24 ボスとは…? ※グロテスク??な表現があります
【狼の威嚇】
近くで、大きな音が聞こえた。それは犬の鳴き声の様な…いや、狼の遠吠えの様な…。
それが聞こえた瞬間目の前から毒の塊が化物の方に飛んでいった。まるでなにかに跳ね返された様に。というかあれ跳ね返るような物なんだ…液って霧散じゃないのかよ…。弾力のある毒ってことか?
「え、あ、え?」
危機的状況を上手く飲み込めない俺はその場にボーゼンと立ち尽くすしかなかった。…が、先程のそれが何であったかはすぐにわかる。
「わ~跳ね返るんだ~」
わっふぅと鳴きそうな隣の犬。いや、狼は前足を目の上にして、跳ね返ったそれを眺めていたのだが、蠍蜘蛛のが動きそうになると、その手を何かを引っ掻くように動かした。
【狼の爪】
あんなに禍々しく、俺なんかでは絶対に勝てないであろう蠍蜘蛛が粉々に…いや、粉々では無かった。手足と胴体がバラされていただけで、辛うじて生きている。その証拠に緑色の液体がボタボタと流れているグロテスクなそいつの頭とギリ繋がっているであろう心臓がある様な場所は上下運動をしていた。多分呼吸があるのだろう。
「ぐ、うっ」
急激に吐き気がこみあげて来る。前も思ったが、モンスターと言え、余りにも無残な姿は無理だ。と言うか、モンスター退治は前のゴブリンさんから実は行っていない。生き物を殺るのがやはりきつく、コツコツ薬草とかで貰える報酬のレベルアップできる金平糖みたいなのとなんとか倒せるスライム様だけでここまで来ていた為に、久しぶりの絶対に血では無さそうな色の緑色の液体から何故か嗅ぎなれた血の匂いがするを体験した。あたりは血の匂いに包まれている事もあり、俺は…キラキラを出した。もう癖つきそう。
「キラキラキラキラ」
隣でシュヴァが不安そうに見てくる。大丈夫?どうしたの?なんで?そんな感情が表情から読み取れた。いや、まじでこれで何故俺は冒険者になれると思ったんだろう。
「大丈夫だから…」
カバンに入れていた水で口をすすぎながら安心させようとシュヴァに手を伸ばし頭を…でかすぎて無理!
「クゥーン」
手が伸びたのを察したのか、手に顔を擦りつけてくる動作に思わず笑みが溢れる。体だけ大きくなりやがって…。
「でかくなりすぎたよ」
って、ほのぼのしてる場合じゃない。あっぶねぇ…余りにもショッキングな映像が目の前で起きたため脳が勝手にお花畑に変換してた様だ。
「…うっし」
俺は自分の頬をバチンっと叩くと蠍蜘蛛に向き直った。直視するとまた吐きそうになるが、シュヴァが、ぎりぎりで生かしたのは俺の為だとわかるので、急いで弓を構える。もう、息も絶え絶えのそいつにとどめを刺すのは心苦しくもあるが…。
「すまない。今楽にしてやるから」
パシュッと飛んだ弓矢は目に当たった。それは致命傷では無かっただろうが、念の為、火矢にしていたので、そこから燃え広がっていった。…本当は俺が一撃でとどめをっとできれば苦しまず良かったのだが、俺の弓にそんな力は無かった。悔しいがやはり、弓矢ではなく、火の力でいったようだった。火の中から時々ギュァォと鳴き声が聞こえたが、俺はそれをただ眺め…。
「前世って平和だったんだなぁ…」
日本では、生き物を殺傷する事が少なかった事に感銘を受けた頃に大幅レベルアップ音が聞こえる。何故ベートベンの運命なんだ。俺の状況を受け入れろって事か!?
「帰りたい…」
それは家なのか、寮なのか、はたまた日本なのかはわからないが、自然と口から漏れていた。
「じゃぁ、帰ろっか!」
「へっ?」
シュヴァは獣姿のまま俺を尻尾でポンッと飛ばし背中に乗せる。
もふもふ…。幸せ。もふもふ…。高級絨毯よりもふわふわもふもふの背中は来たときと違いトントンとリズムを刻みながら歩きだしていた。…あー癒やされる…。俺はログアウトした。心身共に疲れがピークだったのか、恐怖からの安心なのか、今日はもう殺生しなくていいという思いのどれかからなのかわからないが、シュヴァの背中はたくましくすぐに意識は彼方に行っていた。
✽─✽─✽─✽─
「おにぃちゃん!!」
懐かしい響きが俺を呼んだ。あー妹だ…。乙女ゲー好きな俺の可愛い…くはあまりないが大事な妹。お前がこっちに来てたら俺より上手くやったんだろうな…。喜んでさ。ん?こっち?ってどっちだったっけ…?それよりも呼ばれてたな…
「あ?」
どうかしたのかっと優しく聞くつもりだったが俺から出たのは無難な返信だった。あれっとも思ったがそういえばいつもこんな感じだなとすら感じる。嫌に懐かしい感じに少し違和感を覚えたが、次の1言でこれが夢であることがわかった。
「ソレ! 早く殺して!!」
妹が、蜘蛛を見て、そう言った。俺の妹はたくましく蜘蛛を見ても俺よりビビらない。なんならゴキも蜘蛛も何だって俺が触れない虫達でさえ、ヒョイッと掴んで外へリーリースーとかって放り投げる様な子だ。我が妹ながら俺より男らしいな。
そんな妹が蜘蛛を見たくらいで騒ぐはずも殺せとも言うはずがない。まぁ、夢だしっと足を蜘蛛の方に向けて…立ち止まった。
「あー無理」
耳元からギュァオとした音が聞こえた気がした。それは苦しそうな声で、何故か目の前の蜘蛛から聞こえる気がする。
「お兄ちゃん?」
妹が不思議そうな顔でこちらをのぞき込んでいる。
「ごめんな」
俺はそんな妹に向かってふっと微笑んだ。もう、生き物はむやみに殺せないな…。
生きる為には仕方がないのだが…そうじゃない物は俺には荷が重い。そもそもなんでモンスターでレベルアップなんだよ可哀想だろ…。殺らなきゃ殺られるから? それでも俺は…現代日本という殺傷の無い国に生まれた…人だろうと動物だろうと殺さなくてよいそんな国に生まれていた…この国とは…
「価値観が違うんだよ!!!」
叫びながら目が覚めたそこは、日本でも寮でも家でもなかった。




