第八害 少女、弟子になる
眠くなって寝てました。
申し訳ございません。
あの後、疲れからか爆睡をかまし、気がつけば一日が経っていた。
そして今、俺は、フログリの世界へと戻ってきている。
「えっと……レイ。これはどういう状況だ……?」
「えっとでしゅね……その……」
俺は今、目の前で繰り広げられている現象に動揺している。
「はい! だから、弟子にしてください!!」
オジキ……レックス・イラベスティアの前に、一人の人間が土下座をしていた。
元気ハツラツな声にモノクルをかけた少女……アグリさんがそこには居た。
その側には、黒色の体毛を纏った獣人らしき姿もある。
「アグリさんが……お父様に弟子にしてほしいと頼み込んでる様子でしゅ……」
「いや、そんなの見りゃわかるんだよ。どうしてこうなった?」
「でしゅ……それは……」
話は、俺がログアウトした後まで遡る。
どうやら、俺がログアウトして、少し時間が経った時、アグリさん達が来たらしい。
どうやらその時、ちょうどオジキが出掛けていたらしく、待機しながらこの街を観光していたらしい。
ついでに近くにいたレイも捕まって一緒に観光した後、オジキが帰ってきて今に至る……
というわけらしい。
「し……死ぬかと思ったでしゅ……まさか見知った街で死にかけるなんて思いもしなかったでしゅ……」
「なるほど……さてはレイ……アグリさんの謎の豪運にやられたのか」
「で……でしゅ……」
レイは力無く頷く。
どうやら相当やばかったらしいな。何があったのかはこの際聞かないことにしよう。
「てか……なんでアグリさんは弟子にしてくれって言ってんの?」
「わ、わからないでしゅ……私の使ってる『怒棍』はどこで覚えれるかって聞いてきたから答えたらこうなったでしゅ……」
なるほどな……アグリさんも強さを求めてるってことか……知らなかったぜ……
「……ちなみにレイはどうやって習得したんだ?」
やっぱ気にはなる。
怒棍はただ突っ込むだけではあるが威力が高いゆえに普通に強力なスキルだ。そんなスキルの習得条件なんて知りたいに決まってる。
まあアグリさんのあの様子からして、大体予想はできるが……
「えっと……私はお父様から教わったでしゅ」
「お父様……つまりオジキからか……」
予想通りか……流石はオジキだぜ……
ユニークモンスターから教えてもらえるのか……確かにそう考えたら土下座するかもしれん……アグリさん……印象と違って結構考えているのか?
そんなことを話しながら、俺はアグリさんとオジキの会話を聞いていた。
「お願いします! どうか私を弟子にしてください!」
「……おめぇさん……誰に向かって口を聞いてるのかわかって言ってるか?」
「えっと……あ……はい! この国の王様ですよね!」
「わかってんじゃねぇか……その王様の弟子になるって言うなら……この国の味方になるって言うことだぜ……?」
少し考えた後、アグリさんが答える。
「いや……それは少し違います!」
「……ほぅ?」
その言葉に緊張が走る。
「だって……悪いことしてる人たちの味方にはなりたくないです! ですから、その時は敵となって、ちゃんと更生させます! ですから! ずっと味方になるって言うのは……お約束できません!」
その言葉に、その場の空気は凍りつく。
だが、俺は知っている。その回答は……
「…………ガッハッハッハ!! おもしれぇじゃねぇか! ガッハッハッハ!!」
やはり、オジキはそう言う言葉に弱い。
そんな気がする。
「おいおい、強い人間を選んだな……ナナリー」
オジキがそう言うと、アグリさんの横にいた黒い毛玉みたいになっている獣人が反応する。
「はい……アグリは強い人間。父上は気に入ると思ってた」
その余裕そうな表情にレイが目を輝かせている。
「いいぜ……弟子にしてやるよ」
「!! 本当ですか!?」
アグリさんの顔がしっかりと笑顔になる。
まじか……すげぇなアグリさん……
俺も教えてもらえるかな……流石に無理か……
「……だが、この武技を教えるってぇなら……オレよりももっと適任がいる……来やがれ、トゥーラ」
そう言うと、奥のふすまから、獣人族がまた一人出てくる。
「……なんすか? オヤジ」
不機嫌そうに現れたのは、黒と白のプチプチカラーが特徴なダウナー系な獣であった。
「おめぇさんに頼みてぇことがあるんだ。聞いてくれるか?」
「オヤジからの頼み事……? ……マジか。超聞く。今すぐ聞く」
そう言うと、トゥーラと呼ばれた獣は、すぐにオジキに駆け寄る。
「なになに? オヤジがオレに頼み事なんて初めてや。教えて教えて」
「トゥーラ、こいつらに『怒棍』を教えてやってくれや……おめぇさんが一番マスターしてんだ。教えてやってやれ……」
「うん、やる。すぐやる。爆速で教える。だからオヤジも後でご褒美くれ」
おいおい……あいつ結構がめついな……
「それはお前がしっかり教えれたら考えてやるよ……んじゃ、オレは行くからな……しっかり教えてやれよ……トゥーラ」
「もちろん。オヤジの頼みとあらば、なんでだってするぜ」
そう言うと、オジキはアグリさんの方を見て言う。
「ってわけだ。『怒棍』については、オレからじゃなくて、そこにいるトゥーラに聞いてくれや。後ろに居るキョートもな……」
「え、キョートさん?」
その言葉を聞いたアグリさんは後ろを振り返る。
「あ! キョートさん! お久しぶりです!」
「おう。アグリさんも元気だったみたいだな」
「知り合いか……なら都合が早え……キョート。おめぇさんはあの試練を受けたらこれを受けろ。わかったな?」
威圧が俺に対して飛んでくる。
どうやらオジキはサボるなよと言いたいらしい……
「もちろんですよ、オジキ。ちゃんとクリアするぜ」
その言葉を聞くや否や、オジキは立ち上がり、後ろのふすまへと向かう。
「んじゃぁ、オレは少し用があるんでな……後はそこのトゥーラに聞いてくれや……アグリ、そしてキョートよ」
「わかりました! ありがとうございます!」
「わかったっす、オジキ」
そう言うと、オジキが部屋を出る。
後に残ったのは、俺とレイとアグリさん、そしてアグリさんの隣にいた黒い毛玉と、トゥーラと呼ばれていた白と黒の獣だけであった。
「んじゃ……オヤジの言った通り、早速修行だ。行くぞ!」
「は、はい!!」
そう言うと、トゥーラとアグリさんが走り出そうとする。
「ちなみに、俺たちは何をすればいい?」
その言葉に、トゥーラは答える。
「先にオヤジに出された試練を突破してから、『怒棍』については教える。だから、先にそっちを突破してから考える」
……なるほど、まあそうだな。
俺のタスクはまだ残っている。それを先に消化させてこいって助言だろう。
そういうと、一人と二匹は走り出した。
「キョートさん!」
「ん?」
何やらアグリさんが叫ぶ。
「絶対習得してみせますね!!」
走りながらも、笑顔を見せるアグリさん。
本当に明るい人だな……同級生とかなら惚れてる奴ら結構居るんじゃねぇか……?
「おう! 頑張れよ!」
「はい! キョートさんも頑張ってください!」
そう言うと、どこかへと駆け出していく一人と二匹。
そんな背を見届けた俺とレイは、お互いを見つめ合う。
「さて……試練突破しに行くか!」
「……! もう大丈夫なんでしゅ?」
「当たり前だ。丸一日くらい休んだんだ。もうバッチリよ」
今の俺なら行ける気がする。
一日休んだ俺の力であれば、あれくらいは容易になる……はずだ。
そう思いながら、俺たちもあの庭へと歩み始める。
「さて……最速クリア……目指してやるぜ……!」
その俺の目には、確かに勝利を見据えた光が灯っていた。