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歓迎会

「全員集まったな。」

「はい!」

 学校を終えて夕方のシディンの街。

 貸し切りの食堂にみんなの声が響く。

 入学式の後、俺はアルテに声をかけ、チューターとして指導する新入生の歓迎会を開こうと相談した。迷わず賛成して3回回ったアルテと相談し、その日のうちに馴染みの食堂を押さえて、翌日の校内案内をしながら彼らにも話を通し、入学から最初の週が終わる今日、集まってもらった。

「ここは俺たち2人の奢りだ。遠慮はいらない。好きなだけ飲み食いして、楽しくやってくれ。」

 俺は皆に声をかけてから、自分の席がある小さなテーブルからグラスを取り、

「では、乾杯!」

声をかけると一気にグラスのビールを飲み干した。

「乾杯!」

 皆の声が返ってくる中、

「ありがたくいただきます!」

 2人で声を合わせてからグラスを乾したのはランダルとスフィーだ。この2人は気が合うらしく、学内を案内する間に打ち解けてしまった。

 他の3人が大人しかったり距離を置きがちだったりするので、2人はムードメーカーとしてみんなを引っ張ってくれそうだ。

 そんな期待通りに、2人はさっそく賑やかに周りと話し始めている。

 カルミアは、乾杯もそこそこに隅の席で食事をしようとしているのにアルテに引っ張り出されて、ひどく迷惑そうな様子だ。

 一歩引いた立場から仲間に関わる奴はいないと困るが、引きすぎでは話にならない。でも、俺が見たところ、周りに馴染むようにすれば悪い結果にはならないように思える。

 嫌々ながらであっても今はランダルたちと話はしているし、しばらくは放っておこう。

 少し困りそうなのはグウェンミルだ。

 あがり症なのか内気なのか、周りが話しかけてもすぐにオリエの影に隠れてしまい、会話が続いていない。俺が話しかけると尚更だ。最初に緊張させてしまったのが失敗だったか。

 オリエとは馴染んだらしく、2人で時々話しているので、それを糸口に周りと合わせていくか。

 そのオリエだが、どうもアルテが苦手らしい。

 新入生の中では程々に話をしているけど、アルテが絡むと妙に険しい態度になる。

 女子には女子でないと話せないこともあるだろうから、チューターであるアルテとは仲良くやってもらいたい。昔からの馴染みだから、一言言っておこうか。

 そう思って2人がいるテーブルに近付くと、例によってグウェンはオリエの影にさっと動いてしまった。

「ギルにぃ。今日はありがとう。ここ、料理が美味しいし、入ってきたときからお店の人も丁寧にしてくれるの。いいお店だね。」

 オリエは、そんなグウェンの様子に困ったように笑って、声をかけてきた。

「おう。2人とも来てくれてありがとう。ここは俺が入学した頃に先輩に教えてもらったんだ。喜んでもらえて嬉しいよ。」

 こんな風に俺がオリエと受け答えしている間にグウェンも頭を下げて小さい声で何かを言ったようだけど、店の賑やかさによく聞き取れずどうしようかと思っている間にテーブルの反対側に行ってしまった。

困ったな。

 拒否されているわけではないが、不自然に距離を取られると、これから軍人として守るべき規律を教えるのにやりにくい。

(最初にしっかりと教えておくために、きつく言うべきか。でも、歓迎会中だからな。)

 言い方に悩みながらも間を空けると不自然になるので、とりあえず声をかける。

「えぇと、グウェン。」

「ひゃいっ!」

 グウェンはビクッとしながら返事を噛んで、突然の声に周りの面々は彼女へと目を向ける。

(そんな驚く言い方したかな?それとも俺、嫌われてるのか?)

 驚いた俺を見て顔を真っ赤にして、それからキョロキョロと店中に視線を彷徨わせたグウェンは、アルテの後ろへと小走りに去ってしまった。

「あのね、ギルにぃ。さっき聞いたんだけど、グウェンは入学式のことが気になるんだって。ギルにぃのことは嫌いじゃないって言ってたよ。」

 不安な気持ちが顔に出てたからか、オリエがフォローをしてくる。2人にさりげなく注意しようと思っていたのに、逆になってしまった。

「入学式のあれか。あれは俺も悪かったからな。しばらくは仕方ないか。ありがとな。」

 オリエに礼を言ってからグラスを傾けて一息置き、

「それから、あっちの連中とも話をしようぜ。俺じゃ教えられないこともあるからさ。」

と、グラスを持つ手で他の5人がまとまっているテーブルを指す。

 アルテのことを言っているのはわかったんだろう。オリエは口を少し尖らせて俺を見上げながら、グラスを持つ。

「はーい。ギルにぃは変わらないな〜。」

 馴染んだ口調で言い残し、オリエもみんなの輪に加わっていった。



 それから歓迎会は和やかな雰囲気で話も弾み、俺もアルテも新入生たちのことを知ることができた。そして、話の流れは次第に学校での生活や俺たちの2年間の方が多くなってきた。

「ギルバートさんは、冒険者の仕事を受けたことがあるんですか?」

 スフィーが関心を露わにして聞いてきた。カルミア以外の新入生とアルテも耳を傾けている。

「まあな。実はこの店も、その頃から知り合いだから貸し切りにしてもらえたんだ。」

 俺の答えに

「そうだったんですか。すごいです。」

と感嘆の声を上げるスフィー。それを皮切りにランダルも質問に加わる。

「基礎課程は厳しいのに、冒険者までやってたなんて、ギル先輩すげーっすね。なんか秘訣とかあるんですか?」

「秘訣も何も、課外訓練として自主的に何かをしていない甘い奴は、ほとんどが二学年末の実地試験で落とされるんだぞ。みんなそれぞれ考えてやってる。それだけだよ。」

 俺の答えにランダルが押し黙った。

 この学校では授業以外の自主的な訓練を認められていて、それを課外訓練と呼ぶ。

 課外訓練は暗黙の了解の範囲でだが、実戦経験を目的として冒険者ギルドに所属することが許されている。

 実際には小遣い稼ぎがメインだったりするが、そんな訳で冒険者になって簡単な仕事を受ける学生が多い。

 俺も父やジョセフさんたちから話を聞いていて、朝の鍛錬と冒険者としての仕事を課外訓練として続けてきた。

 小さい頃から鍛錬を重ねてきた俺たちは慣れていたが、できない奴はできない。そして、そういう奴が三学年まで残れるほど甘い世界ではない。

 俺の言葉を噛み締めるような一時の沈黙。

「2年分のカリキュラム、あんなにあるのに。」

 小さな声で呟いたのはグウェンだ。みんなに馴染んだからか、声が聞こえる程度には話せている。

「大丈夫ですよ。私がついていますから。」

 胸を張ったのはアルテ。入学行進での印象があるからか、彼女がこう言うと、みんなの顔が1人を除いて緩んだ。

 その流れで俺も付け加える。

「今は大変に見えるだろうけど、無理なことじゃない。慣れればなんとかなるよ。いきなり冒険者の仕事を受けることもない。やるとしても春まで鍛えてからだ。」

 無理はしないと示して皆の表情を見ながら続ける。

「それまでは俺が課外訓練を教えてもいいから、春になったらこのみんなでチームを組んでみよう。どうだい?」

 そうやって、きちんと教えると伝えて安心させてから提案すると、

「賛成!です。」

 即座に返事をしたのはオリエだ。それから、他の面々も前向きに声を返してきた。この様子ならチームとしても上手くやっていけそうだ。

「ギル先輩と俺が騎兵でスフィーは特機、前衛3人でアルテ先輩にグウェンが補助でオリエとカルミアが法撃。バランスいいじゃないですか俺たち!」

 ランダルが口早にチームの編成をまとめると、みんなが大きく頷く。1人だけ渋い表情のカルミアも、「バランスはそうだね。」と肯定的だ。

 鉄は熱いうちに打て。俺はこの勢いを逃さないために、素早く決断する。

「決まりだな。明日は休みだけど、俺は朝から鍛錬をしている。どれくらいの課外訓練をやるのか教えたいし、早いうちにみんなの力量を知っておきたいから、早起きして出てきてくれ。」

「はい!」

 迷わず答えたのはスフィー。次いでカルミアとランダルとオリエ。グウェンは声には出さないがスフィーと同時に首を縦に振っていた。

「えええ?!も、もしかして私もですか?」

 1人、アルテだけが賛成しなかった。

「もちろん。チューターの仕事だからな。来ないならパレードは無し。遅刻しても無し。」

「ずるいですよ。スノーパレードは関係ないじゃないですか?私、休みの朝はお寝坊さんなんです決めているんですよ。」

 叫ぶように捲し立ててからどうしよーとくるくる回るアルテ。みんなの笑いが起こり、俺がそっとカルミアに目配せすると彼は諦めきった様子で口元だけ笑った。

「なんでカームと仲良ししてるんですか?仲間外れは良くないですよ!スノーパレードも朝の二度寝もありですよ?!」

 すかさず俺に詰め寄り襟を掴んだアルテだが、体格も鍛錬も俺の方が上だ。全く効かない。

 それに、力の入れ方が本気じゃない。

 流れで引けなくなっているだけなんだろう。

 俺は降参のように両手を上げてから冷静に彼女の後ろを指さすと、

「わかった。でも、みんなだってアルテの実力を知りたいと思っているようだぞ。それに、カルミアにだって良いところを見せたいだろ。」

と、途中から声を抑えて新入生の様子を伝えた。

 振り向いてから自分の立場を思い出したんだろう。

 ギギギっと音がしそうな固さで俺に向き直ると、

「スノーパレードはありですよ。」

そう言い捨ててから手を離して、みんなに向き直った。

「それは約束したからな。」

 アルテに後ろから答えてから、みんなに声をかける。

「さて、話は決まった。俺たちはチームだ。これからよろしく頼むぞみんな。」

 新入生たちの掛け声が店の中に響き、それから俺たちは、門限ギリギリまで楽しい時を過ごした。

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