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式典行進

 20秒ほどで号令がかけられて、俺は後輩たちに俺の後を縦列で進行するよう命令し、定められた順序で全体の列へと加わった。最後にはアルテが続く。

 こうして全体を見ると、俺がチューターとなった5人の異質さが目につく。

 ラテニアは祖人族ことユ=リウムの圏域だ。

 当然だけど、ほとんどの生徒はユ=リウム。列の中からは他の人族の姿は見えない。それなのに俺たちの列は7人のうち4人が圏外発祥の人族だ。

 彼らが意図的に同じグループにまとめられたのは、明らかだ。

(厄介なことになったな。)

 俺が心の中で呟くと、隣の列で歩く女生徒が、俺には聞こえる程度で独り言のように

「色とりどりの顔ぶれで楽しそう。2年間無事だと良いわね。」

と呟いた。すぐさま、彼女の向こう側の列を歩く男子生徒から微かに、笑いを堪えたような息遣いが聞こえる。

 俺はそれらを意に介さず、

「行軍中の私語は懲罰対象ですよ。」

とだけ、同じ程度の声で呟いて行進のリズムを保つことに集中した。

 意味ありげな含み笑いをして、彼女は口を閉じる。

 彼女に調子を合わせて嘲りを露わにしている連中やいくつかの噂も含めて考えるに、俺が任された新入生たちは、彼女が裏から手を回して選ばれたのだろう。

(エレナ・マーブレン。城砦国家マーブレンの王女様か。厄介な相手だな。)

 俺たちが住むシディンも属しているアウスタル都市国家連合は、7つの都市国家からなる連合だ。歴史的な経緯からそれぞれ別の国としているが、実際のところはひとつの国みたいなものだ。

 だから国同士の交流も盛んで、それぞれの国の王族や有力な貴族は子供を他の国の学校へ通わせ、人脈と知見を広げるようにするのが慣わしだ。

 たいていの場合、その間に結婚する相手を見つけるらしいが、俺のような地方の一騎士には関係のない話なので、気にしたことはない。

 そして、7つの国の中でも特に大きな発言力を有するのが城塞国家マーブレンで、エレナはその国王の三女だ。

 マーブレンの王族ともなれば連合に属する国々の大貴族の多くが何らかの形で血縁になる。

 この王立の軍務学校のお偉方はほとんどが有力な貴族なのだから、その中にも彼女を可愛がっている身内の1人や2人はいる訳だ。

 俺が聞いた噂では教頭が彼女の叔父。それが本当なら、今のこの状況も納得できる。

 なにしろこの学校の教頭はやり手で有名で、影響力も学長よりも上だと評判になるくらいだからだ。

 そんなことを思いながらも俺は、後ろに続く新入生達の足音の乱れに気づいた。

 正直言って居心地が悪いこの状況で、動揺しているのだろう。

 もうすぐ行進の先頭が正門を通る。そこから前庭を抜け玄関の大扉をくぐり、父兄や教師たちが待つ大ホールを抜けて講堂へと向かう。

 前庭はまだいいがホールの中で失敗をすれば、ただでさえ目立つ彼らにとって不利な印象となることは間違いない。

 何か指示をするべきかと俺は戸惑った。

 そうした矢先、唐突に、一番後ろを歩いているアルテの声が聞こえてきた。

「みなさん、合図に集中ですよ。息を合わせていちに、いちに、手足も合わせていちに、いちに!」

 行進のリズムに合わせた陽気なかけ声に辺りからは忍び笑いが起きるが、アルテはそんなものは歯牙にもかけない。

(わかっていてやっているのか。悪くないな。)

 大事なのはホールの中だ。それまでは行進の練習だと割り切るのも正解かもしれない。

 そう判断して、俺もアルテに合わせて声を上げる。

「行進指示。列と歩幅を整えよ!いちに、いちに!」

 チューターは受け持った新入生に対して、指導や指示をする権限がある。その範囲なら声をかけても問題はない。

 このやり方は行事の慣習から外れているし、規則としてもギリギリだ。しかし、今の状況を打破するには何もしないわけにいかない。

 上手くいくかはわからないまま号令をかけていると、他の列からも掛け声が上がり始めた。

「今日はお前らの晴れ舞台だ。しっかりと列を整えろ!」

「皆様方、歩みを合わせてくださいまし。」

「みんな、きちんと並んで足を揃えて進もう。」

「進行を声に合わせよ。」

(あいつら…)

 周りの沈黙を破りいちに、いちにとかけ声を上げているのは、ミック、スミカ、ニールそしてシゲトヨだ。

 全体から見れば人数はわずかではあったが、それでも俺たちの声は快晴の心地よい風に乗り、行進する生徒たちの中に響く。

 効果は十分だった。明らかに周りの雰囲気が変わり、後ろの足音が揃ってきた。

「皆さん、間もなく正門をくぐります。そこから皆さんはこの学校の生徒です。列を整えなさい。いちに!」

 俺の隣から、エレナが号令を発した。俺が横目に彼女を見ると、冷徹な眼差しで俺を睨み、しかしかけ声は堂々と響く。

 それは黙っていた他の生徒達にも伝わり、新入生達は一団となってかけ声を発して進む。

 やがてその先頭が前庭から玄関へと達する直前、

「号令〜止めっ!」

俺とエレナが同時に指示を発する。

 それを皮切りに指示の声が広がってから消えて、新入生たちの整然と響く足音だけになった。

 玄関を通るために行進の幅を狭めると俺とエレナが間近になり、そこで彼女は、小さな声で呟いた。

「落第姫に助けられましたわね。」

 俺が何も答えずに目線を送ると、彼女は俺には関心が無いかのように前を向き歩き続けた。

 俺もすぐに行進に集中して進み、やがて玄関をくぐりホールから中庭に抜け、入学式が執り行われる講堂へ、何も言わないまま到着した。



 彼等が校舎の玄関をくぐろうとしたとき、三階建ての校舎のベランダから彼等を見下ろす人物がいた。

 白髪に白い顎髭と年齢を感じさせるものの姿勢は整っており、やや太めに仕立てられた飾りの付いた儀礼服が、彼の温和な顔つきを程よく引き締めた印象にしている。

 彼の後ろには、実務用の簡素な服をスマートに着こなし髪を肩の高さで切り揃えた女性が立っている。

「ナリエナくん、今年は面白い生徒が多いですね。」

 彼の感想に、後ろに立つ女性が頷いた。

「学長のおっしゃる通りと思います。この様な入学行進は、今までありませんでした。」

 学長は、うん、と頷き、行進の列を見下ろしながら続ける。

「規則には違反していない。それどころか、臨機応変な状況判断としては悪くないね。でも、教頭はきっと、こんな顔で『前例がない。けしからんことです!』って言ってくるだろうね。」

 振り返り学長が顔真似をして見せると、彼女が、口元に笑みを浮かべる。

「教頭は仕事に大変熱心な方ですから。ところで学長、そろそろ講堂に向かうお時間です。」

 顔を伏せて告げた言葉に学長は背伸びをしてから残念そうに、

「ナリエナくん、君は秘書としては優秀ですが、生真面目ですね。まだ少し余裕があるはずです。」

 そう答えながらもベランダから中に入る扉へ向かう。そしてナリエナが開けた扉をくぐりながら、

「ラドワンの弟子たち、ですか。楽しい5年間になりそうです。」

小さな声で呟いた。

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