15 フゥリール
本当に勘弁して欲しい。あれから例の後輩に付きまとわれている。ただでさえ、こっちには手当たりしだいに喧嘩を売る爆弾がいて、しかも、俺は早急にレベルを上げないといけないのに…。
「はぁ…。唯一の救いは別学年ってとこか」
「どしたの?」
とても無邪気に聞いてくるが、原因はお前にもある事を自覚してほしい。
最初に彼が来たのはぶつかった次の日だった。
「ヴァイス先輩いますか?」
その時、俺の名前を聞いて俺より先に反応する奴はもちろんいたわけで…。
「何の用?」
後輩に向かって、しかも未来の王候補に向かってシュヴァは思いっきり威嚇していた。恥ずかしいからやめてくれ。そんな俺の願いも、周りの余計なこと言うんじゃないぞの空気もすべてぶち壊した返答をしたのはフゥリールの方だった。
「誰っすか? あ、その髪の色ってシュヴァ先輩ですよね? ヴァイス先輩と対の様にいつも一緒にいると噂の。へー…人間ぽくないですね」
「あぁ?」
まさに一触即発。感がいいのか頭がいいのか知らないけど、こうも確信的なのは心臓に悪い。女だとバレそうなので、もちろん近づくのはNGだ。まぁ、心配しなくても事務所NGが入るだろ。
「まぁ、どうでもいいです。僕はヴァイス先輩に興味あるので。」
シュヴァのNGの前にいつのまにか近くまで来ていたフゥリールに、腕を捕まれる。
「え?」
「あ、待て!」
「いーやーですよー」
こうして腕を引かれ、どこかに連れて行かれることになった。巻き込まないでくれ。いや、今回は自分が巻いた種か。
「ちょっと痛い」
無理やりだったので俺は不機嫌そうに答える。すると、ピタッとその場で止まり、すぐに手を離してくれた。
「ごめん。シュヴァ先輩を巻きたくて…」
素直に謝れると気持ち悪いな。しかし、俺の事が人として好きになってるなら仕方ないか。
「まぁ、許してや…」
「それにしてもヴァイス先輩の周りは面白い方ばかりですね」
それは玩具を見つけた子供の目に、見えた。いや、そのものだった。
「面白い。入学前は退屈だなって思ってましたけど、なんだか楽しくなりそうですね」
笑顔が不気味である。
「なんで俺なんだよ」
「なんでって…初めはあんまり興味ありませんでした。でも、昨日目立ってて、しかも王の話しに凄い顔してたから、何か知ってるのかなって。最初の興味はそれだけですかね?」
ぐっ。昨日の自分を殴りたい。あんなに動揺したせいで面倒くさい奴に目をつけられてしまった。
「俺は何も知らない。ただ気分が惡くなっただけだ」
とりあえず誤魔化すが、時すでに遅い。一度興味を持たれるとアウトだった。
「もういいんですそこは。先輩って周りも面白いですよね?」
いいんですって言うならそっとしておいてくれ。
「え?」
「人の色としてはあまりにも黒すぎるシュヴァ先輩とか。まぁ、聖女様などの異界の方は黒いと言いますから、シュヴァ先輩も異界から来た勇者とかなんですかね? それにしては闇ぽいですけど…」
全く違うが、遠くもない。これが真の天才なのか?
「それに双子のリディア嬢もなんか怪しいんですよね。違和感だけですけど」
なんか、きもちわる…ゲフンゲフン。何でもないぞ。思ってない。なにも思ってない。
「後は優秀な兄に優秀な執事達ですか。完璧ですね。その中心の貴方は駄目駄目なようですけど。」
「なっ」
なぜ知っていると口がパクパク動く。
「調べれば調べるほど興味深くて面白い。僕、貴方に興味持っちゃったみたいです。おかげで毎日が楽しくて仕方ありません」
えぇ…。仮にも攻略対象がこんな狂気じみたストーカー野郎でいいのだろうか?
でも、考えてみればこのゲームちょっと歪んでるのかも…双子はシスコンだし、後輩変人。まともなのはマローネぐらいか? やべぇな。
俺はその時まだ見ぬヒロインちゃんに同情した。しかし、その時の事を今では後悔している。なぜなら、あれだけで終わるはずもなく、あれからシュヴァとは犬猿の中。なのにつきまとってくる。
出てきたヒロインちゃんについての情報収集とレベル上げをしないといけないのに、邪魔で、ヒロインに同情などしている場合では無いと気づいた。
「どうせ、ヒロインが来たらあっちに興味持つから…それまでの我慢!」
もはや早く来てくれ、早くひきとってくれという気持ちで一杯だった。まじで、邪魔しないから。頼む。
「疲れてるの?」
シュヴァが俺のおでこに手を当てる。
「熱とかないから」
それを払いのけると何故か不満そうだった。
「そう?」
「そっちこそなにそれ?」
シュヴァは何かをカキカキと書き出していた。俺が悩んでるときに本当になにそれ。
「お花見のリクエスト!」
「え?」
確かに、まだ桜は咲いており、お花見をするなら今週が限度だし、やりたいって言わないの珍しいとは思ってたけど…?
「俺何も聞いてないけど?」
「? レオが今週するって言ってたよ? ヴァイスも行くって」
まじで!? 双子め勝手に俺の予定を入れないでくれ。
「へーいい事聞きました。僕も行きますね」
そこにはひょこっと顔を表したフゥリールがいた。
「呼んでない」
「勝手に行くに決まってるじゃないですか」
ドヤ顔で告げるのはやめてくれ。そして来ないでくれと思うのだが、もちろん来るのだろう。前回と違い、マローネ様も来そうだし…何も起きないでくれと祈りながら当日を迎えた。
…憂鬱すぎる。




