表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/224

同郷対決

 訓練場の中央でミックと向かい合う。

 そう言えば、いつもニールを含めて3人だったし、最近はシゲやスミカもいるから、一対一でやり合うのは珍しいな。

 昔からの付き合いが思い出され懐かしさを感じながら、お互いの剣先を合わせた。

 俺は片手剣と脛まで届く大盾。ミックは片手剣だ。2人とも予備の武器として腰に短剣を備えている。

 アルカンスロボスで真剣にやり合うのは初めてだ。だが、礼をして構えた姿にはやはりいつものミックがいた。

「始め!」

 号令と同時にミックが走る。俺から見て右。盾が無い側へと回りながら剣を振り下ろしてきた。右足を引いて騎体を回し大盾で防ぐが、ミックの攻撃は止まらない。

 連続して振り下ろされる剣を凌ぎながら右へ右へと走るミックを正面に捉え続けると、ミックは痺れを切らしたように強い踏み込みで剣を振り、俺たちは剣を合わせて足を止めた。

 相手の力を逸らそうと押し合いながら、

「お手本は止めるんだろ。」

ミックが言う。

「準備体操をしていただけさ。」

 言い返してから俺は身体を沈めた。互いの騎体の間に挟んだ盾をミックに押し付け、

 ズドン!

爆発じみた音を立て、地面を蹴り抜く。

 身体の重さを重心操作で威力に変える技、伏足絶歩だ。

 重いローラーで均された土に足がめり込み、その反動を逃さず大盾に伝えてミックに叩きつける。装甲込みで500kgを超えるロボスが軽々と吹っ飛ぶが、それはミックが自分から飛んだからだ。

 地面を抉り足を滑らせ着地したミックは、爆音一つで真横に走り切り返してから突っ込んでくる。

 勢いに押されたら負ける。前に出ろ!

 地面を次々と蹴り砕き俺はミックに迫る。剛獣狩りで父さんたちが見せた、騎体の重さと膂力を駆使する走りで、それまでの訓練とは比較にならない速さで間合いを詰めた。

 律奏機は騎体を動かす法術の働きで重量が軽減される。だが質量は軽減されないため足が滑りやすく、動き方に慣れが必要になる。

 そして、その法術までもコントロールして騎体本来の脚力で走るやり方があって、父さんたちは当たり前にそれを使いこなしていた。

 ジョセフさんの教えで身体の重さを速さや威力に変える技を学んだ俺たちは、アルカンスロボスの身体でも同じ技を使えるように試した結果、この走り方を見つけ出したのだ。

 俺たちの速さは同期の誰よりも激しく鋭く、その勢いのままに互いの剣を打ち合わせる。打ち合わせてから即座に間合いを離したミックがひときわ大きく地面を砕いて俺の右へと消える。

 八足断歩。

 俺たちがジョセフさんからから習った技の一つ。自身の重さと重心の操作で加速する、走るというより地に沿って跳ぶと言う方が相応しい、一気に遠い間合いを踏み込む技術だ。

 加速したミックは一気に俺の右後ろまで達しこちらを向きつつ剣を振るう。普通なら騎体を回して向き合うのも難しい。だが、

 ダダダン!

 俺は立て続けに地面を蹴る。

 敢えて前に出てから小刻な足捌きで右に転じ、ミックの背後を駆け抜けた。背中合わせになった俺を追って剣が大盾を叩いたが、苦し紛れに振っただけの一撃では重い盾を揺らすこともできない。

 そのまま身体を回してミックの背後を取り、剣を振り下ろした。

 轟音を立て前に跳び、俺の一撃を躱すミック。

「くっそ。ロボスだとギルのそれは厄介だな。」

 ミックが体勢を整え構えながら言った。

 俺も向き直って大盾を前に構える。

「カーチスに何度も転がされた甲斐があったよ。」

 小刻みな足捌きは子供の頃、剛獣狩りの後もカーチスに手合わせを頼み込んで学んだ技だ。

 彼が乗るアルクストゥルスは射撃支援用の律奏騎兵で、巨大な弓を装備している。にも関わらず器用に剛獣の攻撃を凌いでいた彼の動きは重い盾を持つクレストスに、つまり俺にも必要になると直感的に感じ取っていたのだ。

 アルカンスロボスに乗るようになり大盾を使ってみて、俺はあの直感が正しかったと確信した。

 律奏機の膂力と盾の重さまで駆使し、小さく続けて放つ八足断歩。この技で俺はミックの様な遠間からの突進力ではなく、間近での瞬間的な早さを身に付けたのだ。

 ジリジリと詰める俺に対して、ミックは後退り間合いを保つ。

 近間では盾も早さもある俺が有利だ。ミックの突進は初撃を凌がれると確実性に欠ける。知らない相手なら不意をつける速さはあるが、俺相手には通用しない。

 ミックもそれは承知だろう。

 しばらく俺の周りを動いて牽制していたミックは、俺に隙が無いとわかると足を止めて構えを変えた。

 僅かな違いだ。俺やニールでなければわからない。

「ギル、気ぃ抜くなよ。」

 ミックが忠告を発してから、地を蹴った。

 一歩で間合いを詰めて俺の左に入り込む。今までの逆か。だがその程度で動じるはずもない。

 大盾を掲げて左を向く。騎体を低くしたミックが盾の陰に入った瞬間に、土煙が爆ぜてロボスが消えた。構えた大盾に衝撃。奇妙な感触に次いで腹に衝撃が走る。

 俺の懐を左から右へ駆け抜けながら剣で突いたミックは、地面に溝を掘りながら振り向いて停止した。

「ちっくしょう!浅かった!」

 ミックが悔しさを滲ませて叫ぶ。

(八足断歩を曲げやがった。)

 俺は剣先に裂かれた腹の装甲を右手で確かめながら、今起きたことを思い返して戦慄した。

 八歩の間合いを瞬時に詰める八足断歩はその速さ故に直線的だ。俺はこの技の体幹の動きを変えることで小さく続けて使うが、そうすると遠間まで跳ぶほどの加速は得られない。

 だが、ミックは八足断歩の速さと距離をそのままに途中から地面を蹴って移動方向を大きく変えた。その上あいつは俺の大盾に打ち込んだ剣を巧みに操り、俺が大盾で剣を防いだ反動を自身の速さと合わせて突きに転じたのだ。

 違和感を感じて咄嗟に大盾の握りを緩めていなければ、あいつの剣は装甲を貫いただろう。

「器用な真似をするじゃないか。スミカに投げ飛ばされていた甲斐があったな。」

 相手の力を使う巧みさはスミカの技だ。ミックはチューターとしてスミカと共に新入生の指導をしていて、最近は一緒に訓練をしている姿もよく見かける。

 大盾に感じた奇妙な感覚も、彼女の魔法のような技と似ていた。俺自身が彼女に散々投げ飛ばされていなければ感じ取れなかっただろう。

「今ので決まると思ったんだけどな。ギルには見切られるか。」

 楽しげな声と共にミックが再び構えた。すかさず爆音と共に間合いを詰めてくる。

 俺は守りを捨てて大盾を騎体の横に構え、身体を開いた。ミックの動きを視界に捉えるためだ。

 今度はまっすぐきた。

 懐に飛び込んできたミックは大盾を剣の柄で押さえ騎体を密着させて足を踏み締める。やばい。伏足絶歩だ。

 密着状態からの強烈な体当てで、今度は俺が飛ばされる番になった。

 自分から後ろに跳んだが大盾を押さえられていたため威力を逃せず、ロボスの騎体が高く舞う。体がバラバラになりそうな衝撃に歯を食いしばり、受け身を取って地面を転がって立ち上がった。

 これだけのダメージを感じたということは、ロボスの騎体にも相当な損傷があったはずだ。

 だが、立てるならまだ戦える。父さんもそうしていた。

「まだまだ行くぜ!」

 俺が構えると同時にミックの突撃。以前は速さに惑わされず対応してしまえば済んだが、今のミックはその対応を見て軌道を変える。

 先の先と後の先を束にして飛びかかってくるようなものだ。

 左右へ、または正面からそのまま、常に3択を強いる突撃に俺は翻弄され防御を強いられ続けた。大盾がなかったら防ぎきれなかっただろう。

 しかし何度目かの突撃を大盾で受けた直後、俺は足を滑らせ姿勢を崩した。なんとか膝をついて持ち堪えると、その膝が柔らかく土にめり込む。

 そこでようやく、俺は自分の不利に気づいた。

 俺は何度もミックの突撃を受け、ほとんど同じ場所で防ぎ続けていた。あいつの猛攻に大きく動くことができなかったからだ。

 結果として足元の地面はアルカンスロボスの重さを支えられないくらいに踏み荒らされ、俺は足を滑らせてしまったのだ。

 対するミックは、俺の周りに突撃の速さを生み出すための固い地面を残している。

「よっしゃ!狙い通りだぜ!」

 地面を蹴り砕き、ミックの騎体が俺に迫る。今から立ち上がる余裕は無い。俺は膝をついた姿勢のまま大盾を斜めに構えた。

(体術は使えない。剣にかけるしかない。引きつけろ!)

 動きではミックが圧倒的に有利だ。俺は、一瞬の直感で剣にかけると決断した。

 覚悟を決め、意識を集中する。

 幼い頃のあの修行の日々が脳裏を駆け抜ける。

 師匠から、ラテニア最強の聖騎士ラドワンから厳しく繰り返して教えられた型の中から、最初に学んだそれが自然と浮かび上がった。

 剣を上げて、振り下ろす。

 ただの素振りだ。

 だが、その単純な動作はミックが繰り出した突きの切っ先を柔らかく逸らし、彼の剣と刃を触れ合わせたまま意識することなく巻き込んだ。俺は素振りの通りに剣を振っただけだったが実際の剣の軌跡はミックの力と混じり合いながら精妙に流れて体勢を崩しつつも横を駆け抜けるロボスの脇腹を抉る。

 浅い。

 装甲の硬さを断ち切れなかった手応えが残り、俺は膝立ちのまま騎体の向きを変えた。見ればミックは突進の勢いで地面を転がり、左手をついて止まったところだ。

 素早く立ち上がり、踏み崩されていない地面へと移動する。ミックもそれに合わせて立ち上がって走る。

 走ろうとした。

 迎え打とうとした俺の前方でガクンと、唐突にロボスの膝が折れた。

「なんだ?!おい!どうした?」

 ミックが動揺して叫ぶが、ロボスは膝立ちになってそのまま動きを止めてしまう。騎体から光が煌めいて宙に消え、ガシャリと重い音を立てて力を失った。

 何事かと様子を見ていると、訓練場の入り口、同調槽が置かれた建物から、ミックの声が聞こえた。

「ちくしょう!筒切れだ!動き過ぎた!」

 筒切れ。

 そうか、憑奏機は継振筒に込められた煌糸力で動く。すでに何度かの試合をしてきた分に加えて突進を多用したミックは、俺よりも煌糸力を消費してきた。

 そこに今やった全力を駆使した戦いだ。

 元より訓練用のアルカンスロボスでは力尽きるのも無理はない。

「勝者、ギルバート!」

 ダニーが俺の勝利を告げた。

 勝つには勝ったが、俺としては負けた気分だった。

 本物の律奏機には煌糸顕現炉が積まれていて、それが駆動し続ける限り無尽蔵に煌糸力を生み出す。筒切れはあり得ない。

 つまり、本物の戦いならミックはまだやれた。

 そうなれば、勝負はどうなっただろう。

 俺は黙り込んだまま、勝者側の列に戻った。


「無様な勝ち方ですわね。負けた方も筒切れなんて初歩的なミス。情け無い。」

 ガリィが俺を辛辣に出迎える。

「あぁ。お互い熱くなりすぎたな。次に俺と当たるのが3人のうち誰になるかはわからないが、汚名を返上させてもらうよ。」

 ミスは素直に認めながらも返した言葉に、勝ち残った列に立つ4人の反応は沈黙だった。数秒の間を置いてからガリィが声を発する。

「派手で騒々しい戦い方は田舎者らしいですけど、あんなものは威かしですわ。転んで恥の上塗りを無さらないようお気をつけなさい。」

 俺は肩をすくめただけで応じ、列に並ぼうとしたところで訓練場の入り口から出てきた運搬用のカーゴに気付いた。

 そしていつの間にか俺たちの近くまで来ていたダニーの声が響く。

「整地の間に全員継振筒を交換しろ!終了後は一列横隊にて待機!はじめ!」

 俺たちはカーゴが止まると同時に駆け寄って憑奏機用に金具でつながれた3本の継振筒受け取り、場所を譲って離れてから、騎体の左肩と右脇にあるレバーを操作した。

 アルカンスロボスの背中の装甲が動き出し、右の脇まで降りてくる。その内側には長さ30cmほどの金属の筒が3本収められている。これが継振筒だ。

 一本目の口金を操作して煌糸力の接続を切り、筒を口金から抜いて金具から外した新しい継振筒を繋いで口金を繋ぎ直す。3回繰り返してから左肩のレバーを操作し、装甲を戻した。

 右脇のレバーを操作して固定を確認すると、俺は駆け足で列に戻った。

 ワイマーとヒューイは俺より少し早く戻っていて、俺の後にはガリィ、カスパーと続いた。それから間を開けて体操組の面々が列に並ぶ。

 俺たちの前に立ったダニーが、低い声で告げる。

「以後の試合は全員がここで待機し、勝負を見届けろ。」

「はい!」

 俺たちの返事が訓練場に響き渡る。

 それからダニーは籤を引き、

「次はカスパール・ケーニヒト、ワイマー・シアボルド。前に出ろ!」

残る2人の名を呼ぶ。

 ワイマーが足を一歩踏み出し、そして一瞬だけ俺へと視線を向けてから走り出した。


 勝負はワイマーが一方的に主導権を取り続け、カスパーを下した。

 ワイマーは様々な技法で繰り出される長剣を無駄なく受け、流し、弾く。

 カスパーの攻撃は多彩で鋭い。だからなおさらのこと、剣と盾が防ぐ2つの間合いが球として見えるかのようだ。

 途中から気付いたが、ワイマーはカスパーの攻めに対して一歩も動いていなかった。

 それどころか間合いに勝る長剣を受けつつ懐に引き込んで自分の距離に持ち込み、盾で巧みにカスパーの守りを崩すと突き一つで勝負を決めてしまった。

「嘘だろ。あいつあんな真似ができたのかよ。」

「まるでお師匠様みたいだ。」

 ミックとニールが愕然とした声を発する。

 勝負が決し、ワイマーは膝をついたカスパーから離れて姿勢を正す。

 剣を左肩から右下へと鋭く一振りし、そして俺を一瞥してから、ゆっくりと鞘に戻した。

 視線を受け止め、俺はワイマーの考えを推測する。

「今までは実力を隠しながらトップにいたってことだな。」

 ワイマーが列に戻ってきたところで俺が呟く。

 ワイマーができないはずのことを俺とミックがやってみせた。それに対しての返事があの技なんだろう。それはかつて俺が師匠のラドワンから言われた、「王道の剣術」そのものに見えた。

 俺の前を通ったワイマーは、顎をわずかに上げて俺を見下し、「ふっ」と吐息とも嘲笑とも取れる声を残してから自分の位置へと戻った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ