四月十二日(1)
4月12日。その日、僕は世界が終わることを知った。
四月一ニ日(1)
平凡な毎日に、平凡な生活。変わりばえのない毎日に不満はないが、だからと言って充実しているとは言えないと平野 誠は常日頃、思っていた。
「だから、今は将来なにをしたいのか模索している段階なので進路は未定ですというのは駄目かな。」
「いや、駄目だろう。」
人気のない放課後の教室で誠の進路希望の未提出理由を誠の友人、羽山 貴は切り捨てた。
貴は学級委員であるため、クラスで唯一、進路希望を出していない誠に提出するように求めたところ、彼は出さない理由を貴に言い続けているのだ。ちなみに今の未提出理由は17個目。いい加減、誠に怒りをぶつけても可笑しくないのだが、貴は苦笑を浮かべてはいるものの、苛立っている様子は見せていない。
むろん、怒っていないのは彼の性格というのもあるのだろうが、それよりも彼の友人、誠は前々から進路希望調査を嫌がっていたことを知っていたため、出してもらうには時間がかかることは覚悟していたというのが正しいだろう。
それでも、進路希望は全員提出となっているので貴はホームルームが終わって早々、帰ろうとする誠を捕まえて提出してもらおうと頑張っているのだが、誠は書こうとはせず、結局教室は二人だけとなってしまった。
「誠、本当に書くことはなんでもいいんだぞ。なにも書かない、白紙で出すということをしなければ先生はなにも言わないのだから。」
誠達の通う高校、私立法政学園は放任主義というわけではないが、生徒の自主性を尊重するため、生徒のやりたいことを反対することはない。しかし、なにもしないという行為は、認めておらず、今回の進路希望調査などの書類の白紙などは厳しく指導されるのだ。当然このことを誠は認識はしているがそれでも書きたがらないので貴は実のところ、戸惑っていた。
「なあ、誠。どうして書きたがらないんだ?普段のお前らしくないぞ。」
誠は普段は規則を破らない真面目な少年と先生からも評判があったため、今回の誠の行為には先生からも戸惑いの声がでていた。
「僕らしくない・・・か。そうだね。僕もそう思う。」
誠は一息ついて続ける。
「でも、なんでかな。書けないんだ。将来が思い浮かばないとかそういうことじゃない。そう、まるで・・・」
そこまで言って誠は口を閉ざした。
「まるで、どうしたんだ?」
貴は聞き返すが、誠は
「何でもない。」
と応えるだけに終わった。
さすがに言えなかったのだ。
---ありもしない未来を決めることはできない。---
なんて。
言えなかったのだ。
結局、進路希望を書くことは出来ず今日は解散となった。期限は3日後の15日。誠は暗い面持ちで歩いていた。
「いいか、後3日あるんだ。それまでに決めるんだぞ。」
帰り際の貴の言葉を思いだす。
「はぁ。」
ため息をすると幸せは逃げると言うが、出さずにはいられない。
(いけないな。気持ちを切り替えなくちゃ)
明るいことを考えよう。そう決めて顔を上げる。
と、坂の上に誰かいるのに気付いた。
そこにいたのは一人の少女。夕焼けに照らしだされている長い髪は銀色で少女の神秘さを際立たせていた。
だが、それ以上に目をひいたのは、その姿だ。
修道服を着ているところからシスターであるみたいだが(コスプレという可能性もあるが)、少女が背負い込んでいる巨大な十字架(余計に誠はコスプレに思えた。)が彼女の異質さを物語っていた。
「見つけました。」
澄んだ声が彼女から紡がれた。
同時に。
ヒュン
誠は数メートル彼方に吹きとばされた。
「がっ・・・」
誠は何がおきたか分からなかった。
見上げると坂の上の少女は、こちらを淡々と見つめている。
「何を・・・するんだ」
痛む体を起こし、誠は少女を睨む。
「浄化するんです。・・・貴方を。」
少女は淡々と応える。
「浄化?」
誠の問いに少女は、はいと応える。
「私の名はアリエス・シュトレーゼ。来年、3月31日に訪れる終焉の刻。それを防ぐために貴方達、悪魔を浄化するエクソシストです。」
平凡な毎日に、平凡な生活。今まで僕の過ごしていた世界はこの時もって終わりを告げた。