第十二害 乙女二人に武士一人、王子をお一人添えて
天皇河さんが感情を爆発させたあの出来事の後、私は天皇河さんからある提案をされた。
「ねぇ、ミライさん」
「ん? なに?」
「あなたのこと、ミライって呼び捨てにして呼んでも……良いかな?」
私はその言葉に驚いた。
天皇河さんからそんなことを言ってくれるとは思わなかったからだ。
「うん! もちろんだよ! じゃあさ、私もじゃきーさんのこと呼び捨てとかちゃん付けで呼んだりしてもいい?」
「……うん。いいよ」
「ぃやったぁ!!」
まじか〜! こんなにも有名な人とお近づきになれるとは……! 私初めてかもしれない。芸能人の友達なんて……!
「んじゃあ、よろしくね! じゃきーちゃん!」
「……えぇ、よろしく。ミライ」
この日、私たちは初めて手を取り合った。
「とは言っても、これからどうしよっか」
私たちが友情を育んだからと言って、この事態がどうにか解決するというわけではない。
うーん……難しいところだ。
「そうね……どうせ後一日くらいは出れないんだし、色々またやってみるってのもアリだけど」
「うーん……そうだよねぇ……」
◇◇◇
そんなことを考えながら、数時間ほど経過して、今に至る……というわけだ。
私たちはこの場所に数時間居て、気づいたことが二つある。
一つ目は看守の滞在時間。
看守は1時間毎に見回りをしており、その度に私たちの牢屋を覗く。
そして、点呼を取った後、すぐに出ていく。
二つ目は私たちについて。
どうやら、この場所であってもインベントリなどは機能するようであった。
まあ、メール機能とかが使えなかったり、一部機能に制限があるにはあるけど、持ち物の出し入れは問題なくできる。一先ずは支障がないようだ。
「うーん……どうする?」
「削ってるところを看守に見られたらおしまい……要となるはずの魔法は一日一度制限アリ。これじゃぁほんとにお手上げだ……今日の配信はなしかな……」
「うーん……どうしようかな……」
今先ほどまで、看守がいた廊下は、ただの静寂が支配している。
そんな静寂であったからか、いつもより音がよく聞こえた。
「おイ! そこに誰かいるのカ!?」
「!?」
どこからか、変声期が来る前の子どものような声が聞こえてきた。
場所的に、私たちが今いる牢屋の右側にある部屋のようだ。
「なに……!? なんか声が……」
「なに……この声……」
二者二様の反応を見せる。
「おイ! いるのカ!? 返事をしてくレ!」
謎の声は、私たちに催促をする。
「えっと……どうする……? じゃきーちゃん」
「うーん……もしかしたら脱出の糸口かもしれないし……とりあえずミライが聞いてみて」
「え、うん。わかった」
私は、声のする方向へとできるだけ近づき、叫ぶ。
「はい! いますけど!」
「おォ! それは行幸ダ! どうか僕様を助けてくレ!」
私は横転した。
いや、予想はできたよ……そりゃそうじゃん。
牢屋の横から声するなら牢屋の中に入ってるのはそりゃ予想つくけども……
てか僕様って……なんか図々しい!
あ、それは失礼か……
少し脱出の光が見えたと思った私たちに、再び暗雲が立ち込める。
「えっと……どう助ければいいの!? 私たちも捕まってるんだけど!」
私が叫ぶと、声が返ってくる。
「そんなのは僕様も知らン! けド、とりあえず合流出来たラ、脱出できるはずダ!」
右側から聞こえる声は、そう言ってくる。
「え、でもどうやって合流するの!?」
「どうにかして穴を開けるのダ! 僕様の方とお前達の方、両方から削って行けバ、開通すル!」
そんなやり方だと何日かかるんだ……あ、待てよ……
「わかった! やってみる!」
「え、ミライ、できるの!? 何日かかるかわかんないよ!?」
「ちょっと閃いちゃってさ、まあ見ててよ」
私は、手を翳す。
確かに、通常の魔法使いであれば、この状況は詰みの盤面である……というのには同意する。
しかし、それは"通常の魔法使い"ならの話。
「見せてあげるよ……水属性適正SSSの超適正持ちの強さって奴を!」
私は、手のひらにマナを集める。
それは、水のマナへと変質し、属性魔法へと還元される。
「いくよ……【ウォーターカッター】!!」
手のひらから、水の刃がとどめなくでてくる。
その刃は壁へとぶつかると、しっかりとえぐり削っては消失する。
「よし、感触あり! これならいけるはず……!」
「私も手伝う! 〈一矢乱発〉!!」
じゃきーちゃんが矢を放つ。
その矢は一本であるのにも関わらず、まるで複数の矢が乱雑に発射されたかのような、しかし、その並びは非常に綺麗という歪さを見せていた。
その矢が壁と接触した時、壁に大きなヒビが入る。
壁が薄いからか、はたまた水が混じり柔らかくなったのかはわからないが、確実に一歩前進した感触があった。
「よし! このままいけるはず!」
私がもう一度魔法を放とうとした時、壁の奥から声が聞こえる。
「そういえば、こんなところがスタート地点やったなぁ……なんや王子、まだそないなことしとったんかいに」
「これハ、侍の君! いつまで寝てるんダ! 早く僕様を手伝ってくレ!」
「わての刀は壁を斬るためにあるもんちゃうけどなぁ……しゃぁないわ」
なんだ……? 誰かいるのか……?
声の感じからして、大業を叩き込んでくれるのかもしれない。
だとしたら、こっちもあっちに合わせる方がベスト!
「行くで? 桜華流 一の型……」
「行くよ……【ウォーターカッター】!!」
「〈一刀両断〉!」
二つの衝撃が、部屋を分け隔つ壁へとぶつかる。
その衝撃は、周りにいた人々を吹き飛ばすほどの威力であった。
「うわっ!?」
「なんデ!?」
一同が目を開けると、そこにはポッカリと空いた壁と、そこに佇む一人の人間が立っていた。
「……えっと……あなたは……」
「そちらさんこそ、なにもんや?」
二人の視線は、互いにお互いを見合っている。
こんな牢屋に居たような人物だ。警戒するのは当たり前だろう。
そんな警戒は、一つの言葉により崩れ去った。
「でかしたゾ! 侍の君! 僕様が王になった暁にハ、褒美を享受しよウ!!」
「はぁ……あんたが王になる未来ってのは今は見えて来んけどなぁ?」
「うぐッ……絶対になってやル! お父上がご乱心なラ、僕様がなるしかないんダ!」
その言葉を聞き、私はふと過去を振り返る。
そういえば……王様がご乱心……戦争……獣……
「……んた。おーい、あんたさんのことやで? そこの水色髪の女の子さん」
私は、思考を巡らせることに夢中になっており、その言葉に気づかなかった。
「ほぇ!? あ、私……?」
「せや。あんたらは誰なんかって聞いとるんよ。そこの金髪の人から一応聞いたけど、あんたらは誰なんか、あんたの口から聞きたいんや」
「だからこれは金じゃない! レインボーなの!」
「はいはい、せやなせやな」
「うぐぐ……」
どうやら、私が考え事をしている間に、話が進んでいたみたいだ。
「えっと……私たちは……」
私たちは、ことの経緯を説明する。
そのことを、刀を持った男の人はしっかり真面目に聞いている。
「なるほどな……それは冤罪やな」
「まあ、そうなんだけども……他の仲間のね」
じゃきーちゃんがそう言うと、刀を持った男の人は喋る。
「違う違う、そもそも罪に問われるようなことは何一つしとらん。悪いのは全部蟲地王国の王様や」
「え?」
じゃきーちゃんが驚いたような表情で見つめる。
そして、王子と呼ばれた謎の蟲地人族は下を向き、俯く。
「そもそも、戦争の火種となったんは、蟲地王国の王様、「シントシード」や」
彼は、この乱心騒ぎについて、知っている全てを語り始めた。