嬢さん方は、飢餓状態ってのはご存知やろうか?」
「飢餓状態……?」
「そんな状態異常は聞いたことないんだけど……」
1年プレイしているじゃきーちゃんですら知らない単語……なんだろうか……
「人間な、飢餓状態になったら、なりふり構ってられんくなるんや。そんで自分の食欲を満たすために否応なしに暴れ狂う。それが飢餓状態っていうやつや。わては王様がそんな状態になっとると思うとる」
「僕様の父上ハ、今お腹空いているのダ! だからこソ、食べ物を欲していル!」
「って言っとるさかい、わての推測は間違っとらんやろうなと感じとるわけや」
「なるほど……」
「ところで、飢餓状態ってなんですか?」
じゃきーさんが質問する。
流石はこのゲームのガチ勢、知識には貪欲なんだね。
「え、飢餓状態について話したやろ、何がわからんのや?」
「だ・か・ら! 飢餓状態ってフログリではどういう効果なんですか!? って! 聞いてるんです!!」
「ほぇ? あー、そゆことかいな。あれはただの喩えや。飢餓状態っていうのは、そう見えたから言っただけであって、別に飢餓状態っていうフログリの状態異常はないやろ」
おっと……そう言うことなのか……
飢餓状態っていう状態異常はないのね……
そんな私の横で、メラメラと燃え盛っているじゃきーちゃんがいた。
あー……これ怒ってるかも……
「ちょっとあなた! ふざけてるの!? なんでそんなわかりづらい言葉を使うのよ! 普通にあると思った私の純粋な気持ち返してくれる!?」
「あーはいはい、わかったわかった。わても悪かった悪かった。ったく、とんだじゃじゃ馬娘やな」
「誰のせいだと!?」
「あはは」
「え? なんで笑ってるの?」
「いや、じゃきーちゃんがこんな感情的になるなんて思ってなかったからさ。やっぱそっちの方がいいよ」
「……!」
やっぱり、じゃきーちゃんは感情的な方が似合ってる気がするな。うん。
そんなことを思っていると、侍の人が話してくる。
「だからか知らんけど、この王子が王になりたいって言っとるんやわ」
「そうダ! 僕様が王になることデ! この国を再建するのダ!!」
「まぁ、わてはそんな上手くいくとは思わんけどな」
……うーん、たしかに。
「そういや聞きたいんやが、お嬢さん等、名前なんて言うんや? あ、もちろんPNでな」
あ、そういえば言ってなかったかも。
「そういえば言ってなかったね。私はミライ。そしてこっちが……」
「ようこそ!魔海の世界へ……は良いか。私は天皇河 邪鬼子です。よろしく……」
なんかじゃきーさん少しイラついているね……
さっきの問答があったからかな……?
「なるほどな、よろしゅう」
「それで、そっちの名前は?」
「あー、わての名前もやな。わての名前は「龍馬」っていうんや。よろしゅう」
「なるほど、龍馬さんね。よろしくね」
ということで、全員が自己紹介を終わらせ……
「ちょっと待テ!! まだ僕様の名前を言ってないゾ!!」
ちっちゃい虫のような蟲地人族が叫んで抗議してくる。
「あ、忘れてた! 王子だったよね、名前は?」
「僕様の名前は"ディアドホス・グラスノア"ダ! なんとでも呼ぶといイ!」
「ディアドホス……ディアくんだね、よろしく!」
「いヤ、百歩譲ってディア王子で頼ム! お前らみたいな庶民の皆皆ニ、くん付けは嫌ダ!」
「えぇ〜? ケチ〜」
「ケチとはなんダ! ケチとハ!」
私たちの問答に、じゃきーちゃんと龍馬さんは白い目を向けてくる。
え、そんな見苦しい?
「さて、どうしよっか、この牢屋から出るために……」
私たちは一つの鉄格子へと目を向ける。
一つになった二つの牢屋。
私たちは、この少し大きな牢屋から脱出しないといけないようだ。
「これは骨が折れるなぁ〜」
「頑張るしかないようやなぁ、わて久々のログインやっちゅうのに……」
「そうね……ここから早く抜け出して、配信を続けないと」
「行くのダ! 僕様が王様になるためニ!」
私たちは、この牢屋から出るために、思考を巡らせ始める。
さて、どう攻略しようか……考えろミライ……
追記:少し変更しました。
宗雨正→龍馬
よろしくねぃ