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騎士への道

 やがて夏休みの期間が終わり、俺たちはシディンの軍務学校にいた。

 スクトゥム森林の糸脈活性化は沈静し、その後の調査で凶化した変異体の数が少なく森林内で餌を食い尽くして暴走するには至らないと判断された。魔導を得た個体は存在するが、冒険者たちの協力を得て継続的に対策をする形となり、剛獣狩りは中止となったが冒険者たちは大きな成果の代わりに継続的な稼ぎ口ができて、多少の不満を口にする者がいたくらいで収まった。

そういう訳で、俺たちは夏休みの半ばまで村で訓練と調査をしながら過ごした。そして剛獣狩り中止の結果を受けた学校に呼び出され、夏休みが終わる1週間前にシディンへと戻ったのだ。

 それから少しばかり忙しい日々を過ごした。

 未知の剛獣を発見した俺たちは冒険者ギルドや国営の研究機関に呼び出され、森林での出来事を根掘り葉掘り聞きだされて過ごした。そのついでと言っては何だが、あのナマケモノのような剛獣と蔓草の剛獣については冒険者ギルドで詳しく調べてもらってもいた。

「ギルさん、明日からは学校ですね。」

 その冒険者ギルドで、俺は窓口を担当している壮年の女性に呼び止められた。

 シディン冒険者ギルドライクハート支所の職員で、名前はオディールさん。ふくよかな外見ながら手を見ると日々の苦労が表れており、それでいて癖の強い冒険者たちの相手をするときも厄介な依頼主を言い聞かせるときも柔和な、芯の強い人だ。

 彼女につけられたあだ名は本人には言い難いものなのだが、しかし俺たちはそれが似合っていると思っている。


「昇格ですか。」

「はい。ギルさんの今までの成果と今回の剛獣調査での功績を踏まえ、困難な状況下でも依頼を遂行する能力があると認められました。おめでとうございます。他の皆さんも、それぞれ昇格になっています。」

「おぉ、やったぜ!それで、俺たちはどの階級になるんだ?」

 オディールさんの用件は、俺たちのギルドにおける階級の話だった。ミックが喜んで聞き返し、一緒にいた面々だけでなくギルドにいた他の冒険者たちも俺たちを見る。

 冒険者ギルドは大空世界全ての圏域に設置された冒険者の互助組織で、各圏域のそれぞれの国ごとに組織される冒険者ギルドを連盟がまとめる形で、超圏域組織としての影響力を有している。

 そういう組織なので、冒険者の格付けにも全ての圏域に共通の基準が用いられている。

 共通の基準を用いることで、どこの圏域のどこの冒険者ギルドでもだいたい期待に添えられる人材に依頼できるようになっているわけだ。

「新しい徽章はこちらにあります。ええと、ミックさんは第四位剣印です。」

「2階級昇格!?やったぜ。これで上から5番目か。」

「僕は第五位。ミックもギルもあの剛獣との戦いを潜り抜けたんだから、仕方ないかな。」

 ミックとニールが手渡された徽章を受け取り、襟の徽章と交換する。他の面々も受け取って、俺にも順番が回ってきた。

「俺は第四位杖印か。第四位はともかく、杖印は…。」

 受け取った徽章に刻まれた杖の印に口籠ると、

「適正でござる。」

 シゲが短く言い切る。他の面々もシゲと同じ意見の様子で、セシリィに至っては、

「謙遜も過ぎると嫌味よ?」

などと呆れ顔になる始末だ。

「そう言われても、俺の判断は間違いばかりだったぞ。」

 みんなの意見に押されて反論の勢いが弱くなったが、これは俺の本心だ。

 ミックやシゲの剣印は近接戦闘能力の高さ、アルテの葉印は精霊術法、他にも様々な印があって、格付けに加えて得意分野を示すことで依頼者が判断しやすい仕組みになっている。

 そして杖印はチームの指揮と状況判断の適切さに優れるという評価を意味する。あの時の俺の指示や判断がこの印に相応しいとは思えないのだが。

「みんな、俺が言ったとおりだろ。俺たちで報告をきちんとしておいて正解だったぜ。」

 ミックの得意げな様子で自慢して、俺に杖印がつけられた理由がはっきりした。

「おいミック、それはまずいだろう?」

 思わず食ってかかるが、すぐにオディールさんに止められる。

「ギルさん、ギルドの評価は皆さんからの聴き取りで左右できるような甘いものではありませんから、安心して受け取ってください。きちんと調査をした上での評価です。」

「オディールさん、そう言われても…。」

「調査をした上での評価です。」

 念押しされてしまった。付け加えるなら笑顔の圧が怖い。

「わかりました。」

 俺が項垂れつつ徽章を付け替えると、ギルドの中から忍び笑いが聞こえる。

「おっかさんに楯突くなんて10年早いよ。」

 冒険者の一人が聞えよがしに言ってきたが、俺は周りには反応しないように努めて顔を上げた。この手の揶揄いにいちいち反応していたら、相手を面白がらせるだけだ。

(学校で嫌がらせに反抗せず耐えていた経験がこんなところで生きるとは思わなかったな。)

 そんなことを考えつつオディールさんには、

「昇格の件、確かに承知しました。ありがとうございます。」

頭を下げてお礼をする。

 自己評価と周りからの評価が食い違うなんてよくあることだし、自己評価だけにこだわるのは我儘と言うものだ。周りからの評価が高すぎると感じるなら、それは期待されていると考えて自分を向上させる指針に使うのが建設的な考えだろう。

 幸いなことに俺には直樹の頃の経験もあって、褒め殺しに乗せられるほど未熟でもない。

(杖印は素直に受け取り、その価値に見合う自分になるよう、がんばろう。)

 俺は指先で襟の徽章に触れると、気持ちを新たにして仲間たちに向き直った。

 だが後日、俺は自分への評価に再び驚く羽目になった。


「ギルバート・オースデイル君に銀剣勲章を授与する。これからも励みなさい。」

 夏休み明けの全校生徒が集まる始業式の最中に仲間たちと一緒に壇上に呼び出され、特別遠征の成果を読み上げられてからのこの言葉。

 俺は呆然として目の前にいる人物、シディン王立軍務学校学長、フェリクス・オッターバーン侯爵の顔をまじまじと見つめた。白髪と白い顎髭が年齢を感じさせるが、丸みのある温和な顔に悪戯好きな印象の微笑みを浮かべている。

(銀剣勲章だって?いや、そういうことは事前の内示があるものだろ?)

「ギルバート君。」

 改めて名前を呼ばれ我に返り、俺は儀礼の通りにお辞儀をしてから

「謹んで拝受いたします。」

 恭しく両手を差し出す。手の上に置かれた小さい見た目以上にずっしりと重い勲章には、黒い台座に剣と、それを円形に囲む枝葉の精緻な銀の彫金がはめ込まれている。

 銀剣勲章は軍務学校でも成績が優秀かつ高い成果を出した生徒に授与されるもので、例えば卒業試験での実戦形式の試合で3位になった者に与えられる。卒業試験ではご褒美的な意味があるからこそ3位で授与されるのであって、在学中においては事実上最高位の勲章だ。

「これからも学業と鍛錬に励み、シディン王国の軍人としてこの国のみならず、ラテニア圏域に貢献できる人材となってくれると、期待していますよ。」

 学長の言葉に俺は表情を引き締めた。

 在学中の銀剣勲章授与は、もう一つ大きな意味があるのだ。

「ご期待に応えられるよう、そしてこの勲章に恥じぬよう研鑽に励みます。」

 俺はその意味を噛みしめながら学長に決意を示し、壇上で並ぶ仲間の列へと戻った。

「騎兵学科第三学年、セシリィ・ハワード。」

「…はい。」

 セシリィが呼ばれ、返事をして学長の前へ進み出る。

 今壇上に並んでいるのは俺とセシリィ、ミック、ヒューイ、シゲ、アルテ。要は、あの蔓草と戦った三学年全員だ。

(騎士、か。)

 軍務学校は軍という組織の中でも重要な役目を果たす人材の育成を目的としている。その中からさらに中核的な役割を担う人材が選別され、上級科目の履修が許可される仕組みだ。その選別の目安になるのが、在学中での勲章獲得。

 銀剣勲章、銅剣勲章、そしてその下の鉄剣勲章。これらを得た数と選別の可能性はほぼ比例していて、銀剣勲章はそれ1つで選別の理由となるらしい。

 騎兵学科から選別されると騎兵として学ぶ内容に加えて、軍団の指揮や上位の戦闘技術などを学ぶ騎士科目を履修可能になる。

 そしてこれが実力で律奏騎士となるには一番の近道だと、幼い頃にジョセフさんに教えられた。

「セシリィ・ハワード君に銅剣勲章を授与する。お父上を見習い、これからも励みなさい。」

 セシリィは銅剣だ。そしてヒューイとミックは鉄剣、シゲとアルテはセシリィと同じく銅剣勲章を授与された。授賞されて壇上から降りる仲間たちは誇らしげにしているが、学生たちの列に戻ると同じ騎兵学科のセシリィは複雑な表情で俺を見てから、ふいっと顔をそむけた。ヒューイが苦笑して目配せをしてくる。

 それから七学年生までの勲章授与が行われたが、三学年で勲章を受けたのは俺たち以外に5人。その中で銅剣勲章を授与されたのはワイマーと彼とチームを組んでいるエレナ・マーブレンだけで、他の3人は鉄剣だった。


「ギルバート・オースデイル君、銀剣勲章授与おめでとう。」

 始業式を終えてそれぞれの教室へと向かう俺を慇懃無礼な態度で呼び止めたのは、やはりと言うべきか、ワイマー・シアボルトだ。

 彼と冒険者としてチームを組んでいる学生たちも勢揃いで俺を待ち構えていて、俺が立ち止まるとミックたちも横に並び、互いのチームは険しい視線を交わした。

「ありがとうワイマー。君も銅剣勲章おめでとう。しかしフルネームは大袈裟だよ。いつものように呼んでくれ。」

 俺が礼を返してワイマーの授章を讃えると、ワイマーは眉を寄せて顎を上げ、鼻先から俺を見下ろした。

「いやいや、さすがは銀剣。寛大な態度は余裕の表れのようだね。ミック、ヒューイ、それからニール。君たちはどう思う?」

 ワイマーは俺を露骨に挑発してから友人たちに話を振る。壇上に上がった仲間の中で鉄剣勲章だった2人と勲章がなかったニールを狙うあたり、嫌味な気性は相変わらずか。

 しかし、俺は軽蔑を顕わにして俺たちを嘲るワイマーより、彼のチームの後ろから俺たちの様子を見つめている女生徒、エレナ・マーブレンの方が気になった。城塞国家マーブレンの王女に相応しい優雅で艶然とも言える笑みを浮かべているが、まるでこちらの隙を探るような眼だ。

「下らねぇぜ。ギルは俺たちのリーダーとして銀剣に相応しい仕事をしたんだ。実際にあの場に居れば誰の目にも明らかだぜ。」

 ミックの反論はワイマーにも想定内らしく、彼は表情を変えずにヒューイを見る。

 ヒューイは一瞬、セシリィと視線を交わした。セシリィが小首を傾げて彼を見返す。

 そして、それまで学校で見せていた弱気な態度とは打って変わった堂々とした姿勢で一歩進み、ワイマーに対峙した。

「ワイマーは騎士に相応しい剣術の使い手だけど、ギルは騎士に相応しい人格も備えている。だから銀剣なんだ。ギルドでの評価は第四位杖印。この意味も考えてみるといい。」

 ワイマーが目を剥いて驚きを顕わにし、俺に視線を走らせる。俺は全く動じずにヒューイに任せていたから彼は慌てて口を開こうとしたが、ヒューイが機先を制して畳みかけた。

「僕はハワード家に雇われセシリィお嬢様の護衛としてこの学校に入学してきた。だけど立場の都合があったから、僕はお嬢様との関係と実力を隠す必要があった。わかるかいワイマー。君は僕の実力を見抜けなかったんだよ。」

 予想外の反撃に加えて自身の眼力への批判を受け、ワイマーが半歩後退る。その機を逃さずにヒューイが暗青色の煌めきを走らせると、彼とチームの何人かは驚愕に顔を引きつらせ、エレナは意外そうな様子で眉を上げた。

「そして、特別遠征で共に戦い、ギルの技量とリーダーとしての資質は信頼するに値すると確信したんだ。ギル、僕は君という友人を得られて嬉しいよ。君のおかげで僕は、お嬢様のために全力を尽くせる。」

 そう締めくくると、ヒューイは俺に右手を差し出した。

 味方が少ないセシリィを守るため、彼は自分とセシリィとの関わりも隠して陰から彼女を守り続けてきた。ヒューイは有能だが守りに徹していたのではできることは限られる。きっと入学してからの2年以上の間、彼は色々なことに耐えてきたのだろう。

 しかしこの遠征でセシリィが俺たちと打ち解けて味方を得て、彼にとってもセシリィにとっても目標へと近付くための契機となった。ヒューイの豹変はそういう意味だ。

 彼の気持ちには応えなければならない。俺は迷わず差し出された手を握り返す。

「ヒューイ、君は調査の間、いや、遠征の中でもずっと仲間を支えてくれた。その君が友人と認めてくれて、俺も嬉しいよ。これからもよろしく頼む。」

 固く手を握り合わせた俺たちに、しかし涼やかな声がかけられた。

「守護騎士殿は精霊姫に加えて黒豹の子と有能な手駒を揃えたわね。確かハワード家の領地は南の国境に近いグンナダム村。ハーデン伯爵の属領だったかしら。西はスクトゥム、南はグンナダム。シディンの守りは益々強固となって、素晴らしいことだわ。」

 エレナだ。

 堂々とした態度にワイマーたちも落ち着きを取り戻す。

「私の国、城塞国家マーブレンは港湾国家シディンと共に聖王国カナベルを守護する都市国家連合の要。実力ある人材が育つことは両国にとって喜ばしいこと。ねぇギルバート・オースデイル、私たちは共に助け合う立場なのですから、仲良くしていきましょうね。」

 涼やかな声で語られる耳あたりの良い言葉。しかしその声音の端々に含まれた刺々しさに、俺は平静な表情をかろうじて保った。

 都市国家連合最強の軍備を誇る城塞国家マーブレン。その第三王女の言葉には、相応の重みがあった。この2国の関係について彼女が言ったことは事実だ。そして学生たちの事情についてもよく把握している。

 彼女は俺とセシリィ、ヒューイが接近したことに対し、自分との関係が国同士の関係に繋がるのだと仄めかしてきた。その狙いはおそらく、俺たちが彼女の意向に背かないよう釘を刺すことだ。

「エレナはアウスタル都市国家連合全体の動向を考えているんだな。素晴らしいよ。俺たちはシディン王立軍務学校の学生だから、ついシディンを中心とした見方に偏りがちだ。しかし都市国家連合全体としては他の国々との関わりを考えなければならない。君と考えを補い合えるなら、きっとみんなにとって有益なものになるだろう。」

 外交的な笑みを作るのは緊張したが、俺はエレナの一刺しに対して彼女の考えを評価する形で話を逸らし、協調する方向性を示しつつ彼女の発言に欠けていた部分を突いた。

 彼女が俺たちに圧をかけてきたやり口なら、この言い方でも俺の狙いは伝わるだろう。

(お前だってこの学校の生徒だ。マーブレンはアウスタル都市国家連合の一員だ。忘れるな。)

 艶然とした微笑みを浮かべたままエレナは優雅に右手で口元を覆う。視線に冷たい気配が混じり、俺は身構えようとする自分を抑え込んだ。

「ギルバートは連合が置かれた立場をよく理解しているのね。ラテニアの中でもアウスタル都市国家連合は強国とは言えない立場。大空世界全体ともなれば尚更。ねぇ、ギルと呼んでもよろしいかしら。私たちは手を取り合って、力を合わせて外に示していくべきではなくて。」

(その力をどこに向けるかを決めるのは、誰のつもりだ?)

 親しげな雰囲気で一歩歩み寄ったエレナに、俺は毅然とした笑みを保ちながらも身を固くした。

(エレナはマーブレンがその立場に立つべきだと確信している。)

 俺は彼女の振る舞いから直感的に彼女の目的を察した。そしてそのために彼女が何をしようとしているのか。いや、その目的のためにどこまでの言動を自分に許しているのか。

 彼女が語った言葉の底に潜む不穏さに、その答えがうっすらと感じられたからだ。

「それは素晴らしい提案だ。俺はスクトゥムの生まれとして、力は人々を守るために必要最小限に示すものと弁えている。それは城塞国家マーブレンも同じだと思うし、アウスタル都市国家連合の中でもこの学校の中でも共通している理念のはずだ。守りたいものがあるのは、誰であっても何処であっても変わりはないからな。」

 彼女がいかにして力を示すと考えているのか。

 俺の直感は、俺たちにとって好ましくない答えを示している。しかし、一国の王族である彼女への期待から勘違いであってほしいと思い、それを確かめるため敢えて虎の尾を踏んでみせた。

(攻めるために力を欲しているなら、守るために力を律する考えは許容できないはずだ。)

 彼女の目がすっと細くなり、口の端が吊り上がる。付き合いは浅いが、これだけ鋭く睨みつけられればはっきりとわかる。

 他の生徒たちとは一線を画する有名人の彼女が初めて見せた、明らかな敵意。

「ギル、あなたはとても素晴らしいわね。守護騎士に相応しいわ。あなたの理想が実現したら、きっとアウスタル都市国家連合は安泰でしょう。」

 俺の試しに優雅な仕草で答え、エレナは偶々手首の内側に着けた時計が目に入ったかのように嘆息した。

「あぁ、もうこんな時間なのね。今日は予定があるのが残念。ねぇギル、あなたとは本当に仲良くしたいわ。これからもよろしくね。」

 俺の表情を冷徹な瞳で観察しながらエレナは告げて、さっと踵を返して去っていく。ワイマーたちも彼女についていった。


「なんだありゃ。感じ悪いな。」

 貴族同士のやり取りが苦手で口数を控えていたミックが、エレナたちの姿が見えなくなるや悪態をついた。

「隣国の王女様は一癖も二癖もあると聞いていたけれど、噂は本当ね。」

「僕のことまで把握しているなんて、侮れない相手だよ。お嬢、その手の噂も気を付けた方がいい。」

「ヒューイ、私が勘違いしているっていうの?」

「違うよ。ただ彼女なら、そういう噂を流れるままにして邪魔になる相手を炙り出すくらいはやりそうだ。」

「うっわ、めんどくせぇな。できれば関わりたくねえぜ。」

 セシリィとヒューイのやり取りをミックが言いきって止めて、2人は苦笑いをしながら頷いた。

「私も関わりたくありませんよ。けれど…あの様子なら、あちらから関わってきますよ。」

 ワイマーが声をかけてきたときから不思議と黙り込んでいたアルテが小声で口を挟んできて、その珍しく神妙な口調に俺たちは揃って彼女を見た。

「アルテ、それは…」

「口止めされていることですけど、スクトゥム村で会ったあの2人。あの人たち、マーブレンの人なんですよ。」

 俺の問いかけを遮って続いたアルテの言葉は、予想以上に衝撃的な内容だった。彼女の口ぶりからすると「あの2人」というのは、カーチスの結婚式で嫌がらせを仕込んできた貴族2人のことだろう。

 となれば、あの事件の意味も大きく変わってくる。

「おい、それってエレナとあいもがっ?」

「声が大きいよミック。」

 ヒューイがミックの口を素早く塞いだ。しかし彼がミックと目を合わせて頷く様子と険しい表情を見ればミックと同じ考えだと明らかだ。ヒューイの肩に手を置いてミックを自由にさせたセシリィが俺を正面に見て不敵な笑みを浮かべた。

「私たちの目的を果たすには、思っていたよりも大きな困難が待ち構えているようね。」

 その堂々とした表情と態度に俺は自分の動揺を恥じた。そうだ、何一つ臆する必要はない。

 そう思い直して仲間たちの顔を見回すと、皆が俺を見返してくる。

「俺も同感だよ。だけどみんながいる。俺は騎士になってスクトゥムに帰る。それは絶対に果たす。みんなもそれぞれの目標があって、それは果たされる。どんな障害だって乗り越えられる。なぜなら、俺たちは仲間だからだ。」

 俺が告げ、仲間たちは力強く頷いた。

 彼らと一緒なら、どんな障害があっても俺は前に進める。

 確かな信頼感と共に俺は、改めて決意した。

 俺は必ず騎士になる。

 父の後を継ぎ、シディンの守護騎士、クレストスになるんだ。

次回から閑話を3回、水・金・日の週3回更新で挟みます。そうすると7月末に100話になって章の区切りにちょうど良いので。

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