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酒場の乱闘

「やっと着いたな。今日はベッドで休めるぞ」

「ああ。それにまともな飯にありつけるぜ」

「早く報告してご飯にしますよ」

 予定通りに日々の調査をこなした俺たちは、カーイカ・ターフ村に戻っていた。

 カーゴを降りてから軽やかな足取りで俺とミックの横を通り過ぎたアルテが、くるりと振り向いて両手を振る。

「みんな早くするんですよ。私お腹が空いて目が回ってしまいますよ」

 学生たちの中から控えめな笑いが起こり、しかしアルテはそんなものはどこ吹く風とスキップしながら先を急ぐ。

 そんな陽気な相方に半分諦めながら歩いていると、隣にセシリィがやってきた。

「ああいうところも見慣れてしまったわ。

 きっとアルテって、一生あんな感じのままよ」

「俺もそう思うよ。誰になんと言われても変わらないだろうな」

「ギルは大変ね。

 ところで、調査結果の報告は上げてあるのよね?」

 唐突に俺を話題に出したセシリィに意図を確かめようとして顔を向けたが、彼女は意味ありげに笑いながら一方的に話を変えた。

「ダグラスさんの評価は高かったですわ。

 わたくし、あのようなまとめ方は初めてでしたけれど、大変良い学びになり満足です」

 タイミングを見計らったようにエレナまで加わってきた。俺が報告をまとめるときに提案して試したブレインストーミングの手法を気に入ったらしい。

 それはいいが、このタイミングではセシリィへの追及は諦めるしかないな。

「エレナがそう言うなら安心だな。

 報告書は支所で精査されてから報酬が決まるけど、期待して良さそうだ」

「よっしゃ! 今日は豪勢に食えるぜ」

 ミックの勢いに俺たちは笑いながらギルド支所へと向かった。


「お前たち運が良いな。今日は良い肉が手に入ったから、夕飯は楽しみにしておけよ」

 ギルド支所に入ると、カウンターの向こうで仕事をしていた料理人が嬉しそうに声をかけてきた。

「それは楽しみだ。何の肉です?」

「コパパっていう珍しい鳥でな。食いでがあって美味いらしい。

 さっき帰ってきた奴らがたんまりと狩ってきたから、食い切れねえくらいにあるぞ」

 調査の間に数回遭遇した人懐っこいコパパたちの姿が思い出されて、期待に膨らんだ気分が一気に沈んだ。背後から聞こえた不満の声で、チームの面々も同じ気分だとわかる。

 おまけに支所の広間がどんよりとしてきた。

「な、なんだ? 急に暗くなった気がするぞ」

「いや、気のせいだろ。まぁ、飲むって雰囲気でも無くなっちまったな」

「そこのガキどもがしけた面で並んでやがるからだ。せっかく俺たちが良い飯を用意してやったってのにな」

 広間の一角を20人ほどで占拠して飲んでいた冒険者たちが俺たちを睨み、俺は連中を睨み返しながらもアルテの肘を突いた。

 この雰囲気を作っているのは、アルテに懐いている精霊たちだ。

 姿も気配も感じられない彼らだが、彼女の気分に合わせて周りの雰囲気を変えてしまう性質がある。しかも彼女が止めなければ勝手に。

「だ、大丈夫ですよ。もう」

 冒険者たちに白い目を向けながらアルテが俺に寄り添って耳元で囁き、すぐに広間の中のどんよりとした雰囲気が晴れていく。彼女が精霊たちに頼んで雰囲気を戻させたのだ。

 精霊の加護のことは秘密なので俺と同じくらいに背が高いアルテは当然のように寄り添って囁いていたのだが、その仕草と俺たちの冷たい視線が酔っ払った冒険者たちの癪に触ったらしい。

 不満とアルテへの不躾な視線を隠そうともせず、俺たちに近いテーブルにいた3人が乱暴に椅子から立ち上がった。他の連中は面白そうにこちらを眺めている。

「軍務学校の学生さん方は華やかなもんだな。

 おい嬢ちゃんたち、俺たちのところで一杯付き合えよ。そうしてくれりゃあ俺たちが狩ってきた獲物にケチをつけたことは許してやるぜ。おう、後ろにも上玉が揃っているじゃねぇか」

「あんなに可愛い子たちを狩る粗暴な人とは、笑顔だけ(・・)のお付き合いしか(・・)しませんよ」

 金の星々が浮かぶ夜空みたいな藍色の目を冷たく細め、口元だけ微笑みの形にしたアルテが絡んできた男をそっけなく突き放す。

「生意気だな! 貧相な体つきにはお似合いだがよ!」

 怒気を露わに伸ばされた手を、俺は2人の間に割り込んで左の肘で止めた。ちょうど男が俺の肘を左手で掴んだ形になる。

「テメえ!?」

 俺への罵声は途中で止まった。俺が肘を回しながら力をいなし、男の体勢を崩したからだ。

 掴み掛かられた場所を接点に押し引きの力とタイミングを操って男の手を振り払うと、酔っていたこともあって奴はぐるりと身体を回し、ひっくり返りそうになってから足をバタバタさせて立ち直った。

 不意打ちで体勢を崩されても転ばないくらいの腕はあるらしい。油断は禁物だ。

 男が向き直って腰を落とし拳を構えてから口を開こうとしたが、俺は機先を制して正論を叩きつける。

「言っておくが、先に手を出したのはあなたで、俺はその手を振り払っただけだぞ。

 それに、コパパは狩猟制限があるはずなんだがな」

 正論はこいつらの気分を損ねるだろうが、あの大人しいコパパを狩ってきた話で印象が悪いところにアルテやチームの女性たちへの不遜な態度だ。

 元から配慮する必要は感じていない。

 全身に意識を巡らせ周囲の煌糸に俺自身の色を広げていく。煌糸を見て機先を制する技術で、師匠であるジョセフさんの流派では「織煌」と呼ぶ習熟段階にあたる。

 男たちから流れ出す色を俺の色が遮って、彼らの間際まで押し返した。

 俺は王道の剣を通じてこの技術を体得した。同じことができる奴は俺の煌糸の流れが見えるだろうが、できない者に対しては強い圧迫感や威圧感を与える効果がある。

 目の前の酔っぱらいもそれを感じ取ったらしく、明らかに態度が変わった。

「狩猟制限なんざ言われるまでもねえ。俺たちは調査に邪魔なやつを狩ってきただけだ。

 報告も読まずに難癖つけやがって。やる気だって言うなら容赦しねえぞ!」

「コパパなら直に見たが、あれが邪魔になる状況ね。森の中で酔っ払っていてつまずいたのか」

「あれだけ特徴がある臭いを持っているんだよ。酔っているとしたら相当飲んでいたはずだ」

「アーネスト様には報告書の精査をお願いした方がよろしいかしら」

 俺の皮肉にヒューイが続いて隣に並び、後ろからはエレナの声。

 彼女の方を睨んだ男が驚愕し、それから後ろにいる仲間たちに目配せした。

 彼ら3人の後ろで面白がって様子見していた面々が、顔色を変えて椅子から立つと殺気立った表情でこちらにやってくる。

 俺がチラリとエレナがやったことを確かめている間に、彼らは俺たちの前に立ちはだかって、お互いに広間の真ん中で対峙する形になった。

「おい、そこのお嬢ちゃん。

 冒険者の中で身分を振りかざすって意味がわからねえわけはねえよな。

 王侯貴族と言っても今いる場所を考えねぇと、厄介なことになるぞ」

「わたくしは『お願いする』とは言っていませんわ。それとも、精査されると不都合でも?」

 まずい、エレナはこいつらを追い詰めすぎだ。

 だが、俺は彼女がそれを意図しているともわかっていた。

 この冒険者たちに彼女は、自分の身分を示す指輪を見せながらさっきの台詞を言っていたのだ。

 つまり、「ギルドに対してマーブレン王女として報告書の精査を要求する」と暗に示すことで、男たちを脅迫したと言うことだ。

 王家の要求となれば精査どころか、報告書のわずかな瑕疵から男たちの冒険者としての立場を危うくする結論を求めることも不可能ではない。

 だから男たちは全員で俺たちの、特にエレナの意志を挫く判断をした。

(放っておけばエレナの思う壺だな。だが、ここで弱気を見せればこいつらは止まるどころかつけあがる。やるしかないか)

 俺は覚悟を決めて男たちを睨み返し、口を開いた。

「ここで騒ぎを起こすなら、相応の覚悟があるんだろうな。

 ひとまず、俺の仲間に手を出したことを謝れば穏便に済ませてやっても良いが、どうする?」

 この手のやり取りでは弱気は禁物だ。以前も譲歩する姿勢を見せてしくじったことがある。

 俺は男たちの殺気を受け止め煌糸の流れを跳ね除けながら、毅然として要求を突きつけた。

 ここはギルド支所の広間だ。謝罪して引いたとしてもコパパのことを周りが聞いている以上、彼らが報告書の粗探しをされるのは間違いない。

 つまりギルドから見た彼らの評価に傷がつくことは防ぎようがなく、あとは今後冒険者たちの中でやっていくためのメンツを失うかどうかの話。

 だから、こいつらは絶対に俺の要求を突っぱねる。

「お坊ちゃんお嬢ちゃんらしく学校の中でチヤホヤされて現実の厳しさをわかっていねえようだな」

 男は俺の煌糸を押し退けゆっくりと間近まで迫る。

 背丈は俺よりやや高い。シゲと同じくらいだ。

 冒険から帰ってきたばかりらしく無精髭が生えた頑強そうな顎と首に逞しい胸板と腕。

 この調査に選ばれるだけあって襟の徽章は第五位。俺の一つ下だが剣印、つまり近接戦闘が得意。

「多少はできるようだが、所詮は戦場を知らねえガキのお遊戯だって教えてやる。

 ありがたく!」

 話の途中で男が俺の襟に掴みかかる。

「学びやがれ!」

 硬く握り込まれた拳が俺の顔面をとらえた。


「ギル!?」

 アルテの叫びと同時にガツンと硬い音を立てて男の拳が跳ね返る。

「グアッ……てめえ、何しやがった」

 男が怒りの声を上げるが、その顔にははっきりと驚きが現れている。

 殴ったはずの拳を顔で返され打ち負けたのだから、無理もない。

「ガキのお遊戯に驚くなよ」

「クソガキが!」

 俺が挑発すると、男は再び構えて襲いかかってきた。しかも今度は後ろの2人まで一緒だ。

 俺に迫る相手は3人。煌糸の流れを読み取り殴ってきた男とその右側の奴の隙間へと自分の色を滑り込ませると、奴らの体は斜めに踏み込んだ俺の左右を通り過ぎる。

「むん!」ズドン!

「おらぁっ!」バキン!

 左の男を伏足絶歩で隣の奴まで吹き飛ばす。同時に八足断歩の加速で踏み込んできたミックが俺を捉えようと振り返った右側の奴に、右拳を叩き込む。

「こいつら手強いぞ!全員でやっちまえ!」

 連中の後ろにいた冒険者が命じる。徽章は第四位の剣印で他の奴より一つ上だ。

 こいつがリーダーか。

 彼の言葉で今吹っ飛ばされて動かなくなった3人を除く全員が、俺たち全員を囲むように詰めてきた。

「いいぞガキども。俺はお前らに賭けたんだからな! 勝てよ!」

「しっかりしやがれ! 学生に負けたらお前らシディンにいられねえぞ」

 広間の出入り口や階段の上から野次馬と化した見物人の声が飛んでくる。

「アルテ、エレナ、オスカーで全体把握。

 シゲ、セシリィ、ワイマーたちは輪形陣で守れ!

 ヒューイ、スミカ、自由牽制だ」

「カリンダ、行きなさい」

 俺の指示で学友たちが陣形を組み迫り来る冒険者たちを威圧した。

 ここでは武器は使えない。だから接近戦の技術に欠ける3人を武器が得意な5人で守り、徒手の戦いができるメンバーを前に立てた。

 エレナに命じられたカリンダはヒューイと一緒に前に出てくる。

 連携の取れた素早い布陣に冒険者たちの勢いが止まったが、すぐに半数で後ろを囲み、残りは前と側面から俺たちと後衛を分断包囲する体勢を取る。

「容赦するな!」

 相手のリーダーが先頭に立ち俺に詰め寄ると、周りの奴らもまとめて襲いかかってきた。

 リーダーの体格はさっきの男と体格は同等、俺よりも一回り大きい。

 それを踏まえて身構えるとリーダーから赤い煌めきが流れ、俺の顎を通って上へと抜ける。

 俺が構えた左腕の死角から突き出されたアッパーカットを頭をずらして躱し次の流れの外へと腹を引っ込める。直後に強烈なフックが通り過ぎた。

 しかし同時に左側に現れた拳を避けきれず、ガン!と派手な音に目が眩んだ俺は間一髪顎を引いて衝撃に耐えた。

(煌糸のフェイント。こいつも織煌か)

 すかさず腹を狙ってきた赤い煌めきはまたもフェイント。真正面からの右ストレートが眼前に迫る。

 俺は身体の重さを落とし威力に変え頬に伝えた。伏足絶歩を応用した反撃技「礎衛(いしずえ)」だ。

 ガン!

 再び重い音がして、吹っ飛んだのはリーダーだ。

 もんどり打って立ち直り、肩を抑えて俺を睨む。

 俺の頬を捉えたはずの拳に伏足絶歩の威力を叩き込まれ、インパクトの瞬間に伸びた腕を通して達した衝撃に肩を痛めたのは間違いない。

 わずかな隙に戦況を窺う。

「行くぜっ!」ダダン「曲がっ? グボァッ」ズドン!

「イエエヤアアア!」「馬鹿め単純すぎゃ」ドン!

「こいつなんて馬鹿力だ!」ミシミシ「うるさいぞ兵役崩れが」ミシミシ「かはっ……」

「お前くるな」「避けろおお!」ドンガラガッシャン「味気なく存じますの」「「痛えぇ離してくれえぇ」」たん、たん。

 俺が拳を交わしているわずかな間にミックとシゲとラッド、そしてスミカが奴らを倒していた。徒手空拳の専門家であるスミカに至っては2人まとめて取り押さえ、彼らの喉に足を優しく落としている。

 ヒューイ、カリンダ、セシリィ、ガリィが主力になる味方の死角を守っているから、相手は各個撃破も狙えない。

「畜生、このガキ澄まし顔で……舐めてやがる」

「舐めるも何も、君たちが弱いだけだろう」

 そして、エレナとアルテをワイマーとオスカーが守って3人の相手を食い止めている。オスカーは支援学科で戦闘技術の専門ではないから、実際に3人を押さえているのはワイマーだ。

「ギル、早く片付けてくれたまえ。後ろに敵を通すのは守護騎士として未熟ではないかね」

 剣は持たなくてもワイマーの戦術眼は凄まじく、冒険者たちの動きを先読みした手刀で確実に攻め手を潰し、俺に皮肉を飛ばす余裕まである。

「お姫様の守りは任せるよ」

「ふん」

 俺が言い返しても鼻で笑い飛ばし、ワイマーはタイミングを合わせた3人に先手を打って踏み込んで無駄のない曲線で手刀を振るい拳を撃ち落とす。

「ギルはお姫様の方が良いんですか?」ヒュン「イテッガハッ!」

 アルテが暗い声で呟きながらボタンを投げつけ怯んだ男にシゲが拳を振り落とす。

「あら、アルテもお姫様ではなくて?」

 俺を睨むアルテに、エレナは優雅に口元を手で隠して話しかけた。乱闘の真ん中でも社交パーティーの主役みたいに微笑む姿は優美な薔薇のようだ。

 しかし、その実彼女の周りには濃密に活性化された煌糸が渦巻いている。活性化だけだから目には見えないが、やろうと思えば即座に染弦を完了して秘紋を描ける状態。

「この場でお姫様はエレナだけですよ」

 そしてそれはアルテも同じで、彼女の周りにも強く活性化された煌糸が時折藍色に煌めきながら揺れている。

「おっと」

 ブン!

 俺が後ろを把握した隙に殴りかかってきたリーダーの拳を躱し、彼に向き合った。酔っているが目を逸らしながら捌ける相手ではない。

「妙な技を使いやがって。こうなったら仕方ねぇ」

 リーダーの身体の中に走る煌めきを俺は見た。

 細かくは読みきれないがこれは術技の動きだ。

(ここは支所の中だぞ!?)

 術技は武器の使用以上に厳しく規制されている。法術と同様に煌糸の操作によって超常現象を発現させるのだから当然だ。

 冒険者ギルドの中で使ったとなれば相当の処罰を受ける。最悪の場合は資格剥奪だ。使うはずがない。

 ないはずだ。

「覚悟しな!」

 リーダーが右腕に煌めきを集めて踏み込んでくる。

(煌糸の流れは打撃系か? 受けるのはまずいな)

 絶対に使わないとは確信できず、俺は煌めきの流れから術技を見極めつつ横へと拳を避ける。

 その踏み出した足が蹴られて大きく滑った。

「くっ、フェイントか」

 リーダーの攻撃は術技ではなかった。最初から俺が避けた隙に足払いをしかけ体勢を崩すために、煌糸の動きを見せてきたんだ。

「甘いなお坊ちゃん!」

 鈍い音がして重い衝撃が腹に蹴り込まれた。

 歯を食いしばって腹筋を固め、内臓がひっくり返る様な衝撃を堪える。

「おらおら、さっきの勢いはどうした?」

 リーダーの連打に俺は守りを固めた。時々混ぜ込まれる術技の動作で避けさせられペースが掴めない。

「やはりお坊ちゃんは戦い方がお綺麗だな。こういうやり方は見たことがねえだろ?

 ほら、ほんとに行くぞ!」

 赤い煌めきを秘めたジャブを躱して仰け反ったところに間合いを詰めたリーダーのボディブロー。腹筋を固めても内臓まで響く一撃に腹が折れ、俺は両足を踏ん張って身を起こした。

(第四位剣印は飾りじゃないな)

 ワイマーや俺たちの様に系統立てて整えられた剣術や体術を学んだ動きではない。実戦で鍛えた戦闘法なのだろう。

「しぶといな。さっさと倒れちまえ」

 どんな手を使ってでも勝ちをもぎ取ろうとする気迫で矢継ぎ早に拳を繰り出してくる。

「ギル、いつまでやっているのですか。

 こちらは既に片付いているのにその様とは、クレストスの名に相応しいとは言えませんね」

 ワイマーが嫌味な口調で、他の連中は倒したと告げてくる。

「ガキどもめ。調子に乗るな」

 だがリーダーの攻めはさらに激しくなった。

 他の連中に比べてリーダーの技量は頭ひとつ以上高い。彼が負けることは他のメンバーの敗北よりも重いのだろう。

 術技のフェイントのような規則スレスレの技を使ってくるのも、絶対に負けられないという気概の現れか。だとすると……。

 ガシッ

 俺は煌糸の流れを秘めた拳を真っ向から受け止めた。リーダーの表情に焦りが浮かぶ。

 そのまま大きく振りかぶり、リーダーの連打に右ストレートを捻じ込む。顔面を捉えた拳に耐え、リーダーが俺を睨み返す。フックが俺の頬を打ち抜いたが構わずボディブローをお返しする。

 その場で足を止めての殴り合いが始まった。

(この男は戦いながらも冷静だ。仲間のために踏ん張っているのなら、ここで術技は使わない。

 そんな小細工は通じないとわかれば、残った選択肢は真っ向勝負だ)

 そう確信した俺がさらに間合いを詰めて拳を繰り出すと、リーダーも負けじと半歩にじり寄って殴りかかってくる。

「この野郎……見た目の割に……」

 リーダーの苦しげな声。

 俺より一回り大きなリーダー相手だが、俺にはジョセフさんから学んだ技がある。

 伏足絶歩と八足断歩を一体にした歩法から生み出す威力。それを一つ一つの拳に乗せ、打たれたなら相手の威力と相殺させる。

 そうして引かずに殴り合い続け息を止める限界に耐えて拳を交わし続けてついに、

 ズドン

「ガハッ」

 鈍い音と共に脇腹に減り込んだ俺の拳に、リーダーが息を吐き出した。

「こん……ちくしょ、う……」

 それでも俺の肩に手をかけ倒れまいとしながらも、ずるずると床に倒れ込む。

「勝負あったな。学生程度と思っていたが、やるじゃないか」

 見物人の中から声が上がり、俺たちは歓声に包まれた。

「おい、俺たちの負けだ。

 お前らにちょっかいをかけたのは謝る。

 すまなかったな」

 息を整えながらリーダーが右手を差し出してくる。

 俺はその手を取り、彼の身体を引っ張り上げた。

「あなたも強かったよ。あんなやり方は経験したことがなかった。それに、仲間のために踏ん張っているのはわかったよ」

「俺がいねぇと何もできねえ奴らだからな。

 さて、コパパを狩っちまった始末をつけてくるぜ」

 リーダーは最後に殴られた脇腹をさすりながらニヤリと笑い、俺に背を向けてカウンターへと向かう。

 彼も自分たちが狩った獲物がどんな代物なのか薄々わかっていたようだ。しかし、狩って拠点に持ち込んでしまった以上はどうにもならず、開き直ってなし崩しにすることを選んだというところか。

(俺たちは余計なことをしたかもしれないな)

 少しばかり申し訳ないことをしたと思った、その途端

「ココココこぱぱを? コパッパッをわかかか狩ったですとおおお!?」

 吃りながらも激しく怒りの声を上げ、リチャード卿が駆け寄ってきた。

もし面白いと感じたり続きが楽しみと思ったりしていただけましたら、お手数でも評価などいただければ幸いです。

たぶん、知命を超えたおじいさんが2分くらい小躍りして喜びます。

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