第九害 その獣に試練は答える
なんとか間に合いました。
俺は試練をしていた庭へと到着する。
「懐かしい……っていっても、一日ぶりとかだけど……」
その後ろでは、息を切らしながら走ってくるレイの姿があった。
「ぜぇ……ぜぇ……キョートしゃん……速いでしゅ……」
「おいおい、もう息切れか?」
「キョートしゃんが急に走るからでしゅ!」
「しょうがないだろ、俺も早くやりたいからな」
俺が今から挑戦するのは、俺よりも遥かにレベルが高いモンスター達との連戦だ。
ユニーククエスト、【試練・十獣との勝負】を達成するためには、なんとしてもこの試練を乗り越えないといけない。
それに、オジキの好感度稼ぎにもなるだろうし……
「さて……いっちょやるか……! 試練をよ!」
「でしゅ! 頑張ってくださいでしゅ!!」
俺は試練を受けるため、一度小屋の中へと入り、リスポーンを更新する。
その後、だだっ広い庭……魔物が巣食う籠の中へ飛び込んだ。
「さて……まずはお前達だよなぁ……? オオカミ共!」
そのようにして見た先には、オオカミこと、パックウルフの群れが俺へと牙を剥き始めていた。
「もう何度も戦ってんだ……さっさと攻略させてくれ!」
俺は「雷電」を持ち、構える。
風が吹き、静寂が訪れる。
その風は、まるで西部劇のガンマン対決のようであった。
「行くぜ……〈兎脚〉!」
その言葉が、開戦の狼煙となった。
パックウルフの群れが、俺の方へと向かいながら全速力で駆けてくる。
一矢乱れぬ動きで俺へと向かう奴らには、俺が喰われる側だと思っているらしい。
このパターンは……噛みつきか……!
「なら……急旋回! 〈兎脚〉!」
奴らの目の前で方向転換……そしてそのまますかさず背後にまわる……!
パックウルフの最適攻略法……完全版だ……!
「ここだ! 〈兎斬〉!!」
マナを纏った斬撃が、オオカミの群れへと向かい飛ぶ。
その反応に遅れたのか、オオカミは一匹残らず餌食となった。
「ふっ、捕食者は俺の方だ……」
直後、オオカミの頭が飛ぶ。
「やっぱり表現規制がしっかりしてるのは流石だな……そこらのクソゲーだとゴア表現すごいらしいからな……ミライが言ってたけど」
とにかく、これにより、1戦目はクリア……
「さて……次はローズトレッチ……茨の攻撃が厄介だが……関係ねぇ……!」
俺の背後から、何かが成長する音が聞こえてくる。
〈試練再開:2戦目〉
ここからは流れ作業のように順調に勝ち進んだ。
2戦目:ローズトレッチ
武器を剥ぎ取る茨が厄介な敵ではあるが、メタを張れば一瞬だ。
試練場の外周を回り続け、茨を絡めさせる。
そしてそのまま茨を切断、残った本体も〈双剣斬〉で斬りつけ、そのまま切断した。
3戦目:マッドラゴラ
地中に潜り、地面を掘り進めながら音攻撃をしてくる厄介な敵だ。
うるさい故に、バッドステータスも付与してくるため、普通にうざい。
ただ、音が聞こえるせいで場所が丸わかりな上に、そこまで深く地中に潜っていないため、〈兎蹴〉を音源へぶちかまし勝利。
4戦目:クワイエットスノウメア
地面に雪や氷を形成して速さを殺してくる。俺の中でも最も厄介な敵だ。
だが、そのフィールドすら利用する。
このフィールドは氷と雪で滑りやすさが変わる。
滑りやすい氷のフィールドで加速し、滑りにくい雪のフィールドでスピードを調整して撹乱。
相手が焦って何か魔法を放った時がチャンス。
そのまま側まで近づき、一刀両断。斬り伏せて勝利。
5戦目:マトンイーグル
空から遠距離攻撃をネチネチするクソ敵だ。
だが奴には攻撃した後に莫大な隙が生まれる。
そこを〈兎跳躍〉で近づき、撃ち落とし、翼を切断。
あとは飛べなくなったところを〈兎斬〉で斬りつけ、そのまま切断した。
6戦目:フレイムバーンライオン
火……といっても爆発を扱うライオン。
突進、爪攻撃、噛みつき……全てにおいて爆発効果が載っている。
だが、反面防御面でそのような爆発はしない。故に殴りまくり避けまくる……!
ヒットアンドアウェイを繰り返しまくった結果、ついにライオンが倒れ、そのまま消滅する。
7戦目:サンダーイグアス
雷属性の攻撃をしまくるイグアナだ。
全身雷属性であるからか、俺の「雷電」の追加効果が全く効かない。
だが、クリティカル箇所が多い。
そのため、〈ラックトップブースト〉を使い、クリティカルを連発。弱ったところに〈兎斬〉をぶち込む。奴の体力を削り切ったのか、奴が倒れこみ、勝利。
8戦目:ポイゾネスフロゥグ
クソデカくてクソ速いカエル。
攻撃全てに毒の効果が付与されているため、喰らうことが命取りとなる。
が、反面、麻痺には弱く、攻撃を当て続けて麻痺を起こすことで行動停止にさせる。
その後、〈切り返し〉を行い、体力を削り切り、勝利。
9戦目:アリアンツ
とにかく硬い。そしてとにかく多い。
パックウルフよりは少ないのかと思えばそんなことはなく、普通に同じ数湧きやがる。
ただ……奴の弱点はその皮膚と皮膚との繋ぎ目だ。
そこを狙うのがまた難しいが……俺には速さがある。
今持つスキルを駆使して、最速の速さへと至り、反面奴らに麻痺状態を付与した。
その後、奴らの反応し得ない速度で近づき、〈兎斬〉。全員まとめてあっさりと切り裂かれ、二つになる。
「おいおいおい……順調じゃねぇか……! 後一戦だぞ……!」
俺は、後一歩のところまで進んでいた。
さぁこい……最後の敵……!
〈試練再開:10戦目〉
そのアナウンスと共に出てきたのは、大きなカブトムシであった。
「でけぇ……カブトムシ……?」
〈Voice:シンボルモンスター レインボービートルと遭遇しました。〉
アナウンスが鳴る。
つまり、今までの奴らとは格が違うということだ……
「レインボービートル……シンボルモンスターか。おもしれぇ……1体で来たことを後悔しやがれ……!」
その言葉に反応したのか、レインボービートルが動きを見せる。
「ツノを上げた……ってうぉ!?」
ツノを上げたかと思えば、いきなりビームを発射してくる。
その威力は絶大であり、俺の居た地面が抉り取られていた。
「あっぶねぇ……あんなの喰らったら振り出し一直線だ……そんなの、たまったもんじゃねぇ……」
俺はすぐさま行動を開始する。
「さっさと倒すが吉……だ! 〈兎脚〉!」
俺はより速くなり、レインボービートルの背後へと回り込む。
「よし……これで……!」
その時、ビートルの羽が展開される。
「うお!? まじか……!」
どうやら背中を触ろうとしたのがよっぽど気に食わなかったのか、俺へと特大な目線を送ってくる。
「おいおい……そんなに嫌か……? そこを触られるのが……」
てことは……弱点部位ってことだよなぁ……?
「そうと決まりゃ……全力でぶん殴る……!」
俺は〈兎脚〉、〈俊兎〉を使い、速さを極限まで上げる。
「さらに……〈起動〉!!」
俺は、全身に雷を纏う。
その状態であれば、サンダーイグアスのような所業も可能となる……!
「今の俺は……触れるな危険……だぜ?」
俺は刹那の間、奴の後背に乗る。
そして、構えをとる。
ビートルがそのことに気づいたのは、5秒ほど後だった。
「今更気づいても……もう遅い……」
俺は雷を刀身に纏わせる。
雷電の〈起動〉と俺のスキルで合わさる合体技……
「くらいやがれ!! 〈兎斬〉!!!」
ゼロ距離での斬撃。
その威力は奴の屈強な甲殻を一瞬で引き剥がし、やつを内と外から粉々にする。
それにより、レインボービートルは燃え尽き、一瞬にして姿を消した。
「なんてことはなかったな……外したら死んでたが……」
〈Voice:『ユニーククエスト:【試練・十獣との勝負】』をクリアしました。〉
「ぃよっしゃあ!! ……くそっ……つかれた……」
俺はその場で倒れ込む。
そこに、レイが近づく。
「やったでしゅ! クリアでしゅ! キョートさん流石でしゅ!」
「あぁ……だろ? 行けると思ったんだよ……なんかな……」
これも全て、ハンコ最強プレイヤー……剣神の技を受けていたおかげかもな……
いや……そんなことはないか……
とりあえず、俺は試練を突破した。
「さて……アグリさんのとこでも見に行くか」
「でしゅ!」
俺はアグリさんの元へと向かう。
あれ……そういえば何か忘れている気がする……