ネタ晴らし
「全く、レイラにも困ったものだな。魔力保有量の多い子を産めることが、あの子の唯一の価値だというのに」
ライル子爵が私を連れて屋敷に戻った日の夕食時、父はシャルレーンとリチャード様、それからデニールに向けて言った。
「お義父様。その話は置いておきましょう。デニールも聞いています」
「はっ! 構う物か。それにデニールはシャルレーンになついている。母親の実態を知ったとしても問題あるまい。なぁ、シャルレーン?」
父はシャルレーンに話を振ったが、シャルレーンは黙ったまま返事をしない。いつもなら、父に同調し、『そうですね、あなた』とか気持ちの悪い台詞を言うのに。
「シャルレーン? どうした? 体調でも悪いのか? もしそうなら――」
「――もういいのかい?」
シャルレーンを心配する父を遮り、リチャードが言った。
「リチャード君? 何を言って――」
「――ええ、そうね。もういいわ」
父の言葉を遮って私は偽装の魔法を解除して答える。
「………………は??? レイラ?? え?? シャルレーンは??」
「今日のやり取りで、あの方の運命は決まったわ。まぁ、運が良ければ、伯爵家の時のように解放されるんじゃない? 流石にちょっと疲れてきたし、早く解放されるといいわね」
「いやいや。3年近く偽装と操作の魔法をかけ使い続けて、『ちょっと疲れた』程度なのはおかしいから」
「あはは。魔力保有量が多いおかげね。お母様に感謝しなきゃ」
「な……な……な……」
父が信じられないという眼で私を見ながら、なんとか言葉を絞り出す。
「レイラ……なのか??」
「ええ、そうです。貴方の娘のレイラですよ」
そうはっきりと伝えたのだが、父はまだ信じられないようで、私とシャルレーンが出て行った扉を交互に見ている。
「そんな……だが、レイラは……ライル子爵と共に……」
「ああ。それは貴方の妻のシャルレーンですね。私が魔法で束縛し、私の見た目に変化させて、私のようにふるまう事を強制していますが。ふふ」
(ようやく! ようやくネタ晴らしが出来る!)
この日を3年も待ったのだ。私は楽しくて仕方がなかった。はしたないと分かっていつつも、笑みを止める事が出来ない。
「そんな……そんなことが……。――っ! まて! まてまてまて!! いつからだ!? いつからお前はシャルレーンと入れ替わっていた!?」
「ふふ。ふふふふ」
意外と父は頭の回転が速かった。すぐにそのことに気付くとはやるではないか。
「そんな……まさか……サイクス伯爵家やライル子爵家の子を産んだのは」
「ええ。そのまさかです。両家の為に愛する妻を差し出されるとは。流石お父様です。まあ、お義母様は愛するお父様に、2回も見放されて発狂寸前でしたけど」
操っている間のシャルレーンの心の声を私は聞く事が出来る。シャルレーンはずっと助けを求めていた。特に、1年前や今日、父の前に私としてきた時は、一瞬魔法が解けかけるほど、力強く父に助けを求めたのだ。まぁ、その心の声が、父に届く事はなかったが。
(お母様は最後の望みすら聞いてもらえなかったのだもの。私にシャルレーンの声を伝える義理なんてないわ)
「そんな……そんな事……」
「大丈夫ですよ。ライル子爵家のガジル様はお義母様を大層気に入られたようです。ちょうど今、寝室に向かわれていますよ。こんな時間からお盛んな事です。これなら、今度もまた元気な男の子を産んでくれますわ」
(まぁ、魔力保有量が多い子が産まれる可能性は低いでしょうけど)
伯爵家に魔力保有量の多い子が産まれたのは、本当に偶然だ。次にシャルレーンが魔力保有量の多い子を産めるのはいつになるやら。
「そ、そんな……すぐに……すぐに助けに行かないと!!」
「無駄ですよ? ライル子爵家の皆さんにとってシャルレーンは私にしか見えません。お父様が何を言ったところで、信じてもらえないでしょう。お父様がおかしくなったと思われるのが、関の山です」
「お、お前……お前なぜ、こんな事を! リチャード! お前も共犯か!!」
「当然でしょう。どこの世界に自分の妻を他人に抱かせたいと思う者がいるというのですか?」
まさに今、父は自分の妻を他人に抱かせているわけだがどんな心情なのだろうか。
(知りたくもないけど、絶望していてくれたら嬉しいな)
「ふ、ふざけるな!! ああ、シャルレーン……くそ! くっそぉぉおお!!」
どうやらちゃんと絶望してくれているようだ。
「ふふふ。お父様が私にしようとしていた仕打ちを、お義母様が受けているのです。自業自得、というほかないですね」
「全くだ。危うく、俺がこうなっていたかもしれないと思うと、ぞっとするよ。ガジルには感謝しないとね」
その後、父はライル子爵家を訪れて、シャルレーンを帰してくれと懇願したらしいが、案の定、相手にされなかったらしい。シャルレーンは、父が来たことに喜んだものの、ライル子爵達が追い返したことで、諦めてしまったらしい。その後、心の声が聞こえてくることは、ほとんどなかった。
追い返されてきた父も、その日から生きる気力を失ったのか、部屋にこもりがちの生活を送っている。家の実権も、大半はリチャード様が掌握しているし、もはや父に出来る事はなにもないだろう。
「それで? これで君は満足したのかい?」
リチャード様がデニールを寝かしつけ終わった私に聞いた。
「満足……はしておりません。リーンやガジル、ワンダ達にも恨みはありますし、何よりこんな計画に賛同したお義父様達を許す気にはなれません。ですが……」
「デニールかい?」
「……ええ」
確かに、私の中に、彼らへの憎しみは残っている。だが、それよりもデニールへの愛情の方がはるかに大きいのだ。そして、リチャード様への愛情も。
「なら、今はデニールの為に生きよう。君が憎しみを抑えきれなくなったときは、俺も協力するからさ」
「…………ええ。ありがとう」
「どういたしまして」
私の中の憎しみが消えてくれるのか、それとも抑えきれなくなるほど大きくなってしまうのかは、まだわからない。ただ、今は、この愛しい人と愛しい子と共に暮らしたい。
そう思うのだった。
その日の夜。
「ところでさ。もういいよね?」
「? なにがでしょう?」
「いや、昨日までは君が妊娠したらまずいから控えてたけど、もういいよね? そろそろデニールも弟か妹を欲しいだろうし?」
「あ…………そ、そうですね。はい、良いんじゃないでしょうか…………」
「ふふふ。それじゃ――」
「――!!!」
愛しい子が1人ではなくなり、彼らへの憎しみなどどうでもよくなるのは、そう遠くない未来の話。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。父の自業自得な話、いかがでしたでしょうか?
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それでは、また次回作でお会いしましょう! さよなら!