まさか さかさまの空
秋の深まりと共に空気が澄んできて、空が高い。快晴の日は青空も雲もまぷしくて、とても清々しい。
夜は夜で、瞬く星の光もクリアで強く、月の清冽な光は目を射るほどに眩く神聖に感じられる。
今宵はちょうど半月。上弦の月が晴れ渡った東の空高くに白く、輝き出している。そんな秋空を見て浮かんだ徒然を、書きたいと思う。
魔法のじゅうたんみたいな薄べったいイワシ雲。西の空半分に広がって、遠くの山の向こうからこちらまで、ずうっと、敷き詰められている。
金色クリーム色乳白色灰色そして純白にその縁を光らせて、ところどころに濃く薄く青く、空が覗く。
一見動いてないようなカーペットみたいなのに、実は上空の風はえらく速い。
イワシ雲達は徒党を組んで、どんどんこちらに押し寄せてくる。
時々、斜めにお辞儀するように頭をぐーっと地面に近づけて、上下逆さに空を眺めてみたりする。
足下に広がる白いフワフワした真綿の敷物。抜けて落ちそうな青い大地。
地面が空と雲に取って代わられる。
少し怖いような、空を踏みしめて立つような不思議な感覚になる。
空が地面で 地面が空で。見慣れた景色がまるで違って見える。
青い海原を進む鳥
真綿のじゅうたんの中を突き抜ける飛行機
それは、まっさかさまの風景
上から見ても下から見ても
まさか さかさま まさかさかさま
同じなのに違う 違うのに、同じ
いつも見てるのは 本当の姿? 今いる世界は それが全て?
私の思う正しさや美しさは 誰にとっても美しくて正しい?
鳥の喜びは、森や海の生き物たちの幸せは、人のそれと、同じなの?
飛べない鳥が空を歩き 白い雲を踏む
漆黒に星明りが瞬く海空に
浮かぶ上弦の月の船に 乗り込んで
星屑のように煌めく街灯りを 頭上に仰ぎつつ
ヒトトキ自由な旅をする・・・
そんなファンタジックな物語もいつか書いてみたいものだ、と秋の夜長にふと思った。
見えてるものが全てとは限らない。角度を変えて、視点を変えて眺めてみたなら。全く違う正しさや美しさ、知らず見過ごしてた未知の世界が見えてくるのかもしれない。
裏を表に 表を裏に、丸を四角に影を日向に。色んなものを上下さかさまに眺めてみたら。
思いもよらぬ、まさかの景色がそこにきっと、浮かび上がるのだろう。