表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/32

第9話 逃げるんだ、メル!

 な、何んだ...この女たちは?


 2mは優に超える大女が三人。そのうちの一人は筋肉質で、もう一人は細身。そして、ビッグハムのように横にも縦にも大きな体躯を持つ者が、他の二人を引き連れる形で登場した。


 三人とも目と鼻を隠し、顔の上半分を覆うマスクと全身を包むフードを身につけていた。そんな不気味な三人組に俺とメルは取り囲まれてしまった。


 俺たちは取り囲まれた状態で、人通りの少ない路地裏へと連れて行かれた。


 村の住民はみな、見て見ぬふりをした。


 中には「早速、闇ギルドのドラリル一味に目を付けられたなんて運がないね。あんな美男子が、弱そうな奴隷一人だけを連れて歩いているからだよ」と呟いている。


 そ、そんな世界なのか。役人を呼んでくれる人は誰もいない?見てみぬふりだ。


「な、何か用か」


 や、やばい、本能が叫んでいる、「逃げろ、逃げろ!」と。「お前たちでは敵わない」と。こんなに強そうな敵が三体も現れたら、俺もメルも間違いなく一瞬で倒されるだろう。ヤバイヤバイ。


 しかも、メルが持つスキルは「体術スキル(小)」にすぎない。目の前の三人組に対抗するには到底不十分だ。


 メルはどうにかして俺を守ろうとしているようだが、彼女よりも背が高くて幅広い相手には完全に手が出せないでいる。


「何が目的だ?」


 恐怖心を必死に隠しながら、その不気味な集団に再度問いかけてみた。


 だが...バレバレだろう。全身が震えており、一歩を踏み出すことさえ困難だ。とても...逃げられる状況ではない。震える声と、体から自然と滲み出る汗しか出せない。いや、小便も半分程度漏れてしまっている。


 俺の様子を見て三人とも、口角が上がってニヤニヤ笑っている。怖がって虚勢を張っているのが、堪らないという感じがする。


 悔しい。このまま捕まえられてしまうのか?何が目的なんだ?捕まえられたら、俺たちの運命はどうなる?くそ、何が何だか分からない。でも、少なくともメルだけは、メルだけでも逃がしてあげたい。


「何が目的だ?」


 俺は再び、勇気を振り絞って三人組に尋ねた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 すると、中央の大女が俺に向かって、仮面で覆われていない口元をにやりと歪めた。彼女は周囲の二人よりも一際背が高く、2m30cmはあるだろう。体重も恐らく500kgはあるかと思われる。大げさに言うならば、フットサルのゴールのような体型だ。


 その大女が俺に向かって、「あんたは上玉中の上玉だ!ミスリル金貨50枚に匹敵するよ!そしてなによりも、あんたは傍にいるブサイクを見ても毛嫌いしない。ブサイクな貴族はたいそう喜ぶだろうよ。あんたを夫として得るためなら、どれほどの大金を払ってでも手に入れようとするはずさ!グフグフグフ!」と、俺とメルを交互に見ながら笑い続けた。そして...。


 大女は自分の仮面を取り、姿を現した。体はビッグハムのようだが、顔は地球人である俺にとっては、普通に可愛いOLといったレベルだ。ただし、ビッグハムの体に可愛いOLの顔。違和感が半端ない。


 鑑定によると、ミスリル金貨50枚は日本円で約5億円相当の価値があるらしい。俺に...そんな価値があるというのか?


「凄い男だよ!私の顔を平然と見られるなんて...。こんな男...見たことないよ!さっきの話、もう少し価値が上がるかもね。あんなブサイクな奴隷を平然と傍に連れて歩くんだ。超ド級の変態だよ!グフグフグフ!」


 恐い...。顔と肉体のギャップに恐怖しか感じない。歯はカチカチと鳴り、全身に鳥肌が立つ。これはまずい...意識を失いそうだ。


 しかし...俺に5億円もの価値があるとは?何かの間違いではないだろうか?この世界では、俺はそんなに魅力的なのか?


「お、お、俺が狙いなのか?どうして?こんなにブサイクな俺が、どこがいい男だっていうんだ?」


 そう俺が目の前の三人組に呟いた瞬間...。



 ドォゴゴゴゴゴゴゴゴゴン!!!



 本心を言い放ったつもりだったが、火に油を注いだ様だ。細身の女が俺の胴体に、めり込むような蹴りを放ってきた。


 蹴りが速い!地球では考えられない速さだ。腕で防ぐことも出来ずに、もろに喰らってしまった。


「ウ、ウゲェェェェェェェ~!!」


「ご主人様!」


 メルは必死の形相で俺の元へ駆けよって来た。俺に駆け寄ってくる時間があるのなら、逃げて欲しかったのに...。


 両膝をつき、昨晩と朝食べたものを全て吐き出した。もう...立ち上がる力が、たった一撃で削がれた様だ。


 油断したら気を失ってしまいそうだ。


「ご主人様、どうかお一人で逃げて下さい!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 メルは俺の前に立ちはだかり、逃げるための僅かな隙間を作ろうとした。しかし、俺にはもう...動く力が残っていない。


「おいチャル!あまり痛めつけるな!商品価値が下がるだろう!あ~あ、ポーションを使わざるを得なくしやがって!」


 ビッグハムそっくりの大女は、チャルと呼んだ女に怒声を浴びせた。


「だけど...マリン!この男が!ちょっといい男に生まれたくらいで、調子に乗ってるんだから!」


 何だよマリンって。あの大女の事か?腹が立つぐらい可愛い名前だ。キャラと名前が合っていない。


「ああ、腹が立つよ。だけど、金には代えられねえ。いいさ。あのブサイクをボコボコにして鬱憤を晴らそう!グフグフグフ!」


「そうだな。でも触るのも嫌だし、蹴り殺すか」


 また下品なことを言う。俺からすればお前らの方が触りたくないわ!


「メルすまない。助けてやろうと思ったが、お前だけでも逃げろ!いいかこれは、ご主人様命令だ...!」


 俺は...もっている力を絞り出してメルに命令を下した。さよならだ...メル...。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ