01 転生してしまったらしい。
仕事から帰り、エアコンをつける。
買ってきた菓子パンとペットボトルをテレビの周りに置いて、友人に借りたゲームを起動する。
今回はどんなゲームかな。
就職して社会人になると、これといった人生の楽しみが無くなった。
刺激が欲しかった。
そんな時友人が貸してくれた乙女ゲームにドハマり、そこからは狂ったように休日を乙女ゲームに消費する日々が始まった。
今回友人が貸してくれたゲームは、死を回避しながら学園生活を送る乙女ゲームらしい。
死を回避って事は悪役令嬢とかかな。
わくわくしながらスタートボタンを押す。
でも映像が止まってしまい、始まらない。
…あれ?壊れちゃったのかな?
立ち上がってテレビを二回叩く。
それでも進まないから三回叩く。
それでも進まないからn回叩く。
新しくテレビ画面に表示されたのは“隠しコマンド起動”の文字。
…ん?
その瞬間、画面が光り私は眩しくて目を瞑った。
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目を開けた瞬間、そこは学校だった。
明らかにおかしい。テレビを叩いて転生したとでも言うのか。
短いスカートもこの歳になると恥ずかしくてムズムズしてしまう。
もしかしたら明晰夢?の可能性もあるわけだし、今はJKを堪能するか…。
チャイム音が聞こえて周りが席について来る。私の左隣に誰かが座った。
ピアスゴリゴリ男が現れた。明らかにヤンキーだ。
顔に傷がたくさんあって教卓を睨んでいる。とても怖い。
でも顔はいいな…。
「何ジロジロ見てんの。」
「えっ」
何か言わないと…。
「教科書ないなら見せようかと、思って…。」
「まじ?」
「まじです。」
「じゃあ見せて。」
そんなに睨まれたら見せるしかない。
「顔の怪我大丈夫ですか?」
「こんなん舐めときゃ治るわ。」
「いや舌届かないでしょ。真面目に心配してるんですけど」
思わずツッコミ。
隣の彼が目を丸くしている。
「心配…?俺の…?」
「はい。」
「お前…名前教えろ。」
「明日香。」
「明日香、明日香…スキ」
はい??
「スキ。明日香。」
「いや意味わかんないんですけど」
「なんで?」
「だって私、貴方の名前も知らないし。」
「恭也」
「きょうや…?」
「そう、キョウヤ。どう?」
「どうって…」
「お前は俺の事…捨てないよな?」
ああ夢だからこんな展開が早いのか!
まあ夢だったら何言ってもいいよね!
「うん!捨てない!」
「…!!やっぱり明日香が俺のお姫様なんだ!」
何だか意味わかんないけどどうせ夢だしいっか。
そんなこと言ってた私をぶん殴りたい。
何日経っても覚めない夢。これはもう転生確定だろう。
転生先なんて一つしか思い当たらない。
テレビが光る前にプレイしようとしていた乙女ゲームだろう。
でもヒロインらしき人も悪役令嬢らしき人も攻略対象らしき人もいない。
ほんとに状況がつかめない。
「ねえ明日香。なんでそんなに嫌がるの?」
「だからくっつかれるのはクラスの人に勘違いされるから嫌なの。」
「なんで一緒に帰るのもだめなの?」
「それもクラスの人に勘違いされるから…」
「なあ明日香。」
「ごめん今考え事してるから。」
もしあの乙女ゲームに入っていたとしたら私は死を回避しながら学園生活を送らないといけない。
悪役令嬢だったらヒロインを虐めて国外追放とかだと思うから、極力クラスメイトと仲良くして他人の恋愛には口を挟まなければいいのかな?
「明日香…」
「だから今考え事を…」
グサッ
「え”、」
「かまってくれないなら…俺と一緒に死んで。」
視界が狭まっていく。お腹が熱い、刺された。
意味が分からなかった。
「ねえ明日香。なんでそんなに嫌がるの?」
数分前に聞いた会話が聞こえて目をあける。
そこにはさっき私を刺した男がいて恐怖で声が出なかった。
…死んだ、の?
…殺された?なんで?
“「かまってくれないなら…俺と一緒に死んで。」”
______全て理解した気がした。
私は悪役令嬢ではない。多分ヒロインに転生したんだ。
死を回避って言うのは……このヤンヘラに殺されないように学園生活を送るという事だろう。
そして死んだらやり直し、ってところか。
問題は何回まで死に戻りできるのか。
ライフ無限では流石にないはず。
「明日香?」
「あぁごめん。考え事してたの。くっつくのは最近暑くなってきたでしょう?決してキョウヤのことが嫌いとかではないよ。キョウヤさえ良ければこれからは一緒に帰ろうか。」
「ホントに!?俺も一緒に帰りたいって思ってた!!」
死ななかった。未来が変わったんだ。
隠しコマンドで私はヤンヘラ乙女ゲームに転生してしまったらしい。
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