23 乙女ゲームとは思えないダンジョンさん
「ここ…どこここぉぉぉぉ」
おーぉーぉー。やまびこのように洞窟内に俺の声が響いた。
「ん? 死の泉ダンジョン?」
死の泉って…どこ!? え、ダンジョンに泉とかあるの?見渡す限りないけど…。
「泉なくね?」
「ボス部屋に毒々しい泉があってね~ダンジョン内は毒耐性持った魔物がいっぱいいるよ☆」
毒耐性って…俺の弓矢で致死率上げてくれるの毒なんだけど…。
「帰ろう!」
うん! すぐ、もう今すぐ!
「え~でももう…」
「もう?」
「そこの扉開けたらボス戦だったり?」
「そこって…」
ちらっとシュヴァが指差した方を見ると紫と黒でできた、俺の姿より随分でかい扉がある。禍々しすぎて、神々しく見えるそれは明らかに今の俺が突入したら死ぬことがわかるそれだった。
「ムリ、ムリムリムリ! 普通に死ぬから! いきなりボス戦はない!」
通りで他のモンスターいないなぁ~って思ったら最下層かよ! そら、他のモンスターも怖くて近づけないよね! 俺だって近づきたくなかったよ!
そもそも、シュヴァが使ってる場所の最下層って普通に無理じゃないか? デットorデットだよね。
「??」
何言ってるの?みたいな目で見てくるけど、俺じゃなくて、お前がおかしいんだからなぁ!!
「せ、せめて1階に戻してくれ?」
「なんで?」
なんでって、死ぬからですけど?
あ、まって、開けないで!
ギギギッと音を立てて扉は開かれる。中からは腐臭のような悪臭を煮詰めた様なものが流れ込んできた。
「俺って毒耐性あったっけ…? ハハハッ」
人間ってピンチになると笑うしかないって言うけど、絶対嘘だと思ってたよ。だらりと汗が流れる。もちろん熱くて出たわけではない。むしろその逆寒い。が、額から頬へ、頬から地面へと汗は伝って落ちていった。
ポタン。
「ハハッ ヤバすぎる」
ボスモンスターは扉から出れないって聞いたけど…本当かよ。出れなくてもやられそうだわ。
扉から覗ける奥にはサソリと蜘蛛を足していい感じに引いたような生物がいた。
脚いっぱいとかキモイし、牙あるし、サソリみたいな尻尾と手があるし、蜘蛛の巣にいるし…勝てなくね?
「扉って閉めれたっけ…」
あまりのヤバさに俺が思ったのは帰ろうでも、倒そうでもなくて、臭いものには蓋をしろだった。だが、無慈悲にもダンジョンの扉は押すタイプ。つ、ま、り、中にはいらないと閉めれない!
「引くタイプにしてくれよ!!」
「行かないの?」
why? 逆に何故行くと思った? 死ねと? 運命共同体だよね? 俺が死んだらお前もお陀仏よ?? いやまて、想像してみよう。もしかしたら勝てる見込みあるのかも。
その1、扉の外から撃ってみる。
ダンジョンのボスは結界内にいるため不可。逆に結界内から出る事もない。
その2、自分を信じてるバトル
もしかしたら俺のほうが強かったり…?
ちらっとボスを見る。シャー!!! 無理!! 絶対俺よりあっちのが格上だよね!?
その3、魔法…?
ヴァイスから魔力借りてみるか…? あいつの魔力すごいし勝てるかもしれない。でも嫌がるし…実力じゃない…。でも、蜘蛛の糸を火で燃やせれば…。
「…燃やせるかも」
毒矢が殺傷力高いのはたしかにそのとおりだけど、火矢がないわけではない。ダッシュして火矢を放てば蜘蛛の巣を焼き払えるかもしれない。
普段の俺なら絶対に行けるとは思わない場面だが、恐怖は人の判断能力を鈍らせるらしく、俺は逆にハイになっていた。蜘蛛の巣燃やす、サソリグモに引火、燃える=死ぬ!
「よし、行くか!」
「うん」
もちろん、そんなに簡単に行くわけないのだが、シュヴァの良い返事も相まって意気揚々とボスフィールドへ入る。フィールド内は禍々しく、蜘蛛の巣だらけだった。真ん中に紫色でグツグツと煮え立って煙がでている。その上には一際でかい蜘蛛の巣があり、その上にでかいサソリのような蜘蛛の様な化物がいた。
口から見える無数の牙はもぞもぞと動き、俺へ向かってハサミを構え、8つの目がぎょろぎょろと見てくる。尻尾は2つあり、ハサミを別として脚は6本。いや、ハサミの下から出ている小さいものを合わせると8本あった。そして2つの尻尾の間に針のような太い何かがある。十中八九あれが、蜘蛛の巣を作るためのものだろう。
「蜘蛛とサソリって先祖が同じって聞いたことあるけど、両方取りって…」
蜘蛛って天敵が多くて上に行ったんじゃないのかよ。サソリ並みなら、天敵いないだろ。アレか、地上は制覇なり、次は上だってか!
俺は蜘蛛ではなく巣に向かって火矢を放つ。火矢はちゃんと蜘蛛の巣に引火してくれた。巣が少し燃え広がりそうになる。
「よし! 火耐性とか持ってたら終わりだと思ったけどいけそう!」
とりあえずこれで巣なくなるよね…? ついでに炙り焼きとかどうですかね?
しかし、俺の考えをあざ笑うかのように、ボォっと燃え広がる火を見てサソリグモはビュッと尻尾から何かを出した。
それが毒液だと気づくのには数分かかった。なぜなら…。
「火が消えた!?」
俺にとってはそちらのほうが重要だったからだ。出たのが水でも液でも何でもいい。消しちまうなんて…。
「ありかよ!」
もう一度火矢を撃とうとしたその時、ビュッとその液が沢山飛んできた。
「学習能力も高そう~」
あまりの速さに避けることもできず、のんきな考えが出てしまう。RPG系のゲームなら協会で復活とかあるのになぁ。人間死ぬときは走馬灯を見るらしいが、俺にはないらしかった。突然死なんてこんなもんだろう。




