祝宴
「夕食にはお祝いをするからね。今夜は豪華だから期待して良いよ。」
カークさんは私たちに休んでいるように指示してから、そう言って部屋から出ていった。
リーヴァと顔を見合わせる。
「お祝いって何?」
「わからないわ。」
部屋で休めと言われているのに下に行ったらおかしいだろうしと、リーヴァとあれこれ言い合っているうちに軽くて騒々しい足音がやってきた。
「ティーエ、リーヴァ!あーっまだ靴も履いてない。もうご飯だよ!はやく、はやく!」
急かしたてるフェリスに追い立てられながらブーツを履いて、引っ張られながら部屋を出て宿を出て。あれ?
村の真ん中の広場まで引っ張られて出ていくと、今回旅をしている一団と村の人たちがいた。
その手前にはヒラヒラした薄くて黒い布の服を纏った黒が背丈より長い曲がった柄の大きな筆を持って待っていて、
「みんなお待たせ。主賓が来た。」
私たちを見てそう言うが早いか、スタスタと広場の真ん中、村人が囲む輪の真ん中に立っている白のところへと歩いて行く。
「白と黒がね、ハシュワーヌの踊りを見せてくれるんだよ。おもしろいよ!」
説明よりも足早に引っ張られて輪に近付く。そこには冒険者の一団が固まっていて、カークさんが待っていた。
「足は大丈夫だね。」
「はい。ありがとうございました。それで、これは何の騒ぎなんですか?」
「ご飯やお酒まであるわ。」
気遣ってくれるカークさんに、お礼もそこそこに質問。
「白さんと黒さんが、獣粧族の楽芸を披露するんだってさ。団長さんも景気付けだって乗り気になってくれて、村の人も喜んでくれてね。あっという間にこうなっちゃったんだよ。」
「そ、そんなことあるんですか?」
驚く私にカークさんの説明が続く。
「猫人族の芸って有名だからね。団長さんがここよく通る人だから、すぐに話が通ったよ。」
「ボクは見たことあるよ。すっごく楽しいよ!」
割り込んできたお子様のほっぺたを「そうなんだー」と両手で引っ張って、それも面白いのか笑い出したフェリスをむにむにしながらカークさんを見上げる。
「白や黒が踊りをするなんて初めて聞きました。」
「私もよ。どういう踊りなのかしら。」
「それは見ればわかるよ。猫人族は芸のためにトロイを旅をして回っているそうだから、終わったら2人に聞いてごらん。ほら、そろそろ始まるよ。」
穏やかな説明をしてから広場を指差すカークさん。
見れば白と黒が広場の真ん中に並んで立っていて、村長らしい人が彼女らとその踊りについて村の人たちに話している。
話が終えてから2人は背中合わせになってから半歩踏み出し、白は両手を頭上へ伸ばし、黒はあの大きな筆を持ったまま自分の前に掲げた。
そしてぴたりと止まる。
思わず息を飲んだ。なんだか2人とも、それから周りの雰囲気も全然違う。
白の指先が動いて、明るい紫の煌めきが弾けた。
たららりらん
竪琴のような澄んだ高い音。
彼女の両手、肘から指先まで絡みつく爪飾りが指先の複雑な動きで、空を掴むみたいに揺れる。
小さな動きだけど、優雅で艶かしくいくつもの曲線を描いては、中空で紫の煌めきを作り出し弾いてかき鳴らす。
たららりらんりらんりらららりらん
光をかき鳴らしながら緩やかに両手は開かれて降りて、煌めきが連なり音が繋がる。
ゆっくりと、でも滑らかに動き続けながら白がステップを踏み身体を回すと、彼女が爪弾いているのは繊細な音色に楽しげなリズムを乗せた心地よい調べになった。
白がふわり、ふわり、ふわりと回って周りからは皆が感銘を表して手を叩く音。私ももちろん拍手してた。
拍手が止みかけた頃合いで
ドン
太鼓の音を鳴らしたのは黒。
両手で持つ大きな筆をゆっくりと回して、身体の前に構える。
ぐいんと柄をしならせると、毛先に灯る暗い紫の光が一瞬で紋様を描く。
それは水に溶かしたインクみたいに溶けるように消えていき
トン
さっきよりも小さな音が鳴る。
しなりで紋様を描きながら大きな円を描くように筆を振り、身体も合わせて回る。
白と黒はお互いに回り合いながら濃淡の紫光で広場を彩り、竪琴と太鼓の音を響かせ続ける。
どこか郷愁を誘うような不思議な気持ちが湧き上がってきて、私は2人を夢中で見つめていた。
指先の軌跡を煌めきで描いて、シャアンと、シンバルみたいな音を発したのは白。
黒は舞いながら筆をしならせトントンドンドントトンドドンと大小の太鼓の響き。それをしながら筆先を走らせて大きな紋様も描く。解けて消えると光が弾けて
ドン!
一際大きな太鼓が鳴り響いて身体を震わせた。
複雑な音色を描きながら2人は舞いながら離れ、観客に近付いて離れてまたお互いに周りあって、村人や冒険者たちはいつの間にか、彼女らのリズムで手を叩いていた。
みんなが一つになったみたいな不思議なひととき。
やがて2人は広場の真ん中で音を鎮めながら動きを止めて、静まり返った観衆に、姿勢を改めてからお辞儀した。
夢中になって手を叩いた。みんなも。拍手喝采だ。
拍手に見送られながら私たちのところに戻る2人。白は周りに愛嬌を振りまきながら、黒は手を振り周りに応えながら、今まで見たことがない笑顔でやってくる。
私は声が届くくらいになるとすぐに
「白!黒!すごいよ。」
2人に呼びかけた。それに気付いた2人は足を早める。
あまり笑顔を見たことがない黒が、普段から良く笑っていてもどこか覚めた感じがある白が、自慢げに満面の笑みを浮かべて目の前まできた。
「とても楽しかった!こんなすごいことができるなんていつもの2人からは全然想像できなかっ…。」
感動を伝え終える前に白の拳骨が落ちてきた。
白と黒が芸を披露してからあっという間に広場に机や椅子が置かれて料理が運ばれてきて、村総出の祝宴が始まった。
私たちはその隅っこの、自分達のカーゴの近くに置いた机にいた。白とフェリスは宴の挨拶もそこそこに広場へご馳走の食べ歩きに。リーヴァはさっきメイヤーさんがきてどこかへ連れて行っちゃった。
「たんこぶになってる。白ひどい。」
私が痛む頭をさすりながらぼやくと、
「あれは余計なことを言ったティーエが悪いよ。しばらくそのままでいようね。」
治療の法術を使えるカークさんがそっけなく言う。
「猫人族は獣粧族の中でも祭典を司る血族で、そのための技芸に誇りを持っているんだよ。」
黒さんからの受け売りだけどね。と付け加えながら、カークさんが説明を続ける。
「それでね、獣粧族は血族の繋がりがすごく強くて大切に思っている。それを貶めた相手に対して、負けて当たり前の戦争を起こしたこともあるんだよ。しかも、勝った。」
珍しくお酒の入ったジョッキを手に、最後の一言だけ何かを思い出すような呟き。
「この世界にはいろんな人族がいるし、同じ人族でも圏域や国によって色々だから、自分の物差しだけで考えないようにね。」
私が俯いたままでいると、カークさんは
「人を怒らせると怖いんだよ。獣粧族は特に。」
言い聞かせるように穏やかさを消して、話を終えた。
私は貶めたり軽んじたりしたつもりはないけれど、2人にとってはそうじゃなくて、つい余計なことを言って機嫌を損ねてしまった。
そういうことみたい。
せっかくのご馳走なのに、食べる気にならない。
だって、カークさんの話の間ずっと、その話の前からずっと、同じ卓にいる黒は他所に顔を向けっぱなし。顔を合わせてもくれない。
(悪いことをしたら謝る。)
思い出が囁く。まるで黒のような言い方。
それで私は、黒がなぜここにいるのか気付いた。
「黒。」
机の向かいに座る彼女に恐る恐る声をかけると、頭の上の耳だけがひらっとこちらを向いた。
やっぱり、聞いてはくれる。
「ごめんなさい。あなたたちのことを知らずに、失礼なことを言いました。反省してます。」
その耳に届くよう精一杯絞り出した声は広場の賑やかさにかき消されてしまうくらいだったけど
「私はもういい。でも、白にはしっかり謝れ。ティーエたちの初仕事が成功したお祝いに躍ると言い出したのは、あの子。あの子は自分の血と技をとても大切に思っている。そんなあの子が、あなたたちのために踊りたいと言い出した。」
黒は私に淡々と応えてから、肩越しに振り向く。
「だから、私よりも白にきちんと謝りなさい。」
すぐに黒は広場へと向き直ってしまう。さっきまでピンと高くなっていた猫の耳が平らになる。
「はい。」
そう呟いて白の姿を探す。いない。
白は男の人並みに背が高い。それに加えてあの容姿。このくらいの人の中でも見つからないはずがない。
どこへ?と思いながら広場の中をくまなく探す。でもいない。
「ほらぁ、お祭りに辛気臭い顔をしてないの。運が逃げるわよぉ。」
真後ろから声をかけられて、私はひゃあって叫びながら振り返る。振り返ろうとして椅子に足が絡んで。
がしゃーん
派手な音に周りが静まった。
慌てて起きあがろうとした私。笑い声。それからにぎやかさが戻り、私は大きなお皿を片手に乗せた白を見上げてた。
「あらあら、慌てん坊さんねぇ。」
足は真っ直ぐなままふにゃんと体を折って私に顔を寄せる白。腰から上はほとんど逆さまなのにお皿は平らなままだ。お酒の匂い。頰がほんのりと赤い。
「早く立って座りなさい。せっかくのお祭り、楽しまなきゃ損よぉ。」
目を細めて艶やかに微笑みながら、お皿とは反対の手を差し出す。私がおずおずとその手を取ると、白は猫の背伸びみたいに柔らかな動きで起き上がる。
引っ張られて私も立ち上がった。
「鉄豚が焼けたから持ってきたわぁ。食べましょう。」
お皿を机に置いて椅子に腰掛ける白に、思い切って声をかける。
「白、さっきは失礼なことを言っちゃって、ごめんなさい…」
「もういいわよぅ。大きなたんこぶになってるでしょ?それでおあいこ。」
「でも…。」
「わたしはもういいって言ったわよぉ?ほらぁ、焼きたて熱々で美味しそうでしょ。」
白は私が謝るのを遮り、焼けたお肉をフォークで刺して差し出してくる。なんだか中途半端な感じに困ってしまって、とりあえず受け取った。
「それ、フェリスが頑張ったのよねぇ。いつも厄介ばかりだけど、こういうのが上手いから仕方ないわよねぇ。」
フォークを持ったまま固まっている私を眺めながら白。
「村に着いてからメイヤーさんたちと出かけて2頭狩ってきたのは、流石だったよね。楽幼族に獲物探しで敵う奴はいないよ。」
カークさんが付け加えてから肉を一切れ口に運び、ジョッキをぐびり。
「付きまとわれて困ることの方が多い。」
黒が小さめの肉片を愚痴ってから飲み込んだ。それから、
「ん?夕方に狩ったのに柔らかい…。」
呟いて首を傾げる。耳もひらりと傾いた。
「あぁ、この村で寝かせてたやつだからね。狩ってきたやつと交換で出してもらう話にしたよ。」
カークさんがお肉の出所を話すと、黒は納得した様子でフォークを刺し、
「ティーエ、早く食べる。ほらこっちは味付けが違う。」
私に向けて差し出した。白も、早くフォークを返してと手を向けながら笑っている。
黒からフォークを受け取って、白から貰っていた分をかじり取った。
肉は塩を振ったシンプルな味付けで、噛み締めるたびに脂の味が染み出してくる。全体的に筋張っていて硬いけれど噛み切れないほどではなくて、大きな塊から焼いて切り出しているからか、程よい弾力が味を引き立ててる。
噛み応えをたっぷりと味わってから飲み込むと
「美味しい!こんなの初めて食べた。」
感激が口から飛び出した。
次のお肉に噛み付くと口の中がタレが焼けた香ばしい香りで一杯になってから、お肉の味と混ざっていく。
鉄豚は今まで食べたことが無いわけじゃない。けれど、苦力の頃には細切れの小さなかけらがスープに入っていたくらいで、今夜のように料理したものは初めて。
しっかりと噛みしめて味わって飲み込んで、目の前にあったジョッキに手を伸ばそうとして、両手にフォークを構えている自分に気付く。
「そんなに慌てなくても無くならないから、それ、返しなさい。」
耳をふるふると震わせながら黒が手を差し出した。
「わたしたちが食べられないわぁ。」
白もさっき出した手をそのままに笑いを堪えた顔。短く白い癖っ毛の、頭の上の方が震えてる。
「ご…ごめんなさい。」
両手のフォークを一緒に差し出すと、2人が受け取る。
「ほらほら、冷めないうちに食べましょうねぇ。」
笑顔で私に別のフォークを握らせてから、白は新しいお肉を頬張った。
それから広場の方で冒険者のチームから何人かが試武をしたり、たまたま村にいた芸人が曲を披露したりと宴は盛り上がっていた。
試武を見せた中にはメイヤーさんとクアンさんもいて、ライアスさんが次々と投げる木の的を半分に切り落とす剣技や、分厚い木の板を打ち割る剛拳を披露していた。
もう一つのチームからはリーダーのディンジァさんともう一人が剣と盾を使い打ち合っている。
「メイヤーさんたちは、いつもこういうことをしているんですか?」
いつの間にか同じ卓を囲んでいたメイヤーさんに、私は尋ねた。
「これも仕事の内なの。冒険者は武力が売り物だから、信頼されるには見せてあげなきゃ。特にディンジァは護衛と剛獣狩りでやっているチームだから、見せ方にも苦労してるのよ。」
葉野菜で包んだ肉を小皿に置くと、メイヤーさんが手掴みで口に入れる。宴の最中に思い出に浮かんだ食べ方をやってみたら、彼女はそれが気に入ったみたいで、さっきからなぜか私が包んであげている。
「馴染みがない所で武力を誇示したらトラブルの元だけれど、この街道筋は良く仕事を受けているから。それと、野盗も通る相手を見定めて選ぶから、無駄な危険を避けるためにもね。」
メイヤーさんの答えをツァイシャさんが継いで、その意味するところに私は眉を寄せた。
「それって、野盗が村を見張っているということですか?」
2人が、当たり前のように頷く。
「あいつらだって生活がかかっているんだから。用心しなきゃ長生きできないよ。」
軽い調子でメイヤーさん。思わず周りを見れば、リーヴァ以外はみんなそんな感じ。
「それじゃぁ、野盗が襲ってくるときは、勝てる見込みがあるときなんですね。」
「そう考えるのが無難だ。」
葉包み肉に手を伸ばそうとしたクアンさんがメイヤーさんに「自分でやれ」と迎撃されて、手を引っ込めながら口を挟んだ。
「だから、実力や戦力を適度に隠すのさ。つまりこうしている間も護衛はしている。」
ごつごつした大きな手で不器用に肉を包むクアンさん。私のようにはできなくて、メイヤーさんをひと睨みしてから不出来な包み方の肉を一口にした。
「難しいものなんですね。」
静かに呟いたのはリーヴァ。
「リーヴァもティーエも、役に立とうと思わなくていい。まずは空気に慣れて。」
私たちに言い聞かせながらお皿から葉包み肉を持っていく黒。ちなみに白とフェリスは葉っぱで包むのは珍しいと喜んで、一皿持って広場に広めに行った。
「そうね。はじめのうちから無理をすることを覚えると、長生きできないよ。」
黒に意見を合わせるメイヤーさん。そのまま続けて
「だけど、リーヴァには手伝ってもらえると助かるかな。うちだけじゃなくて、ディンジァのところも。」
と提案をしてくる。みんなで彼女の顔を見た。
「それはどういうことかな。」
それまでライアスさんとぼそぼそやっていたカークさんが怪訝な顔で質問する。
答えたのはツァイシャさんだ。
「さっき、リーヴァは染弦ができるって言うから見せてもらったの。きちんと訓練をしていないのに大したものよ。彼女なら十分に筒込めができるから、やってもらいたいの。」
「リーヴァは筒込めができるんだ。」
恥ずかしそうに顔を伏せた彼女を見て呟く。
筒込めについては昼間カークさんに教えてもらった。合奏甲冑やカーゴに使っている継振筒という部品に、染弦で引き出した煌糸の力を充填する作業だったはず。
染弦は煌糸を力を引き出すために活性化させる手順で、活性化された煌糸は染弦した人によって違う色の光を発する。例えば黒は濃い紫、白は明るい紫、カークさんは空色。
訓練の最中に見た、リーヴァの手の中で踊る鮮やかな真紅の光を思い出す。
そうしていると、黒がメイヤーさんに、淡々としたいつもの口調で
「リーヴァが協力できるならやっても構わない。ただ、そうする必要があるのはなぜ?」
そう問いかけた。
「必要って程じゃないよ。だけどうちもディンジァのところも筒込めには人が足りないの。仕事の間だと充填しても減る一方なのよ。あんたらは間に合っているみたいだから、助けてもらえれば余裕ができて、次の仕事も早く受けられるってこと。」
二人のやり取りを聞いて、こそっとカークさんに近づいた。
「もしかして、私たちのチームって他より筒込めできる人が多いんですか?」
「うん。白さんと黒さんと、あとオレ。チームの中だけで間に合うのは珍しいかな。普通は町で筒込め屋に金を払って充填してもらって、仕事の間は節約するんだよ。」
「じゃぁ、リーヴァができれば。」
「オレは楽になるね。」
ちょっぴり恨めしそうに黒を見てため息をつくカークさん。白はやりそうにないし、黒が相手だと苦労しているのかな。
そして黒はカークさんの視線を全く気にせず、メイヤーさんたちと話をしている。
「…それは本当?」
「ええ。リーヴァなら、練習すれば私より早いと思うわ。」
リーヴァの実力について尋ねた黒に答えたのは、秘奏術士のツァイシャさん。本職のお墨付きだ。すごい。
「それで、練習を兼ねてうちの筒込めをしてもらえたら、お互い得でしょ。」
そうメイヤーさんがまとめると、黒は納得した様子で頷いた。
「話は分かった。だけどみんなの考えも確かめてから。それでいいなら明日中に決める。」
「もちろん。話がまとまって嬉しいわ。」
そうして2人で握手をすると、メイヤーさんはリーヴァにもよろしくねと声をかけてから葉包み肉に手を伸ばした。
宴が終わり宿に戻った私たちは、慣れない旅の疲れを明日に残さないようベッドに潜り込んだ。
だけど、私は疲れているはずなのに、眠れずにいた。
チームの中で私だけが、役に立てていない。
同じ初心者でもリーヴァは晶眼の回復力があって私より力もあるし剣も使える。しかも、カークさんの甲冑やカーゴを動かすための筒込めもできて、しっかりと役に立てる。
私には、そういう力は何もない。
「私、冒険者をやっていけるのかな。」
不安を抱えたまま寝返りを打つと、間近にリーヴァの顔。
(人はできることしかできない。)
思い出が呟いた。
その通りだ。
私は私にできることしかできない。今できることは、学んで鍛えることで、悩んでいても何にもならない。今は眠る。それが私にできること。
そう決意して、目を閉じて、一度だけリーヴァを見た。
彼女の額の真ん中で閉じられることのない晶眼の緑が、緑の奥にある小さな真紅の煌めきが、私をじっと見つめていた。




